判例データベース
契約社員契約期間中解雇・雇止仮処分抗告事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 契約社員契約期間中解雇・雇止仮処分抗告事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成21年(ラ) 第1972号
- 当事者
- その他抗告人 個人7名
その他相手方 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 決定
- 判決決定年月日
- 2009年12月21日
- 判決決定区分
- 一部認容(原決定一部変更)・一部却下
- 事件の概要
- 抗告人(第1審債権者)らは、平成18年6月以降相手方(第1審債務者)との間で有期雇用契約を締結し、S社の本件工場において化粧品の製造に従事していた。
相手方は、平成21年4月上旬頃、S社から発注を減量するとの通告を受け、これを受けて抗告人らを含め本件工場で働く全従業員との間で、期間を同月1日から同年5月31日までとする雇用契約を締結し直し、債権者らも同契約書に署名・押印した。相手方は、同月17日、抗告人A、同B、同C、同D及び同E(抗告人Aら)を含む22人の従業員に対し、事業の縮小等を理由に、同年5月17日付けで解雇する旨通知し、また同年4月13日頃、同年5月1日付けで抗告人F及び同Gを一般作業員へと変更する旨通知したが、同抗告人らは組合を通じて降格人事の見直しと、同年6月以降の労働契約については、同年1月1日から12月31日までの労働契約が有効と考えているため、新たに再契約することができない旨通告した。相手方は、5月分賃金の支払い時に未消化有給休暇の補償として、抗告人Aらに対し、2万9450円ないし13万2525円をそれぞれ支払った。
抗告人Aらは、契約期間の変更は、錯誤、詐欺、公序良俗違反に当たり、無効又は取消されるべきこと、有期契約期間途中の解雇は「やむを得ない事由」が必要であるところ、解雇の必要性、解雇回避努力、対象者の選定基準の合理性、事前の十分な説明・協議のいずれもないことから無効であることを主張し、抗告人F及び同Gは、本件降格は不当労働行為として無効であることを主張し、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めて仮処分の申立を行った。
第1審では、抗告人Aらの契約期間途中での解雇については無効と認めたものの、被保全権利は認められないとして、請求を却下したため、抗告人らはこれを不服として抗告に及んだ。 - 主文
- 1 原決定を次のとおり変更する。
(1)相手方は、抗告人Aに対し66万7275円を、同Bに対し47万6625円を、同Cに対し45万2793円を、同Dに対し45万2793円を、同Eに対し45万2793円を、同Fに対し64万3443円を、同Gに対し52万4287円を、それぞれ仮に支払え。
(2)抗告人らのその余の申立をいずれも却下する。
2 手続き費用は、第1、2審を通じてこれを2分し、その1を抗告人らの負担とし、その余を相手方の負担とする。 - 判決要旨
- 1 解雇の有効性
相手方が抗告人Aらに対してした解雇は、契約期間中の解雇であるから、やむを得ない事由が必要であるところ、S社からの発注額が、平成21年4月は1304万0225円であったが、翌5月は716万9172円に減少したこと、相手方が解雇に先立ち、上積み条件なしに退職希望者を募集したが応募者がなかったこと、相手方が解雇の対象者を選定する基準として、(1)入社半年以内の者と(2)出勤率の低い者から順に合計26名に満つるまでとしたこと、抗告人らが同基準の(2)に該当したことなどの事情は、これらをもってやむを得ない事由があるというに足りないものであることは、原決定の説示するとおりである。したがって、抗告人Aらに対する解雇は無効である。なお、相手方が、抗告人F及び同Gに対し、解雇の意思表示をしたと認めるに足りる疎明はない。
2 本件契約の有効性
相手方は、S社からの受注の減少が続くことを見込み、本件事業所に勤める従業員の約3分の1に当たる20名程度の従業員を削減するため、退職希望者の募集及び整理解雇を行うこととし、整理解雇の対象者が解雇の効力を争っても、当該従業員について雇止めとすることにより同年5月31日には確実に雇用関係を終了させる目的で本件契約を成立させたものと推認することができる。
抗告人らは、相手方が本件工場における就労者の雇用主になった平成18年6月以降、相手方と雇用契約を継続し、平成21年についても、既に前年の期間を1年間とする契約を更新して、雇用期間を同年12月末日までの1年間とする雇用契約を締結していたことが一応認められる。したがって、抗告人らはその期間の途中で契約期間を短縮する合意をしたからといって、同日までは契約が更新されるものと期待して当然であり、少なくとも、本件契約を締結することにより同年5月31日に雇止めされることを予期し得なかったことは相手方も認識していたと推認されるところ、相手方が本件契約を締結するに当たり、抗告人らに対し、契約期間の途中にその期間を変更する趣旨を十分に説明したことを認めるに足りる疎明はなく、むしろ、相手方の担当者は、就業時間の変更についての説明に重点を置き、契約期間変更の趣旨については曖昧な返答をするに留まったことが一応認められる。
以上の諸点を総合すると、契約期間を同年5月31日までと変更することが、抗告人ら従業員には現実にも著しく不利益となるにもかかわらず、相手方がそのことを抗告人らに告げずに本件契約を成立させたことは著しく不当であり、相手方が、抗告人らの意思に反して、本件契約後最初の期間満了の日である同年5月31日をもって更新を拒絶し、雇止めとして雇用契約を終了させることは信義則上許されないというべきである。
以上によれば、相手方が抗告人らについて同年5月31日をもって雇止めとすることはできず、抗告人らは同日以降も賃金請求権を失わない。
3 保全の必要性
抗告人らの平成21年6月1日から同年12月末日までの賃金については、1日の労働時間を7.75時間、稼働日数を同年6月は20日、7月は20日、8月は13日、9月は17日、10月は19日、11月は17日、12月は17日の合計123日とし、抗告人ら各自の時給額を基に算出して得られる額を基礎として、諸般の事情を考慮の上、その5割の限度で仮払いを命ずるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 99:その他 労働契約法17条1項
02:民法 90条、95条、96条、628条 - 収録文献(出典)
- 労働判例1000号24頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
横浜地裁 − 平成21年(ヨ)第403号 | 却下(抗告) | 2009年10月09日 |
東京高裁 - 平成21年(ラ) 第1972号 | 一部認容(原決定一部変更)・一部却下 | 2009年12月21日 |