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社団法人キャリアセンター中国派遣社員中途解雇事件

事件の分類
雇止め
事件名
社団法人キャリアセンター中国派遣社員中途解雇事件
事件番号
広島地裁 − 平成20年(ワ)第1412号
当事者
原告 個人1名
被告 社団法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年11月20日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
 被告は、労働団体と広島県経営者協会会員を中心とした企業により、高齢者の就業支援を主たる目的として公益認定された社団法人であり、その主たる事業は、高齢者の就業機会を確保、提供するため、無料の職業紹介事業及び労働者派遣事業を行うことである。

 被告とM社とは、平成14年9月、被告(派遣元)がその雇用する労働者をM社に派遣する労働者派遣基本契約を締結したところ、原告は平成19年3月9日、被告との間で労働契約を締結し、通訳・翻訳業務を目的としてM社に派遣された。その後、原告と被告とは、雇用期間を同年6月1日から10月31日までとする派遣労働契約を締結し、更に雇用期間を翌11月1日から平成20年10月20日までとする派遣労働契約を締結して、原告はM社に派遣されて通訳業務等に従事していた。

 被告は、平成20年4月7日、原告に対し電子メールにより、M社から業務縮小のため同年5月31日付けで派遣契約解除の連絡があったことを伝えるとともに、同日付けで原告との労働契約を中途解約する旨通知した(本件解約通知)。原告は、同年6月6日、本件労働契約の解約に関して広島労働局長に対しあっせんの申請をしたが、被告が参加を拒否したため、あっせんには至らなかった。

 原告は、派遣労働契約も労働契約である以上、労働基準法上の解雇規制に服するところ、本件解雇は労基法18条の2、労働者派遣法に違反する違法なものであって無効であることを主張し、期間満了までの賃金134万4000円を請求するとともに、被告の不法行為による精神的苦痛に対する慰謝料40万円、弁護士費用20万円を請求した。

 これに対し被告は、登録型派遣労働者については派遣契約期間と雇用契約期間とは一体であって、派遣契約が解消されれば同時に雇用契約も解消されること、原告は本件解約通知を受けた後1ヶ月以上にわたり被告に何らの応答もせず、その間被告以外の派遣会社のもとへ新たな派遣先の紹介を求めて相談に行ったこと、原告は契約終了日と通知された日までに有給休暇を全て消化したことから、原告は本件労働契約解消を了承していたとして争った。
主文
1 被告は原告に対し、金134万4000円及びこれに対する平成20年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。

4 この判決は、第1項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件解約通知により本件労働契約は終了したか

 派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約の労働条件(労働契約の終了事由を含む)は、(労働者派遣法、労働基準法その他の法令の規制の下で)労働契約の内容によって定まるものであることは明らかである。そして、労働者派遣法は派遣元と派遣先との派遣契約において定めるべき契約内容(主として派遣労働者の労働条件に関するもの)を法定し(26条1項)、かつ派遣元は派遣労働者に対して当該派遣労働者に係るものを明示しなければならないと定めている(34条1項)から、派遣契約の内容中当該派遣労働者の労働条件に関するものは、これが明示された場合には、派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約の内容になるものと解される。

 被告は派遣契約の解消は当然の終了事由となると主張するが、派遣契約と派遣労働契約とは別個の契約であり、派遣労働契約は社会法である労働法規によって規律されるものであること、労働者の意思に基づかない労働契約の終了は即ち解雇であり、労働者に大きな不利益をもたらすものであることなどに照らせば、登録型派遣労働契約であるからといって、一般の労働契約の場合と異なり、当該労働者に関する派遣契約の終了が当然に派遣労働契約の終了事由となると解することは相当でないというべきである。

 本件において、原告と被告との間で、明示的に、派遣先であるM社から派遣契約解消の申入れがあった場合には本件労働契約が終了する旨の合意が成立したことを認定するに足りる証拠はないし、本件労働契約に適用される被告の就業規則にもそれに該当する定めはない。登録型派遣においては、派遣先の業務が終了した場合には、派遣元と派遣労働者との派遣労働契約も終了することが一般的に想定されているといえるから、当事者間の派遣労働契約において、派遣先の事情による派遣契約解消が派遣労働契約の終了事由となる旨の黙示の合意が成立していたと解する余地がないではない。しかしながら、労働者派遣法は派遣労働者保護のため、派遣元と派遣先との派遣契約における労働条件の約定について労働者に対する明示を要求しているところ、労働者に明示されず、かつ労働者に不利と認められる労働条件に関する合意の成立の認定は慎重かつ厳格になすべきである。本件においては、当初の契約期間の満了前の契約終了があり得ることが原告に明示されず、かえって、本件通知書には雇用期間が平成20年10月31日までであることのみが明記されていたのであるから、原告は派遣契約中の中途解約の可能性については明確に認識していなかったものと推認され、したがって本件労働契約締結に当たり、原告・被告に契約終了事由についての合意があったものとは認定できない。

 一般に、期間の定めのある労働契約を、その期間満了前に、労働者の意思に基づかないで解消させることは労働者に対する解雇であるから、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限り許されるものである。本件労働契約は派遣労働契約であるが、期間の定めがある契約であり、期間満了前の労働者(原告)の意思に基づかない契約解消は、やむを得ない事由がある場合に限り許されるものと解すべきである。

 M社と被告間の派遣契約の解消は、適法な解約権の行使と評価することができ、被告にとっては避け難い外的要因による契約の終了であったともいえるが、本件中途解約条項については原告・被告間の本件労働契約締結に当たって明示されておらず、これを前提とした合意が当事者間に成立していたとは認められないから、M社から個別契約の解約があったことのみで本件解雇のやむを得ない事情と評価することは相当でなく、M社による個別契約の解消が、その事業上の必要等からやむを得ないものであったか否かによって解約申入れの成否を判断するのが相当と解される。したがって、期間満了前における契約終了(解雇)がやむを得ないものであるかの判断においては、派遣元と派遣先を一体とした「使用者側」とみてその事由の有無を検討すべきである。

 原告の職務内容は日常業務に付随する継続的なものといえ、原告の派遣期間が次第に長くなっているのは、いずれも派遣先であるM社側の意向によるものと認められる。M社が原告に係る個別契約の解消を申し入れたのは、全社的な経費削減の方針によるものであることが推認され、少なくとも、本件労働契約に係る個別契約締結時点(平成19年10月末頃)においては到底予想し得なかったようなその後の経済状況の激変等やむを得ない事情によるものであったとまでは認められない。したがって、本件においては、期間の定めのある本件労働契約について、あえてその期間満了前に解消しなければならないようなやむを得ない事由を認めることはできないものというべきである。

 被告は、本件解約通知に対して約1ヶ月間原告が応答しなかったこと等をもって原告が本件労働契約解約の申入れを承諾したものと主張する。しかしながら、本件解約通知は電子メールによる単なる連絡であり、原告に対して明示的にこれに対する諾否の回答を求めるものでもないから、原告がこれに対して積極的に応答しなかったとしても、これにより、原告が自己に不利益な契約終了を承諾したものと解することはできない。また、一方的に契約解消を通告された原告が他の派遣会社に相談に行ったとしても、それを被告が自己に有利に援用し、原告の承諾を主張することも許されないものというべきである。更に原告の有給休暇の取得についても、それ自体権利の行使である上、被告から5月末での契約解消を一方的に通告された原告が、それまでに権利を消化しようと考えたとしても、原告の承諾と評価し得るものとはいえない。したがって、被告の本件解約通知による本件労働契約の終了は認められない。

2 原告の賃金相当額及び損害額 

 仮に原告が本件労働契約上の期間満了まで派遣労働に従事していたとすれば、期間満了までに134万4000円の賃金の支給を受けたものと認められ、本件解約通知による期間満了前の解約が認められない以上、被告が原告に対し、本件労働契約に基づき、上記賃金額を支払う義務がある。一方、上記賃金額の支払をしないことは本件労働契約上の被告の債務不履行であるが、一般に金銭債務の不履行による損害賠償は遅延損害金をもってなされるものであり、原告主張の精神的損害は、上記債務不履行と相当因果関係ある損害とまでは認められない。また、被告による解約通知とその後の賃金分の不払いが、直ちに原告に対する不法行為を構成するともいえない。したがって、原告の損害賠償請求は理由がない。
適用法規・条文
02:民法419条、628条、709条、07:労働基準法18条の2、99:その他 労働契約法17条1項、
11:労働者派遣法26条1項、34条1項
収録文献(出典)
労働判例998号35頁
その他特記事項