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日本郵便輸送臨時社員制度廃止事件

事件の分類
解雇
事件名
日本郵便輸送臨時社員制度廃止事件
事件番号
大阪地裁 - 平成21年(ワ) 第1056号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年12月25日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 原告は、平成7年9月1日、契約期間3ヶ月、勤務場所を近畿統括支店近畿運行管理センター、職種を大型運転士とする「期間臨時社員」としてN社(被告の前身)に採用され、以後平成20年9月1日から2ヶ月間の労働契約締結に至るまで契約更新を繰り返し、約13年間にわたってN社において勤務してきた者である(被告は平成21年2月1日にN社を吸収合併した)。

 N社の業務は、業務量の確実な予測が難しいという特殊性があること等から、非正規雇用に依存せざるを得ない状況にあったが、N社は、期間臨時社員の正社員化に向け、期間臨時社員制度を廃止して地域社員(正社員)制度を創設し、期間臨時社員の全員を原則として正社員に移行することとし、労働組合との協議を経て、(1)期間臨時社員制度は平成20年10月31日をもって廃止する、(2)期間臨時社員で地域社員を希望し試験に合格した者は全て採用することとした。

 N社近畿統括支店は、各営業所に対し、平成20年6月20日以降、地域社員制度等について説明するよう指示し、近畿運行管理センター所長は、同日原告に対し個別面談を行ってその内容について説明したところ、原告は、全国社員の募集ならば応じるが、地域社員であれば応じる意思がないこと、全国社員になれないのであれば、旧期間臨時社員制度での契約更新を希望することの意思を伝えた。これに対し所長は、全国社員にすることはできない旨回答した。原告は応募締切日(同月30日)になっても応募しなかったため、所長が応募の意思確認をしたが、原告は地域社員制度の条件に不満があるとして応募を拒否した。

 近畿統括支店長は、同年8月27日、原告に対し、期間臨時社員制度が同年10月31日をもって廃止され、それ以降更新はできないこと、同年11月1日以降については、契約パート社員への移行又は退職のいずれかを選択する旨記載した書面を交付した。原告は同年10月31日をもって雇止めとなったところ、同年11月4日、N社に対し本件雇止めの無効を主張するとともに、全国社員への採用を希望する内容の労働審判を申し立てた。

 原告は、本件雇用契約の終了は、N社による雇止めであるところ、原告はN社との間で長期にわたって契約更新を繰り返していることから、解雇権濫用法理が適用になるところ、雇止めに合理的理由がないとして、その無効を主張し、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
判決要旨
(1)期間臨時社員制度は、期間臨時社員が「期間臨時」とはいえない雇用状況にあるという問題意識を踏まえ、これまで身分の安定性に欠けていた期間臨時社員について、正社員に移行するという趣旨目的の下に導入されたものであること、(2)同制度導入、期間臨時社員から地域社員への移行については、N社と労働組合との間において、約半年間にわたって継続的な話し合いがなされたこと、(3)期間臨時社員が地域社員に応募した場合には、試験を受ける必要があるものの、原則として応募者全員を合格させる方針であったことが認められ、これらの点からすると、地域社員制度の導入に関しては、合理性が認められる。

 また、期間臨時社員に比して地域社員の方が、退職金、各種手当等の点において優遇されていると認められるが、個別にみると、地域社員には昇給、賞与がなく、全国社員に比べると有利な労働条件とはいえない面が窺われる。しかし、(1)地域社員は、期間臨時社員と比べると、月給制であること、地域社員の基本給は期間臨時社員に比して低いとはいうものの、各種手当が支給され、総支給額は期間臨時社員に比して高額であること、地域社員には退職金が支給されること、各種有給休暇が取得できることなど、全体的にみると、地域社員の労働条件は期間臨時社員のそれに比して有利と認められること、(2)そもそも全国社員は、既に正社員であった者であり、期間臨時社員からの移行制度である地域社員と全国社員の労働条件等を比較すること自体相当とはいえないことからすると、地域社員制度が不合理であるとはいい難い。

 更に、(3)地域社員制度への移行に当たっては、所長が個別面談を実施し、制度の内容を説明するとともに、意思確認を行ったこと、(4)原告は地域社員には応募しないで全国社員への採用を希望したこと、(5)その後も応募期限最終日、所長は再度原告に応募するか否かの意思確認をしたが、原告の態度は変わらなかったこと、(6)原告は、所長との個別面談の前から、労働組合員を通じて地域社員制度への移行に関する概要を聞いていたことをも併せ鑑みると、他の期間臨時社員と同様に、原告に対しても、期間臨時社員から地域社員への移行に関して、応募するか否かに関する検討の機会が保護されていたと認められる。

 原告は、地域社員制度は飽くまでも暫定的なものであり、平成20年10月31日時点で、地域社員か退職ないしパート社員としての契約かの選択を迫るのは違法不当である旨主張する。確かに、平成21年になって地域社員制度、全国社員制度は存在せず、運転手については「運転職」として統一されたことが認められるが、平成19年10月1日施行の郵政民営化法等による一連の合併等に伴って人事労務関係の諸制度に関する見直しが行われたことが認められ、このような短期的かつ抜本的な変化については、地域社員制度への移行を検討し、具体的な移行作業に入った時点(平成19年6月)において、およそ予想し難いものといわざるを得ない。そうすると、結果的に、現在地域社員制度が廃止されていることをもって、同制度が暫定的なものであり、同制度への移行が不合理不適切であったとはいえない。

 また原告は、平成20年11月1日以降は、地域社員に応募しなかった者のために、期間臨時社員制度を当分の間存続させることもできたはずであり、本件雇止めが違法であると主張する。しかし、(1)地域社員制度への移行は不合理なものとはいえないこと、(2)移行に当たっては、所長が個別面談を実施し、地域社員制度に関する説明を行っていること、(3)所長は原告に応募するか否かの意思確認をしていること、(4)必ずしも地域社員が不利益な労働条件であるとは認められないこと、(5)地域社員制度への移行開始段階(平成20年6月から10月時点)において、地域社員制度及び全国社員制度を廃止して運転職制度へ移行することが予見できたとは言い難いことの点が認められ、更にN社は期間臨時社員に対して、地域社員への移行のほか、パート従業員としての雇用継続の選択肢も用意していたことをも併せ鑑みると、原告について、平成20年10月31日をもって期間満了を理由に雇止めにしたことが違法とは認められない。

 以上のとおりであって、期間臨時社員制度を廃止し地域社員制度へ移行することには合理性が認められること、原告を含め期間臨時社員が地域社員に応募することによって被る不利益がほとんど認められないこと、同移行に関しては原告に対する検討の機会が与えられていたこと、原告には地域社員に応募する以外にパート従業員になることも可能であったこと等諸般の事情を総合して勘案すると、本件雇止めには客観的な合理性があり、社会通念上相当であると認められる。

 以上の次第で、原告と被告(N社)間の雇用契約は、平成20年10月31日、期間満了により終了している。
適用法規・条文
99:その他労働契約法16条
収録文献(出典)
労働経済判例速報2069号3頁
その他特記事項