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社有車保育園送迎等解雇控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
社有車保育園送迎等解雇控訴事件
事件番号
東京高裁 - 平成21年(ネ) 第1800号
当事者
控訴人 控訴人兼被控訴人 T社
被控訴人 被控訴人兼控訴人 個人1名
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年01月21日
判決決定区分
控訴認容、附帯控訴棄却
事件の概要
 控訴人兼被控訴人(控訴人・第1審被告)は、労働者派遣事業等を目的とした会社であり、被控訴人兼控訴人(被控訴人・第1審原告)は平成17年1月、控訴人に営業職として期限の定めなく雇用された者である。
 控訴人は、平成19年8月24日、以下の理由を挙げて、解雇予告手当を支払った上で原告を解雇した。
(1) 営業所へ出社せずに直接派遣先に出社できる場合は、朝営業先に出社できるのは、営業所に出社しては指定時刻に間に合わない等の場合に限られているにもかかわらず、被控訴人はその必要もないのに直接派遣先に出社し、所長が命令しても聞かなかった。
(2) 被控訴人は、営業先は2つが主なもので、所長が、営業活動ができないならば人事部に異動する旨命令したところ、「自分は営業職」と命令を拒否した上、新規の営業活動をしなかった。
(3) 被控訴人は、新規営業活動の命令が出された際、役員の報酬が高すぎるとして、自分は給料以上の仕事はしないと命令を拒否した。
(4) 1週間、所長も同行するとの命令を拒否した。
(5) 被控訴人は、平成18年10月から同19年5月までの間に新規派遣先を1件も獲得できず、所長が業務内容の改善を指示しても「俺のやり方でやる」と命令を拒否した。
(6) 所長は、被控訴人に対し、監督官庁から指導されたセクハラ防止を周知徹底すべく、各派遣社員に説明した上で、説明を受けた旨のサインをもらって回収するよう指示したが、被控訴人はこれを怠ったほか、所長や社員らの前で、所長の仕事ぶりは問題があり、社長に告げて良いかなどと脅迫じみた発言をした。
(7) 被控訴人は、上司を「爺」「お前」などと呼び、コピー機などを叩いたり蹴ったりしたほか、所長に注意されると、社長を「ジージー」と呼び、「俺は関わってきた上司は全て潰した」「前の会社でも気に入らない事務員を何人も辞めさせた」などと言って、協調する姿勢を全く見せなかった。
(8) 被控訴人は、パソコンに「ワープロ」と表示し、「何がパソコンだ」と言いながら、これを損壊した。
(9) 被控訴人は社有車を貸与されていたところ、仕事以外での使用は禁じられていたにもかかわらず、これを子供の保育園の送迎に利用した。
(10) 被控訴人は、貸与された社有車を毀損した。
(11) 被控訴人は。所長の度々の注意を無視して、キャビネットを乱暴に扱ったりした。
(12) 被控訴人は、平成18年初め頃から、元妻から訴えられた子の親権及び慰謝料に関する訴訟のため、書類を勤務中に作成したり、控訴人のパソコンとカラーコピー機を無断借用して夏祭りのポスターの作成等をした。
(13) 被控訴人は、正当な理由のない遅刻・早退が多く、特に平成18年1月に元妻との訴訟が係属してから、しばしば遅刻・早退を繰り返し、所長の注意を無視した。
(14) 被控訴人は意図的に派遣社員の源泉徴収票のコピーを破棄した。
(15) 被控訴人は、自動車燃料費を自分の自動車に使用したことを隠して、その燃料費8000円強を不正に取得した。
 被控訴人は、上記解雇事由とされている事実は、存在しないか、所長の許可を得たものであるとして、本件解雇の無効と、慰謝料300万円、未払賃金・賞与等551万円余、弁護士費用105万円の支払いを請求した。
 第1審では、解雇事由とされた事実の内容からみて、解雇は重きに失するとして、本件解雇を解雇権の濫用として無効とするとともに、控訴人に対し、未払賃金、慰謝料、弁護士費用等合計576万円余の支払いを命じた。これに対し控訴人は、これを不服として控訴する一方、被控訴人は慰謝料等の額の引上げを求めて附帯控訴した。
主文
1 本件控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
判決要旨
 当裁判所は、本件解雇は有効であり、被控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。 
 控訴人主張に係る解雇理由(1)について、被控訴人は、妻と離婚し、1人で子供を養育していたこと、上司である営業所長は、O社との取引がしばらく落ち着くまでの間、派遣先会社へ直行することを認めたが、その後何度も朝営業所へ出社するよう指示したことが、その指導メモに記載されてお
り、その記載は全体として信用できる。控訴人は、直接派遣先に行くことによって派遣先に誠意を見せることができると主張するが、かような営業上の判断は所長が行うものであり、被控訴人としては所長の指示に従うべきであって、上記行動を正当化できるものではない。してみれば、被控訴人の上記行動は、控訴人の組織としての秩序を乱すものといわざるを得ず、就業規則違反に該当する。
 (2)について、被控訴人が必ずしも新規営業をしていなかったと評価することはできないが、所長の告知は正式な配転命令とは認められず、被控訴人に奮起を促す言葉に過ぎないものと認められるが、これに対する被控訴人の反応は、上司の指導に対する言動としては度の過ぎた反抗的なものであって、就業規則に反するものであり、解雇理由の事実を認めることができる。
 
(3)について、被控訴人は所長から新規営業活動をすること等指導された際、「こんな給与じゃ馬鹿馬鹿しくてやってられない」と発言したことが認められ、かかる発言は上司の指導に対するものとして非常識な内容及び表現であって、就業規則に違反する。
 (4)について、上司が、被控訴人の営業活動に疑問を抱き、同行したい旨申し入れたところ、被控訴人がこれを拒否した行為は、それ自体組織における秩序を乱す行為であり、就業規則に違反する。
 (5)について、被控訴人が新規の派遣先を獲得する努力を怠っていたとの控訴人の主張は採用できない。
 (6)について、被控訴人は所長の指示に従って行動しなかったばかりか、指示すら受けていない旨主張したこと、他の従業員の面前で所長に対し、「所長のすべてを社長に話してもいいんですね」と脅迫じみた発言をしたことが認められ、これらの行為は就業規則に違反する。
 (7)について、就業規則に違反する事実は認められない。
 (8)について、被控訴人の行為は、備品を破損する非常識なものであって、就業規則に違反することは明らかである。
 (9)について、解雇理由と認められる。
 (10)について、就業規則に違反するような事実は認められない。
 (11)について、被控訴人は、所長から度々注意されたにもかかわらず、自己の使用する3段式キャビネットを乱暴に扱ってキャスターを2個破損したことが認められ、就業規則違反に該当する。
 (12)について、被控訴人の私用行為につき、所長が明確に承認や許可を与えていたと認めるに足りる的確な証拠はないから、就業規則違反に該当するというべきである。
 (13)については、解雇理由は認められない。
 (14)については、解雇理由は認められない。
 (15)については、被控訴人の各給油が社有車への給油であったとすると、夏場でエアコンを使用し、燃費が悪くなっていた可能性を考慮に入れたとしても明らかに不自然であり、同給油は私有車への給油であったと認めざるを得ない。そうすると、被控訴人は、少なくとも、平成19年7月30日及び同年8月22日に私有車に給油したにもかかわらず、これらの領収書を控訴人に提出してガソリン代を不正に取得したものと認められる。してみれば、被控訴人の上記行為は、就業規則違反に該当し、解雇事由に該当する。
 被控訴人は、控訴人主張に係る解雇理由のうち、(1)(朝営業先に直行すること)、(3)(職務怠慢を正当化する発言)、(4)(上司の営業への同行の拒否)(6)(社内での脅迫的な言動等)、(8)(パソコンの破壊行為)、(9)(社有車の職務外使用)、(11)(備品の乱暴な取扱い)、(12)(勤務時間中の私用行為)及び(15)(ガソリン代の不正請求)の事実が認められる。
 以上によれば、被控訴人の上記認定された各行為は、本件就業規則違反に該当するといえ、これは客観的に合理的な理由があるといえるので、更に被控訴人を上記理由により解雇することの社会的相当性の有無をみるに、被控訴人は上司による多数の指導に対し様々な形で執拗に度の過ぎた反抗的な対応その他を重ねたほか、社内秩序の意味を十分に理解していた筈の被控訴人が就業時間内に会社の事務機器を私用に用い、社有車を職務外に利用し、あまつさえガソリン代の不正請求を重ねるなどの諸行状に照らして、控訴人において被控訴人に対しなお教育指導を重ねて社内で円滑な仕事を行わせるよう努めるべきであると認めるに足りる格別な事情も窺えない本件においては、本件解雇が社会通念上も相当なものと認めざるを得ない。したがって、控訴人の被控訴人に対する本件解雇は権利の濫用であるとは認められない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2065号32頁
その他特記事項