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国鉄鹿児島自動車営業所控訴・同附帯控訴事件

事件の分類
その他
事件名
国鉄鹿児島自動車営業所控訴・同附帯控訴事件
事件番号
福岡高裁宮崎支部 − 昭和63年(ネ)第102号、福岡高裁宮崎支部 − 昭和63年(ネ)第193号
当事者
控訴人個人2名

被控訴人個人1名
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年08月18日
判決決定区分
控訴棄却
事件の概要
 被控訴人(附帯控訴人・第1審原告)及び控訴人(附帯被控訴人・第1審被告)らは、いずれも国鉄の職員であり、被控訴人は国鉄九州総局鹿児島自動車営業所の運輸管理係で国労の門司地本中央支部自動車分会鹿児島地区協議会議長、控訴人Aは同営業所所長、控訴人Bは同営業所首席助役であった。

 昭和60年7月23日、控訴人らは点呼業務を行おうとしていた被控訴人が着用していた国労の組合員バッチを外すよう命じたが、被控訴人はこれに従わなかったことから、控訴人らは被控訴人に対し、同日以降8月30日までの10日間にわたり、営業所構内に降り積もった火山灰を除去する作業(降灰除去作業)を命じ、これに従事させた。

 被控訴人は、降灰除去作業は労働契約上の業務ではないこと、本件業務命令は被控訴人が組合員バッヂ離脱命令に従わなかったことによるものであるところ、同命令は団結権に対する不当な介入であり、被控訴人は組合員として従わなかったのは当然であること、同命令は離脱命令に従わない被控訴人に対して懲罰的な報復を加えて、他の組合員に対する見せしめとするためであることなどを主張し、控訴人らの本件業務命令は不法行為を形成するとして、控訴人ら各自に対し慰謝料50万円を請求した。

 第1審では、控訴人らによるバッヂの離脱命令自体は正当と認めたものの、本件降灰除去作業は懲罰的に命じたものであって不法行為を構成するとして、控訴人ら各自に対し慰謝料10万円の支払いを命じたことから、控訴人らはこれを不服として控訴するとともに、被控訴人は賠償額の引上げを求めて附帯控訴に及んだ。
主文
1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の各負担とする。
判決要旨
 控訴人Aは、自動車部から国労バッヂ離脱命令に従わない者に対しては本来の業務から外すよう指示を受けていたが、その場合に如何なる作業に従事させるべきかについてはなお決定すべき権限を有していたこと、控訴人Bは所長を補佐し、営業所の助役を統括する立場にあったこと、T助役はハンドマイクを携帯して被控訴人の本件作業を監視していたほか、控訴人Bも巡視の際被控訴人に作業を励行するよう注意を与えるなどしていることの事実が認められ、これによると、被控訴人を本件降灰作業に従事させるについては、所長である控訴人A、首席助役である控訴人Bほか助役ら管理職においてある程度の協議検討がなされていたものと推測することができる。そして控訴人Bが被控訴人に対し作業を励行するよう注意していることを併せ考慮すると、控訴人Bは控訴人Aと共同して被控訴人に本件降灰除去作業を行わせたものということができ、したがって、本件業務命令及びその実施の態様が権限の濫用等により不法行為を構成する場合には、控訴人Bも共同不法行為としてその責任を免れないものというべきである。

 降灰除去作業は、職場の環境を整備して、労務の提供の円滑化・効率化を図るために必要なものであるから、労働者にとって労務契約上の付随的義務であると認められる。しかしながら、降灰除去作業は、それ自体かなりの肉体的苦痛を伴うものであるから、使用者がこれを労働者に命ずるについては、その作業量、作業時間、作業人員、作業方法及び本来の業務との比較考量などを考慮して、作業が徒に苛酷なものにわたらないようにすべきであって、このような考慮を欠いて、必要性及び相当性の範囲を超えて徒に苛酷な作業を行わせたり、懲罰、報復等の不当な目的で行わせたりすれば、それは業務命令権の濫用として違法なものとなると言わなければならない。

 これを本件についてみると、被控訴人が行わされた降灰除去作業は、約1200平方メートルの構内を7月、8月の暑さの中、長時間にわたるものであって、しかも10日間にわたって1人で行わされたのであり、その作業方法、服装などについても格別の配慮をされることもなかったばかりか、作業中控訴人らの監視下に置かれていたことなどに照らすと、本件降灰除去作業は被控訴人にとってかなりの精神的・肉体的苦痛を及ぼすものであったと認めることができる。そして、被控訴人は降灰除去作業以外に仕事がなかったものではなく、運輸管理係としての日常業務があったことが認められるから、殊更被控訴人に対してのみ降灰除去作業を命ずべき必然性はなかったというべきであり、これに反する各控訴人ら本人尋問の結果は採用できない。また、これまで降灰除去作業は外部の業者に委託するか、職員が数人で自主的に適当な時間これを行ったことはあるが、本件のような程度、態様において業務命令として1人の職員に1日中長時間にわたって行わせた例はなかったと認められるのであって、これらの事実に控訴人らが作業中の被控訴人を監視していたこと、被控訴人に清涼飲料水を渡そうとした同僚が控訴人Aにこれを止められたことなどの事実を合わせ考えると、本件降灰除去作業命令には必然性もなかった上、組合員バッヂの離脱命令に従わなかった被控訴人に対して懲罰的に発せられたものと認めざるを得ない。

 もっとも、組合員バッヂの離脱命令には一応の合理的理由が認められ、それに従わなかった被控訴人には職務専念義務に反する違法が認められるのであるが、右バッヂ着用が労使間の対立を日常業務の中に恒常的に顕在化させるものであるとはいえ、その業務阻害性の面においては低いものであることを考慮すると、その違法性の程度はさほど大きいものではなく、また労働者の違法行為については他に労務契約上定められた懲戒の手段によるべきであって、本件のようにかなりの肉体的・精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせるというのは業務命令権行使の濫用であって違法であり、不法行為を成立せしめるものである。
適用法規・条文
02:民法709条、719条
収録文献(出典)
労働判例582号83頁
その他特記事項
本件は上告された。