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大阪(観光バス会社)接客態度不良解雇事件
- 事件の分類
- 解雇
- 事件名
- 大阪(観光バス会社)接客態度不良解雇事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成4年(ヨ)第4498号
- 当事者
- その他債権者 個人1名
その他債務者 株式会社 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1993年12月24日
- 判決決定区分
- 認容
- 事件の概要
- 債権者は、昭和60年6月、観光バスの運送事業を営む債務者にバス運転手として雇用された者である。
債務者は、債権者に次のような非違行為があったとして、平成4年11月14日付けで、就業規則に基づいて債権者を諭旨解雇処分とした。
(1)債権者は、昭和62年7月28日、名古屋で交替運転手として乗務するよう業務命令を受けていたが、バスに乗り遅れて当該バスの運転を交替することができず、そのため債務者から出勤停止5日間の処分を受けた。
(2)平成元年12月12日、債権者が同僚Iと口論となり、Iの胸倉を掴んで突いたり引いたりした上突き飛ばして転倒させ、右肩挫傷、頸部捻挫の傷害を負わせた。
(3)平成4年1月23日、債権者はOに点呼を促されて反発して喧嘩となり、Oに暴行されて5日間の加療を要する傷害を受けて、Oは債務者に詫び状を提出した。
(4)平成4年7月13日、債権者は東名高速道路八王子バイパス付近で、前走車に追突し、前走車の運転手及び同乗者に傷害を負わせる交通事故を起こした。債務者は、時間外賃金を稼ぐために故意に首都高速で帰ろうとしたと主張するが、疎明資料はない。
(5)平成4年10月26日から27日にかけて、台湾からの団体旅行客を乗せて1泊2日の運転業務に従事したところ、債権者は荷物の積み卸しを手伝わず、同乗のアルバイトガイドと台湾人添乗員にこれをさせ、チップの額を聞いて「台湾の団体はケチだ」と大声で言った。また債権者が途中でガイドに道を聞くよう頼んだ際、ガイドがこれを渋ったところ、「アルバイトはドライバーの言うことを聞け」と叱りつけ、チップをガイドに渡さずに独り占めし、夕食代の処理を巡ってガイド、添乗員との間でトラブルを起こした。債権者はこれらの事実を否定するが、ガイドが泣きながら会社に電話連絡し、入庫前に帰宅したことからすると、相当激しいトラブルがあったと推認できる。
債権者は、本件諭旨解雇処分は解雇権の濫用により無効であるとして、従業員としての地位の保全と賃金の支払いを求めて仮処分の申立を行った。 - 主文
- 1 債権者が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
2 債務者は、債権者に対し、平成5年12月から本案の第1審言渡しに至るまで、毎月28日限り、金33万7143円の割合による金員を仮に支払え。
3 債権者のその余の申立てを却下する。
4 本件申立費用は、債務者の負担とする。 - 判決要旨
- そもそも諭旨解雇処分は、労働者の雇用関係を消滅させてしまうものであって、使用者が労働者に対して行う懲戒処分の中でも懲戒解雇処分に次いで重いものであるから、労働者が規律違反をしたと認められる場合であっても、右規律違反の種類・程度その他の事情に照らして解雇を相当とするような場合でなければ許されないというべきであり、仮に使用者が右相当性を逸脱して労働者を諭旨解雇処分にしたときは、当該解雇は解雇権を濫用したものとして無効であるというべきである。
このような見地に立って判断すると、(1)は、形式的には就業規則(所属長の許可なく濫りに長時間職場を離れたとき)に該当するといえるが、債権者は右事実に基づいて、既に出勤停止5日間の処分を受けており、これを解雇事由とすることは二重処分となり、社会通念上許されないというべきである。
(2)及び(3)については、就業時間中の職場内における同僚同士の喧嘩であり、就業規則(会社の風紀を害し又は秩序を乱したとき)に該当すると認められるが、(2)については、直後に債権者もIも何らの処分もされず、後日社長が両者を和解させ解決済みであること、(3)については暴行を振るったのはOであることからいって、これらの事実を解雇事由とすることは、社会通念上許されないというべきである。
(4)については、就業規則(職務怠慢により事故を発生させ業務に阻害をきたしたとき)の該当性が問題になるが、債権者には前方不注意の過失があったことが推認され、債権者に「職務怠慢」があったことは認められるものの、右交通事故により債務者が業務に阻害を来したとの疎明はない。
(5)については、添乗員に対してチップを強要して、台湾からの旅行客に対し「ケチ」と大声で言ったことからして、就業規則(会社の名誉、信用を失墜せしめる行為をしたとき)に該当すると認められる。そして、債権者は同僚ともトラブルを起こしやすく、弱い立場にあるガイドを叱りつけたり、荷物のバスへの積み卸しにつきガイドや添乗員を全く手伝わないなどの事実も認められ、観光客に対する十分なサービス精神や接客マナーが要請される観光バス会社の運転手としては適格性を欠く面が見受けられ、債権者が添乗員に対しチップを強要して、旅行客に対し「ケチである」と大声で言ったことを捉え、債務者が債権者を諭旨解雇処分にしたことも、あながち理由のないことではない。
しかしながら、他方、就業規則においては、懲戒処分として、諭旨解雇及び懲戒解雇以外に「譴責、減給、出勤停止、停職」等の処置が定められており、本件において、債権者に認められる規律違反行為は、前記認定の程度のものであり、右規律違反行為の態様等を考慮すると、債権者に対し、譴責、あるいは場合によって、減給、出勤停止又は停職の処分をするのは格別、債権者を諭旨解雇処分とすることは重きに失し、社会通念上相当とは認められないというべきである。
以上によれば、本件解雇処分は解雇権を濫用したものであり、無効というべきである。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例648号35頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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