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大阪府住宅供給公社専任管理人雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 大阪府住宅供給公社専任管理人雇止事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 平成17年(ワ)第8381号
- 当事者
- 原告個人4名
被告大阪府住宅供給公社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年07月13日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 被告は、昭和39年8月、大阪府全額出資により設立された住宅の建設、賃貸その他管理及び譲渡等の事業を行う公社であり、原告A、同B、同C及び同Dは、それぞれ、平成12年6月、平成9年7月、平成13年3月、昭和54年3月に被告に雇用され、住込みの専任管理人として住宅管理業務に従事していた。
被告の住宅管理規程には、専任管理人の雇用期間は原則として1年であり、勤務成績が良好と認められる者については、満70歳に到達する日の属する年度の末日を限度として雇用期間の更新ができると定められていた。
平成13年9月、財政が悪化した大阪府は、行財政改革の目標を掲げ、その一環として、被告は平成17年4月に住宅管理センターを統合し、公社賃貸住宅及び府営住宅を一括して管理することとし、公社賃貸住宅で実施されていた専任管理人制度を廃止し、巡回管理員を導入することとした。そこで被告は、平成16年4月1日付けの辞令において、平成17年4月以降の雇用の更新は行わない旨記載するとともに、専任管理人に対し数度の説明を行うとともに、新たに創設される巡回管理員に専任管理人を優先的に採用することとし、定年である65歳以上の専任管理人に対しても採用できる経過措置を設けて希望を募ったところ、21名中12名が希望したため、これを全員採用した。しかしその余の9名中原告ら4名はあくまでも専任管理人としての雇用継続を主張したため、被告は平成17年2月16日付けで、同年3月31日をもって原告らを雇止めする旨通知を行った。
被告は、平成17年3月30日及び31日に、原告らに対し空室・共用部分の鍵等の返還を求めると共に、原告らが契約期間満了により専任管理人でなくなり、公社の管理業務をできなくなった旨を記載したビラを原告が勤務している団地全戸に配布した。
これに対し原告らは、本件各通知による雇止めはいずれも無効であり、本件各雇用契約は継続しているとして、被告との雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金等の支払いと、違法な解雇通知及び交渉経過における被告の対応により精神的損害を被ったとして、慰謝料各100万円、弁護士費用各100万円を請求した。 - 主文
- 1 (原告4名)
原告らが、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 (原告A)
(1)被告は、原告Aに対し、平成17年4月から本件判決確定の日まで、毎月17日限り月額20万2850円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)被告は、原告Aに対し、平成17年6月から本判決確定の日まで、毎年6月30日限り及び毎年12月10日限り各8万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
3 (原告B)
(1)被告は、原告Bに対し、平成17年4月から本判決確定の日まで、毎月17日限り月額20万2500円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)被告は、原告Bに対し、平成17年6月から本判決確定の日まで、毎年6月30日限り及び毎年12月10日限り各8万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
4 (原告C)
(1)被告は、原告Cに対し、平成17年4月から本判決確定の日まで、毎月17日限り月額20万4000円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)被告は、原告Cに対し、平成17年6月から本判決確定の日まで、毎年6月30日限り及び毎年12月10日限り各8万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
5 (原告D)
(1)被告は、原告Dに対し、平成17年4月から本判決確定の日まで、毎月17日限り月額21万5500円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
(2)被告は、原告Dに対し、平成17年6月から本判決確定の日まで、毎年6月30日限り及び毎年12月10日限り各8万円及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、これを5分し、その2を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
8 この判決は、2ないし5項に限り、仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件各雇用契約における期間の定めの有無
専任管理人などの設置基準を定めた賃貸住宅管理人等設置要綱6条には、専任管理人の雇用期間として、「専任管理人及び巡回管理人の雇用期間は1年とする。ただし、勤務成績が良好であると認められる者については、満70歳に達する日の属する年度の末日を限度として、雇用期間の更新を繰り返すことができる」と定められており、また原告らに対し毎年交付されていた辞令には、「自4月1日 至3月31日」と記載されており、これらによると、本件各雇用契約は、始期を4月1日、終期を翌年3月31日とする1年間の有期雇用契約の更新が繰り返されたものであると認めることができる。
2 解雇に関する法理の適用の有無
本件雇用契約は、いずれも期間の定めのある雇用契約で、その更新が繰り返されたものであるが、原告Aは4回、原告Bは9回、原告Cは4回、原告Dに至っては25回にわたり更新されていることが認められる。原告らは、専任管理人が退職する際、前任者や在任中の者から後任として紹介されて採用され、これまで専任管理人で本人の意思に反して雇止めされた者はいなかったところ、これらの採用形態や業務内容によると、専任管理人の雇用は、公社賃貸住宅が存在し、一定程度の入居者がいる限り、継続することが予定されていたというべきである。
以上によると、専任管理人である原告と、使用者である被告との結びつきは強く、非常勤嘱託といっても、経済変動による雇用量調整の役割を果たすことが予定されてはおらず、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき契約であったということができ、本件各通知による意思表示は、実質上解雇の意思表示に当たり、その効力の判断に当たっては、期間の定めのない契約における解雇に関する法理が類推適用されるべきである。
3 本件各雇止めの効果
本件各雇止めは、原告らに帰責性があることを理由とするものではなく、専ら被告の経営上の事情に基づくことを理由とするものである以上、本件雇止めが有効であるというためには、(1)雇止めの必要性があったかどうか、(2)被告において、雇止めを回避する努力をしたかどうか、(3)雇止めに至る手続きが適正であったことを要すると考える。
被告は、大阪府の行政改革の一環として、住宅管理センターとの統合(本件統合)とそれに伴う住宅管理制度の変更が行われ、その結果、専任管理人制度が廃止されたのであるから、本件雇止めはやむを得ない旨主張するところ、確かに本件統合の必要性を認めることができ、専任管理人制度を廃止することになったことについても、その必要性を否定することはできないというべきである。しかし、そのことから直ちに、本件統合と同一時期に全ての専任管理人を雇止めしなければならない必要性に直結するといえるかは別問題である。すなわち、専任管理人制度の廃止が相当であったとしても、被告において、公社賃貸住宅に対する管理の必要がなくなったわけでなく、管理人のポストは残っていたといえるし、新しい巡回管理員制度の導入の時期を調整することや、雇止めを回避するその他の措置を講じることが可能である限り、そのような調整や措置を講じることなく、本件各通知により原告らを雇止めすることはできないというべきである。
専任管理人要綱によると「勤務成績が良好であると認められる専任管理人については、満70歳に達する日の属する年度の末日を限度として、雇用期間の更新を繰り返すことができる」とされているが、原告A、同B、同C及び同Dは、当時それぞれ、63歳、65歳、66歳、61歳であったことが認められる。ところで、本件統合の必要性が認められ、専任管理人制度を廃止するとしても、後任の補充をしないことにより段階的に廃止する方法も十分に考えられ、またそのような要請がなされていたことが認められる。
原告らの年齢を考えると、特に原告Bや同Cは、あと4、5年で70歳に達するわけであるが、仮に全員が70歳に達するまで雇用を継続することが困難であったとしても、一定期間(例えば5年間)、本件各雇用契約を継続することが可能であれば、より原告らに対し与える不利益の少ない形で専任管理人制度の廃止に至ることができる。すなわち、専任管理人制度の廃止が必要であり、専任管理人の雇用契約の更新を続けることができないとしても、雇止めの時期を調整し、これを延期することが可能であれば、雇止め回避努力を怠ったものとして、本件雇止めは無効となると解すべきである。
本件統合に伴う新しい管理員制度を実施するため、被告は24時間365日自動監視が可能な自動通報システムを導入したことその他巡回管理員制度の整備のための初期費用として合計3億7100万円を支出したことが認められ、これだけの設備を導入するに際しては一度に整備することが効率的である。しかし、巡回管理員の業務内容と専任管理人の業務内容は大きく異なるところはなく、巡回管理員が行うべき管理業務を従来の専任管理人が行ったとしても、そのこと自体による弊害が生じるとは思えない。本件統合に伴い、新たな管理員制度の導入のための初期費用があったことを理由に、専任管理人制度を一斉に廃止しなければならないという考え方は、やや硬直的に過ぎるというべきである。
被告は、専任管理人のうち巡回管理員への採用を希望する者については、優先的に採用することとし、年齢条件についても経過措置を設けたと主張するところ、確かに被告は専任管理人に対し、優先的に巡回管理員への採用を提示したことが認められる。しかし、巡回管理員の雇用条件は、週休3日制、月額13万7000円家賃半額負担であり、原告らは4万円から7万円近くの減収となり、これらの経済的不利益を考えると、雇止めの暫定的な回避が可能である以上、上記の提示をもって、本件雇止めを有効であると解することはできない。なお、原告らは既に高齢であり、年金を受給しているが、高齢であるから、あるいは既に年金を受給しているからというだけで、解雇に関する法理の適用に当たり、原告らを不利に扱うことはできないというべきである。
以上によると、本件において、原告らを直ちに雇止めする必要があったとは認められず、また被告において、原告らを雇止めすることを回避するための真摯な努力をしたともいえない。そうすると、協議が不十分であったか否か、手続過程に不適正があったか否か等について検討するまでもなく、本件雇止めは無効であり、原告らの請求のうち、地位確認を求める請求、賃金の支払いを求める請求は理由があるというべきである。
4 不法行為の成否(損害)
原告らは、雇止めされたことにより、精神的苦痛を受けたと主張するが、本件各雇用契約は期間の定めのある契約であることに照らすと、本件雇止めは結果として無効とされることになったものの、本件雇止めをしたことによってのみ、原告らに対して慰謝料を支払わなければならない程度の不法行為があったと認めることはできない。
原告らは、被告が、強硬な態度で原告らが管理していた鍵などの返還を求めたと主張するところ、被告が、本件雇止めが有効であることを前提として、原告らに対し、引継ぎのために鍵や関係書類等一式の引渡しを求めたことをもって、そのこと自体を違法ということができず、また、その際、原告らに対し、慰謝料の支払いを命じなければならないような言動があったと認めるに足りる証拠もない。
被告は、平成17年3月31日、原告らが専任管理人としての地位を失う旨を記載した内容のビラを団地の住民に配布したことが認められる。被告としては、雇止めにより、原告らが専任管理人としての地位を失うと考えていたが、原告らが雇用継続を主張し、管理人事務所から立ち退く様子も見せず、専任管理人としての業務を継続しようという姿勢を示していたという状況に照らすと、平成17年4月1日、巡回管理員による管理を実施する以上、新たな管理業務と競合することによる混乱を避けるため、原告らが勤務していた団地の住民全員に対し、被告が原告らを雇止めしたこと、その結果、専任管理人としての地位を平成17年4月1日以降失うという事実を指摘する必要があったというべきである。
以上によると、原告らの主張する事実において、原告らに対し慰謝料を支払わなければならないような不法行為の成立を認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例933号57頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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