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東京都自動車整備振興会雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
東京都自動車整備振興会雇止事件
事件番号
東京地裁 - 平成19年(ワ)第33970号
当事者
原告 個人1名
被告 社団法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年01月26日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 原告(昭和22年生)は、平成2年1月1日付けで、公益社団法人である被告との間で、「嘱託雇用契約書」により雇用契約を締結して技術講習の専任講師として採用され、個人加盟の労組である「全統一」に所属していた。なお、被告の同組合の従業員は、その分会を構成している。本件雇用契約は、当初平成2年1月1日から同年3月31日まで締結され、その後は年度ごとに1年契約を更新していた。

 被告は、原告に対し、平成19年9月21日、同年10月27日に満60歳に達し、雇用契約が終了する旨の通知書を交付した。

 これに対し原告は、雇用期間を1年間と定めてはいるが採用後は一貫して自動的に更新されてきたから、本件雇用契約は期間の定めのないものに転化していること、契約期間の途中に解雇することは「事業運営上やむを得ない時」に該当しなければならないところ、これには該当しないことを主張し、本件雇止めの無効を主張した。
主文
1 原告が被告との間で、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、平成19年12月から本件判決確定まで、毎月25日限り34万5355円を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 この判決の第2項は、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件雇用契約は期間の定めのないものと同視できるか

 本件雇用契約は期間の定めのある雇用契約であり、期間の定めのある雇用契約は、期間満了により終了するのを原則とする。しかし、(1)期間の定めのある雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていれば、更新拒絶は解雇に関する法理が類推される。また、(2)期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたとまではいえないものであっても、雇用関係の継続がある程度期待されていたものは、同様に解雇に関する法理が類推される。

 本件雇用契約は17回にわたる更新を重ねてきたが、契約年度末に被告から契約更新の意思を確認されたこと、契約書を年度替わりごとに作成し直すことは1度もされたことがなく、上記雇用契約は自動的に更新されてきたといえる。原告の職務内容は専門家である講師としてのもので、被告の事業目的に照らすと、講習・研修は被告の事業目的中主要なものの一つであり、重要な要素を占める。原告は毎日フルタイムで勤務し、賃金体系や福利厚生も正社員と同様のものによってきた。

 このような事実関係の下では、本件雇用契約は、期間の定めのある雇用契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていたか、少なくとも原告は、このような事実関係を継続してきたこと及び採用当初等の被告の担当者の「更新しないことはない」旨の言動により、雇用契約が更新されるものとの合理的な期待を抱いていたものといえる。したがって、このような事実関係の下では、本件雇用契約には解雇の法理が類推適用されると解するのが相当である。

2 本件雇用契約は終了しているか

 高齢者雇用安定法の改正を控え、職員の60歳以降の処遇に関し明確な制度整備が求められていたところ、全統一及び分会が非協力的であるために制度整備が間に合わなかったため、制度整備の必要上、原告が60歳に達した時点で一旦原告との雇用契約を終了させたというが、解雇法理の下において、このような原告・被告間の個別の雇用契約自体から来るのでない事由により雇用契約を終了させることができるとは到底解されない。一定期間にとどまらない雇用の保障のあるこの種の契約において、解雇事由は、直ちに(又は予告期間の後に)雇用契約を終了させることが相当と認められるべき事由であるべきところ、上記事由は到底そのような事由とならない。そのようなやり方は、高齢者の雇用を確保しようとする高齢者雇用安定法の趣旨に反するものといえ、上記解雇には相当性がないというべきである。

 なお、仮に、本件雇用契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっていないとか、契約継続の合理的な期待がないと判断されたとしても、被告の原告に対する雇用契約の終了の通知は、期間の定めのある雇用契約の期間内の終了であるから、やむを得に事由を要し(民法628条)、本件雇用契約書にも同旨の規定が定められている。このやむを得ない事由は、期間の定めのある雇用契約をその期間満了前に直ちに終了させざるを得ない事由と解されるが、上記被告主張の事由は、これにも該当しないというべきであるから、いずれにせよ本件雇用契約は終了しているとはいえない。
適用法規・条文
02:民法628条
収録文献(出典)
労働経済判例速報2063号29頁
その他特記事項
本件は控訴された。