判例データベース
東京都自動車整備振興会雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 東京都自動車整備振興会雇止控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成21年(ネ)第934号
- 当事者
- 控訴人 社団法人
被控訴人 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年11月18日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審原告)は、平成2年1月1日付けで、公益社団法人である控訴人(第1審被告)との間で、「嘱託雇用契約書」により雇用契約を締結して技術講習の専任講師として採用され、個人加盟の労組である「全統一」に所属していた。本件雇用契約は、当初平成2年1月1日から同年3月31日まで締結され、その後は年度ごとに1年契約を更新していた。
改正高齢者雇用安定法が平成18年4月から施行され、65歳未満の定年を定めている事業主は、65歳までの安定した雇用を確保するための継続雇用制度等の措置を講じなければならないこととされたところ、控訴人はこれを受けて、再雇用を希望する者を1年間の嘱託として最大65歳まで雇用することとしたほか、厳しい経済情勢を踏まえて給与は月額15万円以上25万円以下とすること等の内容を全統一及び分会に提案したが、全統一及び分会はこれを拒否した。
控訴人は、平成19年9月21日、被控訴人に対し、上記継続雇用制度の導入の経緯を説明し、被控訴人が60歳になる同年10月27日に本件雇用契約を終了し、翌日から平成20年3月31日まで月額25万円、賞与は夏・冬各1ヶ月とする等の内容で再雇用契約を締結したい旨申し入れた。被控訴人は、当時月額約35万円、賞与等を併せて年収約700万円であって大幅な減収となること、本件雇用契約では65歳まで勤務することになっていたから今後も退職せずに勤務を続けていくこと、労働条件は全統一及び分会との団交で決定することを控訴人に申し入れた。これに対し控訴人は、平成19年10月26日付けの文書で、被控訴人の主張は当を得ないとした上で、再度再雇用嘱託契約書記載の内容で再雇用契約を締結するよう促した。しかし、それでも被控訴人が再雇用契約締結を拒んだため、控訴人は同月27日をもって本件雇用契約は終了したものとし、継続雇用について協議を続けたが、被控訴人は従前通りの給与に固執し、控訴人の提案を全て拒絶した。被控訴人は、本件雇用契約の内容で65歳まで勤務できるところ、雇用期間の途中での解雇は無効であるとして、控訴人の職員としての地位の確認と給与の支払いを請求した。
第1審では、被控訴人の主張を全面的に認め、雇用契約上の権利の確認と賃金の支払いを命じたことから、控訴人がこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 原判決を取り消す。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、第1、2審を通じ被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 本件雇用契約においては、雇用期間を1年とするが、その期間内であっても事業運営上やむを得ない事情がある場合には、30日前に通知することを条件に解雇することができる旨規定されている。控訴人が雇用期間内である平成19年10月27日に本件雇用契約を終了する旨申し入れ、実際に同日本件雇用契約を終了させたことは、上記規定による解雇にほかならない。したがって、本件雇用契約が同日に終了したといえるかは、被控訴人を同日解雇することに解雇事由があるか、次いで解雇に濫用等の違法事由があるかの検討にかかることになる。
控訴人に本件雇用契約を終了させることにつき事業運営上やむを得ない事情があったといえるかどうかの点から検討する。控訴人は、正職員については従前60歳定年制を採用したこと、本件雇用契約が締結された後である平成16年の高齢者雇用安定法の改正により、正職員が60歳に達したときは雇用契約を終了させるとともに、以後の雇用の継続を希望する者との間で再雇用契約を導入しなければならなくなったこと、控訴人の収入は約3分の1が講習・研修収入、約3分の2が各種手数料収入であったところ、講習・研修収入は希望者の減少や少子化により、各種手数料収入についてはワンストップサービスの実施により、それぞれ大幅な減少が予想され、これを補うための新規事業の開拓や経済効率の低い事業の廃止をしようにも事業内容が法定されているため軽々にこれを行うことができないにもかかわらず、60歳以上の者を雇用し賃金を支払わなければならなくなった控訴人は、再雇用契約における給与について、正社員として受け取っていた給与額を問わずその上限を月額25万円とせざるを得なかったこと、正社員との均衡上、パート職員、嘱託職員、臨時職員にもこれに準じた扱いをする必要が生じたこと、上記制度導入を義務付ける改正高齢者雇用安定法9条は平成18年4月に施行されたこと、以上の事実を指摘することができる。
そうすると、控訴人が、正社員について60歳での雇用契約の終了とその後の再雇用契約締結という制度を導入し、経済的事情から再雇用契約における給与額は従前の額を問わず上限を月額25万円としたことから、組織内での均衡を保つため、事実上65歳まで勤務することが慣例化していた専任講師であった被控訴人との本件雇用契約(給与月額約35万円)も、被控訴人が満60歳となる30日以上前に上記の事情を説明し、かつ再雇用契約(月額25万円)を締結することを前提に、被控訴人が60歳に達した日をもって終了させる旨告知したことについては、控訴人に事業運営上やむを得ない事情があったとみるのが相当というべきである。
次に、雇用契約において定められていた解雇事由に基づいて解雇されたとしても、その解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合は、当該解雇は無効というべきである。解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合についての事情は、被控訴人において主張立証すべき事柄である。この点被控訴人は、各種の資格を保有しており、専任講師の中でも突出して知識経験は豊富であって、60歳をもって解雇される理由は皆無であるなどと主張する。しかしながら、控訴人は社会基盤の変容による受給年齢の引上げ等の公的年金制度の改革、これにより生じた高年齢者の年金支給開始年齢までの稼働環境の整備の必要性という大きな背景事情に加え、控訴人のかかる業界の経済事情の悪化等の現実の下で、その全職員を60歳以上65歳まで雇用すると共にその給与の公平を図らなければならないという制約を受けて、新しい雇用制度における給与の上限額を被控訴人に支払う旨申し入れていたということができるのであるから、控訴人が被控訴人を解雇した処置は、客観的合理性あるいは社会相当性を欠くとは認め難いというべきである。
以上、被控訴人の主張はいずれも理由がない。被控訴人は、前記認定の社会情勢の変化等の諸制約をみないまま、公益法人である控訴人組織全体の今後の在り方を度外視して、法的には本来1年の雇用期間でしかない契約であるにもかかわらず65歳まで継続勤務できる権利があるなどと強弁し、併せて控訴人の置かれた経済情勢を踏まえれば合理性の認められないことが明らかな高額の給与を要求するという主張をして本件紛争を継続してきたものというほかなく、その方針は紛争の合理的解決から著しく外れるものといわなければならない。 - 適用法規・条文
- 02:民法628条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2063号21頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 平成19年(ワ)第33970号 | 認容(控訴) | 2009年01月26日 |
東京高裁 − 平成21年(ネ)第934号 | 原判決取消(控訴認容) | 2009年11月18日 |