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東京(書店)雇止仮処分申立事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 東京(書店)雇止仮処分申立事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成21年(ヨ)第21084号
- 当事者
- その他 個人1名
その他 株式会社 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年08月05日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、専門書や学術書等の出版及び販売等を業とする株式会社であり、債権者(昭和44年生)は、平成18年11月1日から平成19年4月30日まで、同年5月1日から平成20年4月30日まで、同年5月1日から平成21年4月30日までの3回にわたり、有期雇用契約を締結した。従業員50名中、債権者を含む従業員二十数名は、平成20年7月、労働組合東京ユニオンA書店支部を結成し、債権者はその支部長に就任した。
債権者は「製作部」に配属され、当初、主として基幹業務である組版管理業務及び発注業務を担当し、報奨金を支給されるなど、社長の構想でも中心的役割を期待されていた。しかし、平成20年8月17日、債権者が再校ゲラを一時失念・放置することがあり、債権者は常務に対し謝罪メールを送信したところ、同常務からオーバーワークであるとして、債権者の主要担当業務であった組版管理及び発注業務から外すとの指示を受けた。組合支部は債権者の担当業務変更について、本件支部結成後間もなくなされたことで看過できないとして、債務者に対し、同年9月1日「異議申立書」を提出した。
債権者は、債務者に対し、同年10月6日、A社長宛の「始末書」を提出したところ、同書面には、債権者が編集部から預かった再校ゲラの所在を一時見失ったことについての反省、謝罪及び今後二度と繰り返さない旨の誓約が記載されていた。債務者は、債権者に対し、同年12月26日、就業規則に基づき平成21年1月5日から5日間出勤停止処分をし、同日3度目の異議申立書の撤回と謝罪を要求する書面を提出したほか、債権者に対し本件出勤停止処分を命じた通知書を掲示板に貼り出した。
債務者は、組合支部との間で、平成21年1月以降、債権者以外の組合員の契約更新問題について交渉していたところ、同年3月31日、債権者に対し「通知書」を交付し、「勤務態度、業務遂行能力等を総合的に評価」した上で、翌4月30日をもって本件労働契約を終了させ、新たな労働契約を締結しない旨の通知をした。
これに対し債権者は、従事していた業務が基幹的業務の一つで恒常性があり、業務内容、労働条件につき正社員と同一性があること、契約社員が雇止めされる例は少ないこと、債権者は報奨金を受けるなど相当な評価を得ていたことなどから、少なくとも債権者には雇用継続の期待を抱くことが合理的であることから、本件雇止めは解雇権の濫用法理が適用されるところ、本件雇止めは無効であるとして、従業員としての地位の保全を求めて仮処分の申立てをした。 - 主文
- 判決要旨
- 1 本件労働契約の性質
期間の定めのある雇用契約は、約定の雇用期間が満了すればその効力は終了するが、労働者が所定の雇用期間を経過してもなお従前の就労を継続し、採用者がこれを知りながら異議を述べないときは、当該雇用契約が同一の条件をもって更に雇用したものと推定される(民法629条1項本文)。そこで使用者は、期間満了後の契約関係の継続を望まないときは、その旨の意思表示、いわゆる「雇止め」をする実際上の必要があり、債務者が平成21年3月31日付けでした債権者に対する通知は、「雇止め」にほかならない。
本件労働契約は、それ以前の初回労働契約、第2回労働契約とともに、契約社員という臨時的な形態であり、契約を継続する場合でも満了時前に改めて雇用契約を取り交わしていることからすると、契約更新手続きが比較的厳格にされているということができ、勤続年数は本件雇止めまで合計2年6ヶ月であり、更新回数も2回であるから、勤続年数、更新回数が多いとはいえない。しかしながら、債務者においては、正社員と契約社員とが所定就労時間や担当勤務内容において特段異なるところがなかったのであり、債権者の業務も債務者の基幹的業務の一つであるということができ、業務内容の恒常性、業務内容・労働条件についての正社員との同一性があるといえる。加えて、債権者が有期雇用契約を締結したのは、他の従業員同様、新たに入社した従業員であったからであり、債務者において、契約社員が雇止めされる例は少なく、特に組合員以外では3回を超えて契約が継続されている例も少なくないし、契約社員としての勤続年数、年齢等の上限が設定されていたともいえない。また、債権者は基幹的業務を任せられ、契約社員には通常支給されない報奨金の支給を受ける等、従前からその勤務態度について相当な評価を得ており、A社長の将来構想でも重要な役割を担っていたことが認められる。これらの事情を踏まえるときは、客観的にみて、正社員として登用されるか、少なくとも契約期間満了後も契約社員として雇用が継続されることを期待し得る状況があったと認められる。
そうすると、本件労働契約については、業務の客観的内容、契約上の地位の性格、当事者の主観的態様、更新の手続・実態、他の労働者の更新状況、その他の関連事情を総合考慮し、契約期間の満了によって当然に契約関係が終了する「純粋有期契約」ではなく、少なくとも労働者である債権者の雇用継続の期待が合理的であるといえる類型の契約であって、その雇止めについては、労働契約法16条を類推適用するのが相当である。
2 本件雇止めの効力
債務者のいう本件雇止めの理由は、不誠実な勤務態度、業務遂行能力の乏しさ、そして本件出勤停止処分を受けたことであると窺える。しかしながら、債権者の再校ゲラに関する経緯について謝罪メールを送信したり始末書を提出するなど繰り返し謝罪していること、債権者が社長に対し所定就労時間外に「組合の話」をしていたのに「仕事の話をしていた」と嘘を吐いたことが認められるが、そのことについて債権者を含む支部三役が債務者に謝罪していることからすれば、そのことが雇用関係を維持できないほどの信頼関係の破綻に繋がるともいい難い。また本件出勤停止処分期間中に自宅謹慎をしなかったとしても、これを「不誠実な勤務態度」とすることはできない。
他方、債務者によれば、債権者の社内通知の取りまとめの遅れ、ゲラ出稿に関する報告の遅れ、再校ゲラの放置と失念と不手際が重なったことが指摘されている。しかしながら、社内通知や報告については期限が定められていなかったこと、再校ゲラの放置と失念についても編集長も問題にしなかった程度の失態に過ぎず、債権者のこれまでの社内の評価を踏まえるときは、これらの「不手際」が本件雇止めの合理性を基礎付ける事情として足るとは到底いえない。
むしろ、債務者が異議申立書の形式的記載を問題にしたり、ボーナス等の要求に関連する団体交渉に接近した時期において、執拗に異議申立書の撤回や支部三役の謝罪を要求していることからすると、本件出勤停止処分は、本件組合支部の活動を嫌悪し、正当な組合活動である異議申立書の提出(不撤回)を理由とした報復的な不利益取扱であり、不当労働行為であるといえる。したがって、本件出勤停止処分は違法かつ無効(民法90条)であり、債権者が「本件出勤停止処分を受けた従業員である」という理由についても本件雇止めの正当性を根拠付けることはできない。してみると、本件雇止めは、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められず、その更新拒絶権を濫用したものとして無効であるというのが相当である。 - 適用法規・条文
- 02:民法90条、536条2項、99:その他 労働契約法16条
- 収録文献(出典)
- 労働判例991号157頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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