判例データベース
東京(証券会社)雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 東京(証券会社)雇止控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成21年(ネ) 第5747号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 A證券株式会社 - 業種
- 金融・保険業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年01月01日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)は、総合証券業を主たる業とする会社であり、控訴人(第1審原告)は、昭和57年に大学を卒業した後、平成18年5月21日から10月31日まで被控訴人に雇用された(第1契約)。控訴人はうつ病に罹患しており、平成16年2月に障害等級3級に認定され、その後2級に認定された。控訴人は、被控訴人に対し、同年11月1日から平成19年3月31日までの契約書に署名押印して提出した(第2契約)。
控訴人は、郵便物の仕分け及び社内各部署への配送、名刺の作成等の業務に従事していたところ、被控訴人は控訴人に対し、遅くとも平成19年2月28日までには、勤務成績不良等を理由として第2契約を更新しない旨告げた上、同日以降の就労を免除する旨意思表示した。更に被控訴人は、控訴人に対し、名刺作成におけるミスによって大量の誤印刷による損害を発生させ、郵便物の仕分け作業においてもミスを繰り返し、職務改善が望めないとして、雇用期間を更新をしない旨改めて通知した。
これに対し控訴人は、求人票と全く異なる形態の契約(第1契約)の締結を迫られたところ、募集時における労働条件は契約の根幹部分で雇用契約の拘束性を有するから、試用期間が経過した時点で正社員としての地位を獲得したこと、仮に第1契約及び第2契約がいずれも期間の定めのある契約であるとしても、控訴人は同僚Cからのハラスメントを繰り返し受けながらも業務に精励してきたものであって、被控訴人が指摘するような勤務成績不良等の事実はないとして、被控訴人に対し、退職後の賃金相当額から失業給付及び再就職先での賃金を控除した141万円余並びにCのハラスメントについての使用者責任及び安全配慮義務違反を理由とする慰謝料200万円を請求した。
第1審では、控訴人の主張を全て棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 控訴人の業務の遂行の実状及び本件雇止めに至る経緯を見ると、被控訴人は、平成18年4月当時、一般事務を担当していた障害者が退職し、法定の障害者雇用率を下回るようになっていたこともあって、ハローワークを介して、当時障害等級3級と認定されていた控訴人を契約社員として雇用したこと(第1契約)、控訴人は入社後、(1)郵便物を宛先の部署毎に仕分けし、これを社内便袋に入れて本社の郵便棚及び郵便箱に配達する業務、(2)郵便料金不足分を郵券で支払い、その使用枚数を帳簿に記載し確認する業務、(3)各部署から名刺作成の依頼を受けると、パソコンの名刺ソフトを利用して名刺を作成する業務、(4)各部署から総務部を介して送られてくる事務用品の注文票をスキャナーでパソコンに取り込み、そのデータを販売業者に送信して発注する業務、(5)異動、転勤等の挨拶状を作成する業務に従事していたこと、控訴人が(1)の業務に従事するに当たり、郵便物が宛先と別の部署に誤って配達されることが多く、各部署から苦情が相次いだこと、名刺の印刷や裁断ミスが多々あったこと、この間、控訴人は所定の時間を超えて業務を遂行することはなく、被控訴人も超過勤務を求めることはなかったこと、被控訴人は、控訴人が雇用の継続を希望しており、障害者雇用率の改善もできない事情もあったので、控訴人との間で、雇用期間を平成18年11月1日から平成19年3月31日までとする雇用契約書を取り交わしたこと(第2契約)、その後も控訴人の業務遂行に改善は見られなかったこと、被控訴人は控訴人に対し、同年2月28日に雇止めの予告をし、控訴人は翌日以降出社しなくなったこと、被控訴人は同年3月15日頃、控訴人に対し、名刺作成、郵便物仕分け等で再三指導したにも拘わらずミスを繰り返し、改善が望めない旨の理由を附記した本件雇止通知書を交付したこと、以上の事実が認められる。
なるほど、障害者の雇用の促進等に関する法律第5条は、障害者を雇用する事業者は、適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定に努めなければならないと定めているのであるから、当該労働者が健常者と比較して業務遂行の正確性や効率に劣る場合であっても、労働者の障害の実状に即した適切な指導を行うよう努力することが要請されているということができる。しかし、同法は、障害者である労働者に対しても、その努力義務について定めているのであって、事業者の上記の協力と障害を有する労働者の就労上の努力が相俟って、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援及び指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負っているのである。
本件において、被控訴人は、控訴人の病状に配慮して、郵便物の仕分け、郵便料金の支払、名刺作成、事務用品の発注及び挨拶状の作成といった、比較的簡易な事務に従事させ、また、その業務遂行に当たっては、Cにその指導等に当たらせ、また控訴人の希望に沿って定時に帰宅させるといった配慮もしていたのである。そして、控訴人のうつ病については、Cもレクチャーを受け、家庭医学書等でうつ病についての知識を深めて控訴人に接していたこと、Cは上司から注意を受けて控訴人に対する話し方を軟らかくするよう心掛けていたほか、Cの指導に問題があれば、管理本部のDがCに注意するなどしていたことが認められる。
そうすると、被控訴人は、控訴人の障害に配慮して、控訴人の従事する業務を選定し、その業務遂行については、Cを指導担当者として具体的な指導に当たらせ、同人の指導に問題があれば、Dが注意するなどしていたのであるから、控訴人をその能力に見合った業務に従事させた上、適正な雇用管理を行っていたということができる。ところが、控訴人は、作業ミスを重ね、Cから具体的な指導を受けてもその改善を図らず、1度は契約更新をしてもらったものの、就労の実状を改善できなかったばかりか、失敗を隠蔽するに及んでいる。このような事態を受けて、被控訴人はやむなく本件雇止めを行ったのであるから、本件雇止めには合理的な理由があったものと認められる。 - 適用法規・条文
- 02:民法415条、709条、715条、99:その他 職業安定法5条の3
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2076号30頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 − 平成20年(ワ)第21106号 | 棄却(控訴) | 2009年09月28日 |
東京高裁 - 平成21年(ネ) 第5747号 | 控訴棄却 | 2010年01月01日 |