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東京(清掃会社)雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
東京(清掃会社)雇止事件
事件番号
東京地裁 − 平成20年(ワ)第20209号
当事者
原告個人2名

被告T清掃会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年09月30日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被告は、一般及び産業廃棄物収集運搬処理業等を業とする株式会社で、原告Aは平成10年5月、原告Bは平成12年4月、それぞれアルバイト社員として被告に雇用され、原告Aは産廃部門で産業廃棄物収集運搬業務に従事した後、平成19年9月以降公社部門の水質検査の検体回収業務に従事するようになり、原告Bは公社部門の水質検査の検体回収業務に従事してきた。原告A及び原告Bは、平成18年3月31日付けで雇入通知書を取り交わしたところ、原告Aの書面の契約期間の欄には「期間の定めなし」に○印が付され、「期間の定めあり(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)」には○印が付されていない一方、原告Bの書面には「期間の定めあり(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)」には○印が付されていた。

 被告は、平成20年2月末頃、同年3月末をもって公社部門を廃止することを決め、同年3月15日以降、公社部門の従業員14名のみを対象に再就職の斡旋を行うとともに、アルバイト社員に対し、給与を上乗せして希望退職の募集を行ったところ、アルバイト社員のうち原告ら2名を除く7名がこれに応じて退職した。この間被告は、同年2月28日、原告らに対し、公社部門を廃止することから再就職の斡旋を提案し、アルバイト社員に対し公社部門の廃止理由や希望退職を募る旨説明した。

 被告は、平成20年3月31日、原告らに対し、公社業務からの撤退に伴い、同日付けで原告らを解雇する旨及び解雇予告手当を支払う旨が記載された解雇通知書を交付し、同年4月以降原告らを業務に従事させなかったところ、原告らは、本件解雇は解雇権の濫用により無効であるとして、被告の従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めた。
主文
判決要旨
1 本件各契約についての期間の定めの有無

 原告A労働契約について、平成18年3月31日時点で期間の定めのないものとする旨の合意が、原告B労働契約について、平成15年1月頃期間を1年間とする旨の合意が、平成18年3月31日時点で期間を平成18年4月1日から平成19年3月31日までとする旨の合意がそれぞれ成立したものと認められる。そして、原告B労働契約については、平成19年3月31日前後を通じ、原告Bと被告との間で更新手続きが経られた形跡がないのに、原告Bは従前どおりの雇用条件で労務を提供していたことが認められるから、原告B労働契約は平成19年3月31日の経過によって黙示に更新されたものと認められ、その期間は更新前と同様の1年間と解するのが相当である。

 被告は原告A通知書の「期間の定めなし」と記載された部分に○印が付されているのは誤記である旨主張するが、期間の定めが誤記である旨の被告主張は、その書式自体が被告作成にかかること及び記載事項の重要性からいって、契約当時者間の信義に反する感は否めず、また契約当事者である原告Aの認識とも齟齬する一方的な言い分に過ぎず、採用できない。

 原告Bは、従前原告B労働契約についての期間の定めはなく、原告B通知書の記載にかかわらず、平成18年4月1日以降も期間の定めに変更はない旨主張するが、原告B通知書の通りの合意が成立する旨の認識を有することは容易なことであったと考えられ、原告Bの主張は採用できない。他方、被告においては、在職年数の長短はあるものの、事務職を除けば、正社員を上回る人数のアルバイト社員が正社員とほぼ同様の業務を遂行してきていること、本件各契約の経緯について、原告らが入社した際には契約書は作成されず、期間の定めについて何らかの合意が成立したことを窺わせる形跡はなく、したがって、本件各契約は契約の成立当初においては、期間の定めなく成立したものと合理的に推認されること、被告は平成12年頃からアルバイト社員との間に1年間の期間の定めのある契約書を取り交わすようになったものの、その更新手続きは厳格にはなされていなかったこと、原告らが期間の定めについて記載のある契約書を取り交わしたのは平成15年1月頃が初めてであり、その際、原告Bは期間の定めのある契約に署名押印したものの、被告からアルバイト社員全員に期間の定めのある契約をしてもらっており、期間満了により終了するわけではないという程度の説明を受けたに過ぎないこと、その後も本件各形約について、平成18年3月31日までは更新手続きがなされることはなかったこと、原告A及び同B通知書記載の期間満了日である平成19年3月31日経過後も本件各契約について更新手続きがなされることはなかったこと等が認められる。

 以上によれば、原告B労働契約は、1年間の期間の定めのある契約ではあるものの、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態に至っているものと認めるのが相当であり、原告B労働契約の期間満了による雇止めについては、客観的に合理的な理由を要するものと解するのが相当である。

2 本件雇止めないし本件解雇の有効性

 公社部門の廃止に伴い、公社部門で雇用していた従業員が余剰人員となったが、これら従業員全てを他部門において吸収することは困難であったため、被告が公社部門の廃止を決め、当該部門に所属していた従業員全員に相当する人数の人員整理を行うと判断したことには、企業の合理的運営上やむを得ない必要性があったということができる。とはいえ、公社部門以外の部門では経常利益を計上しており、公社部門の従業員の大半は希望退職に応じ、退職しなかった正社員3名の雇用継続は確保できたこと等の事情からすると、更なる人員整理をしなければ倒産の差し迫ったというような状態にあったとは認められない。

 被告は、原告らの解雇ないし雇止めを回避するために、公社部門以外の2部門については、派遣契約や労働者供給契約を打ち切っていない。被告が公共部門に限って派遣契約を打ち切っていることを踏まえれば、かかる一貫しない措置の合理性は乏しいものといわざるを得ない。また、派遣契約や労働者供給契約を継続した場合と原告らとの間の雇用契約を継続した場合の被告の経済的負担の多寡にについて、被告と直接労働契約を締結し、雇用継続について合理的な期待を有している原告らの雇用を終了させることを正当化する程度の有意な差異があったものとも認められない。

 公社部門の従業員の大半が退職に応じているから、希望退職の募集は解雇回避のために有効な手段であったと考えられるが、被告は公社部門以外の部門については希望退職の募集を行っていない。被告においては、事務職を除けば3部門を通じて正社員もアルバイトも概ね類似の業務に従事していたものであり、各部門と従業員の間の関連性や非代替性は希薄であったものと認められるし、アルバイト社員については1年間の期間の定めがある上、アルバイト社員の平均的な勤続年数は原告らのそれに比して短く、原告Bのように期間の定めのない契約と異ならない状態には至っていない者や、雇用継続の合理的な期待が認められない者も相当数いた可能性が否定できないから、被告が公社以外の部門について希望退職を募集しなかった措置の合理性も乏しいといわざるを得ない。また、原告らの従前の業務遂行実績に照らせば、希望退職によって不足が生じた他の部門に原告らを配置換えすることに特段の不都合があったものとも認められない。

 被告の業務は3部門に分かれていたものの、各部門と従業員との間の関連性や非代替性は希薄であったのに、原告らは平成20年3月31日の時点において、廃止の対象となった公社部門に在籍していたとの理由だけで希望退職の対象とされ、これに応じないとして解雇あるいは雇止めの対象とされた。原告らを含む社員の配属は雇用主である被告の指定によって決定されること等を踏まえれば、解雇あるいは雇止めの対象とされるかどうかは偶然的な要素で決定されたものであって、人選の基準として公正さを欠くものであった。

 以上によれば、本件において人員削減の必要性は否定できないものの、被告が解雇あるいは雇止めを回避するための努力を尽くしたとは認められず、被告が原告らを解雇あるいは雇止めの対象とした人選の合理性も認められないから、手続きの相当性について検討するまでもなく、原告Aに対する本件解雇は本件解雇条項の要件を満たさず、原告A労働契約は本件解雇によって終了せず、原告Bに対する本件雇止めには客観的に合理的な理由が認められず、原告B労働契約は本件雇止めによって終了せずに更新されたものと認められる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例994号85頁
その他特記事項