判例データベース
S航空会社雇止事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- S航空会社雇止事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成20年(ワ)第28061号
- 当事者
- 原告個人2名
被告S株式会社 - 業種
- 農業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年12月14日
- 判決決定区分
- 棄却
- 事件の概要
- 被告は、定期航空運送事業等を行う株式会社であり、原告らは、平成17年12月1日に被告に入社し、期間1年の有期雇用契約社員として福岡ベースに配属された客室乗務員である。原告らは、平成18年4月、平成19年4月に、いずれも滞りなく1年間の契約更新を行った。
平成19年8月、原告Aは立ちっ放しで地上業務をした後の乗務では安全上問題があると考え、課長に対し抗議をして翌日欠勤したが、同月下旬、上司の指示により抗議と欠勤について始末書を提出した。更に原告Aは、同年秋頃、安全教育読本を紛失して始末書を提出した。平成20年2月の面接において、原告Aは、欠勤日数が多いこと、始末書を2度提出していることを指摘され、「135人中107位、ランクC」であるとして新年度の更新をしない旨(雇止め)を通告された。また、原告Bも欠勤日数が多いことなどを指摘され、「135人中133位 ランクD」の業務評価を受けて同様に雇止めを通告された。
原告Aは、同年3月15日、被告に対し、「会社都合により一方的に契約満了とされたため2008年3月31日付けで退職する」旨記載した退職届を提出し、そのまま同日が経過した。また原告Bは、同年2月に被告から退職届の提出を求められ、一旦はこれを拒否したものの、同年3月2日、手続き上必要であるとして更に提出を求められたため、「会社都合による契約満了」と記入し、退職の意思がないことを明らかにした上で、退職届を提出した。
原告らは、被告は抗議に対する報復として業務評価を恣意的に低く抑えて雇止めを断行したものであるから、同雇止めは無効であるとして、原告Aについては再就職までの賃金相当額、被告における賃金と再就職後の賃金との差額等合計211万5401円及び慰謝料100万円を、原告Bについては慰謝料60万円を、それぞれ被告に対し請求した。 - 主文
- 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 退職の意思表示の存否ないし有効性
原告Bは、自ら3月31日に退職すると記載して退職届を提出したのであるから、同原告について退職の意思表示が存在したと認められる。この意思表示に瑕疵がなければ、被告と原告Bの間の雇用契約は、同原告の退職の意思表示(及び被告の承認)により終了することになる。
原告Bは、退職届を提出した時点で、退職の意思がないのに形だけのつもりであったことなどから、退職の意思表示は心裡留保又は錯誤により無効である旨主張し、退職届の「会社都合による契約満了」との記載、離礁票の「会社からの一方的な雇止め通告及び退職届を強要されたための計画期間満了」との記載には、不本意な契約終了という原告Bの不満が強く現れている。しかし、原告Bは、業務評価不良を理由に雇止めを受けても納得できず、労働組合からも雇止めは無効と助言されていたが、3月2日、それほど強く説得されたわけでもないのに、自ら3月31日に退職すると記載して退職届を提出し、失業保険を受給した。このような経緯によれば、原告Bは雇用契約が雇止めにより終了予定であることを踏まえて、自らの意思で退職届を提出し、その後退職後の当面の対策を講じたということができる。そうだとすると、原告Bが、退職届を提出した時点で、退職のつもりがないのに形だけのつもりであったとか、退職の意思表示になるとは思わなかったなどと認めることはできないから、原告の退職の意思表示が心裡留保又は錯誤によって無効とはいえない。したがって、被告と原告Bの間の雇用契約は、同原告の退職の意思表示(及び被告の承認)により終了したというべきである。
2 不法行為の成否
原告Aが、カウンター業務支援により疲労状態での乗務になりかねず、保安業務等に不安を感じたという点は理解できなくもない。しかし、そうであるからといって抗議目的で欠勤までするのはやや行き過ぎというべきであり、一定のマイナス評価を受けてもやむを得ないものと考えられる。原告Aについて、前年度は相当の評価を受けて滞りなく更新を終えたのに、平成19年度は特に社会人的資質項目が下から2番目であり雇止めになったが、このような悪い評価には、上記欠勤が大きく影響していると考えられる。原告らは、被告が欠勤の問題を恣意的に評価したと主張するが、更新・不更新の判断は、15に及ぶ項目を数値化した上で所定の基準に従い成績下位者から雇止め候補者を抽出して検討するなどの方式に基づいており、一応の公正さが担保されているということができ、恣意的な取扱いとは認められない。また原告Aは業務安全読本を紛失して始末書を提出したことがある。このような事実等によれば、被告が、業務内容の変更に抗議をした原告Aに対する報復として、恣意的に評価を低くして雇止めを断行したと認めることはできないから、被告の原告Aに対する不法行為は成立しない。
原告Bは、原告Aのように抗議目的で欠勤したことや、安全読本を紛失して始末書を提出したことがないが、業務評価が135人中133位であり、社会人的資質項目の評価は最下位であった。更に欠勤日数も多かったことから、同時期に雇止めになった6人の中に入るのもやむを得ない評価であったというべきであり、被告の原告Bに対する不法行為は成立しない。
1 退職の意思表示の存否ないし有効性
原告Bは、自ら3月31日に退職すると記載して退職届を提出したのであるから、同原告について退職の意思表示が存在したと認められる。この意思表示に瑕疵がなければ、被告と原告Bの間の雇用契約は、同原告の退職の意思表示(及び被告の承認)により終了することになる。
原告Bは、退職届を提出した時点で、退職の意思がないのに形だけのつもりであったことなどから、退職の意思表示は心裡留保又は錯誤により無効である旨主張し、退職届の「会社都合による契約満了」との記載、離礁票の「会社からの一方的な雇止め通告及び退職届を強要されたための計画期間満了」との記載には、不本意な契約終了という原告Bの不満が強く現れている。しかし、原告Bは、業務評価不良を理由に雇止めを受けても納得できず、労働組合からも雇止めは無効と助言されていたが、3月2日、それほど強く説得されたわけでもないのに、自ら3月31日に退職すると記載して退職届を提出し、失業保険を受給した。このような経緯によれば、原告Bは雇用契約が雇止めにより終了予定であることを踏まえて、自らの意思で退職届を提出し、その後退職後の当面の対策を講じたということができる。そうだとすると、原告Bが、退職届を提出した時点で、退職のつもりがないのに形だけのつもりであったとか、退職の意思表示になるとは思わなかったなどと認めることはできないから、原告の退職の意思表示が心裡留保又は錯誤によって無効とはいえない。したがって、被告と原告Bの間の雇用契約は、同原告の退職の意思表示(及び被告の承認)により終了したというべきである。
2 不法行為の成否
原告Aが、カウンター業務支援により疲労状態での乗務になりかねず、保安業務等に不安を感じたという点は理解できなくもない。しかし、そうであるからといって抗議目的で欠勤までするのはやや行き過ぎというべきであり、一定のマイナス評価を受けてもやむを得ないものと考えられる。原告Aについて、前年度は相当の評価を受けて滞りなく更新を終えたのに、平成19年度は特に社会人的資質項目が下から2番目であり雇止めになったが、このような悪い評価には、上記欠勤が大きく影響していると考えられる。原告らは、被告が欠勤の問題を恣意的に評価したと主張するが、更新・不更新の判断は、15に及ぶ項目を数値化した上で所定の基準に従い成績下位者から雇止め候補者を抽出して検討するなどの方式に基づいており、一応の公正さが担保されているということができ、恣意的な取扱いとは認められない。また原告Aは業務安全読本を紛失して始末書を提出したことがある。このような事実等によれば、被告が、業務内容の変更に抗議をした原告Aに対する報復として、恣意的に評価を低くして雇止めを断行したと認めることはできないから、被告の原告Aに対する不法行為は成立しない。
原告Bは、原告Aのように抗議目的で欠勤したことや、安全読本を紛失して始末書を提出したことがないが、業務評価が135人中133位であり、社会人的資質項目の評価は最下位であった。更に欠勤日数も多かったことから、同時期に雇止めになった6人の中に入るのもやむを得ない評価であったというべきであり、被告の原告Bに対する不法行為は成立しない。 - 適用法規・条文
- 02:民法93条、95条、709条
- 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2062号30頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁−平成20年(ワ)第28061号 | 控訴棄却 | 2010年10月21日 |
東京高裁 - 平成22年(ネ)第641号 | 控訴棄却 | 2010年10月21日 |