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地公災基金東京都支部長(ろう学校教員)頚椎変型症事件

事件の分類
職業性疾病
事件名
地公災基金東京都支部長(ろう学校教員)頚椎変型症事件
事件番号
東京地裁 − 昭和60年(行ウ)第19号
当事者
原告個人1名

被告地方公務員災害補償基金東京都支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1990年02月26日
判決決定区分
棄却
事件の概要
原告は、昭和31年6月東京都公立学校教員に任命され、昭和50年当時都立大塚ろう学校において勤務していた女性である。原告は、昭和50年5月下旬、同校中等部特別学級教室において同僚とともにボタン付けの作業学習を行い、屈み込んで生徒らに説明していたところ、突然室内に飛び込んできた重度の自閉症傾向を有する情緒障害児である男子生徒Yに肘で頸部を殴打された(本件事故)。原告はしばらく苦しそうに蹲っていたが、そのまま授業を続け、その後も休むことなく授業を行っていた。

 原告は、同年7月2日に視力低下、眼のかすみ等の症状を訴えて受診し、同年12月3日には視力障害を訴えて受診し、その際昭和25年頃から網膜色素変性症により入院や通院していたと述べ、昭和52年4月頃まで治療を継続した。その後原告は他の医療機関の治療を受けたが、はかばかしくなかったので、昭和55年11月に牽引治療を再開して1年近く続けた。なお原告は、昭和60年7月頃から殆ど目が見えない状態になり、その原因は網膜性色素変性症のためであろうと言われた。

 原告は、昭和56年10月16日、被告に対し、本件疾病が公務により生じたことの認定を請求したが、被告は昭和58年5月16日付けで原告の傷病を頚椎変性症と認定した上で、公務外の災害と認定する旨の決定(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたところ、いずれも棄却されたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
主文
原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告が本件事故により傷害を受けた部位を検討してみるに、特別の事情がない限り、事故後最初に現れた症状が当該事故による症状と解するのが相当であるところ、本件事故後1ヶ月程して原告に上位頚椎の病変の症状が出現し、下位頚椎の病変が出たのは本件事故後3年以上も経ってからであり、他の特別の事情も認められないから、原告が本件事故により受けた傷害の部位は上位頚椎であることが推認される。他方、原告の罹患した本件疾病は、第5、第6頚椎椎間板の軽度の狭小と後彎形成及び第6、7頚椎体前面の骨棘形成が見られるという病変であることが認められるから、本件疾病は下位頚椎の病変であり、下位頚椎の病変からは手の痺れや首の痛み等上肢の神経症状が発現し、本件事故から3年以上経って初めて頸部の圧迫、手、胸部、背部の痛み等の上肢の症状が発現しているから、右各症状は原告の罹患した本件疾病によるものである。したがって、下位頚椎の病変である本件疾病が上位頚椎への傷害を惹起した本件事故に起因しているということはできない。

 原告は、仮に頚椎の変形が本件事故により直接生じたものではないとしても、本件事故が主たる原因となって、これに本件事故後のYによる暴行が加わって原告の症状が一層悪化し、本件疾病が生じたものであるから、本件事故と本件疾病との間には相当因果関係があるというべきであると主張する。

 原告は、昭和50年10月下旬に背骨を、同年11月上旬に同じく背骨を、昭和51年4月上旬に鎖骨を、同年6月に右膝をそれぞれ受傷した旨の記載があり、右各暴行はYによるものであり、原告がその頃Yから暴行を受けていたことは窺えなくはないが、その具体的な暴行の態様、程度、正確な受傷の部位等の暴行の状況は明らかではないから、右各暴行により原告の症状が一層悪化し本件疾病が生じたとはいい得ない。しかも、原告は本件事故により上位頚椎を殴打されたものであり、また本件疾病は下位頚椎の病変で、上記頚椎に傷害を受けこれが下位頚椎に影響を及ぼすことはないから、本件事故が主たる原因となって本件疾病が生ずることはあり得ない。したがって、原告の主張は理由がない。
適用法規・条文
99:その他 地方公務員災害補償法26条、28条、45条
収録文献(出典)
労働判例556号41頁
その他特記事項