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国鉄鹿児島自動車営業所上告・同附帯上告事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 国鉄鹿児島自動車営業所上告・同附帯上告事件
- 事件番号
- 最高裁 - 平成元年(オ)第1631号
- 当事者
- 上告人(附帯被控訴人)個人2名 A、B
被上告人(附帯控訴人)個人1名 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1993年06月11日
- 判決決定区分
- 原判決破棄(上告認容)
- 事件の概要
- 被上告人(第1審原告、第2審被控訴人)及び上告人(第1審被告、第2審控訴人)らは、いずれも国鉄の職員であり、被上告人は国鉄九州総局鹿児島自動車営業所の運輸管理係で国労門司地本中央支部自動車分会鹿児島地区協議会議長、上告人Aは同営業所所長、上告人Bは同営業所助役であった。
昭和60年7月23日、被上告人が本件バッヂを着用したまま点呼業務を行おうとしたため、上告人らは同バッヂを外すよう命じたが、被上告人がこれに従わなかったことから、同日以降8月30日までの10日間、被上告人に対し営業所内に降り積もった火山灰を除去する作業(降灰除去作業)を命じた。
被上告人は、降灰除去作業は労働契約上の義務でないこと、本件業務命令はバッヂを外さなかった被上告人に対して懲罰的な報復を加えて、他の組合員に対する見せしめにするためであること等を主張し、本件業務命令は不法行為を形成するとして、上告人らに慰謝料50万円を請求した。
第1審では、上告人らによるバッヂ離脱命令は正当と認めたものの、本件降灰除去作業は懲罰的に命じたものであって不法行為を構成するとして、上告人らに対し慰謝料10万円の支払いを命じた。上告人はこれを不服として控訴したが、第2審でも第1審と同様の考え方に立って控訴を棄却したことから、上告人はこれを不服として上告するとともに、被上告人は慰謝料の引上げを求めて附帯上告をした。 - 主文
- 原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、第1審判決中右部分を取り消す。
前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 - 判決要旨
- 原審は、次のとおり判断した。
(1)降灰除去作業は、被上告人の労働契約上の義務の範囲内に含まれるから、本件各業務命令を労働契約に根拠のない作業を命じたものとはいえない。
(2)本件バッヂの着用は、職場規律を乱し、職務専念義務に違反するものであるから、上告人Aがした取外し命令及びこれに従わなかった被上告人を点呼執行業務から外した措置には、いずれも合理的な理由があり、これが違法なものとはいえない。
しかし、本件各業務命令は、被上告人には運輸管理係としての日常の業務があり、殊更降灰除去作業を命ずべき必然性はなかったのに、本件バッヂの取外し命令に従わなかったことに対し、懲罰的に発せられたものである。このように、かなりの肉体的・精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせることは、業務命令権の濫用であって違法である。したがって、本件各業務命令は、被上告人に対する不法行為に当たり、上告人らは、これにより被上告人の被った精神的損害を賠償すべき義務がある。
しかしながら、本件各業務命令が違法であって被上告人に対する不法行為に当たるとする判断は是認することができない。
降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これが被上告人の労働契約上の業務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、被上告人が、上告人Aの取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従って被上告人をその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更に被上告人に対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、上告人ら管理職が被上告人による作業の状況を監視し、勤務中の他の職員が被上告人に清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法或いは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。したがって、本件各業務命令が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条、719条
- 収録文献(出典)
- 労働判例632号10頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
鹿児島地裁 − 昭和61年(ワ)第118号 | 一部却下・一部棄却 | 1988年06月27日 |
福岡高裁宮崎支部 − 昭和63年(ネ)第102号、福岡高裁宮崎支部 − 昭和63年(ネ)第193号 | 控訴棄却 | 1989年08月18日 |
最高裁 - 平成元年(オ)第1631号 | 原判決破棄(上告認容) | 1993年06月11日 |