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N経済新聞社記者HP控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- N経済新聞社記者HP控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 − 平成14年(ネ)第2307号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2002年09月24日
- 判決決定区分
- 棄却(上告)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、被控訴人(第1審被告)西部支社編集部において編集記者として勤務していたところ、取材源秘匿など「悪しき慣行」を批判するためとして、自ら開設するHP上に、自分が新聞記者であることを明らかにした上で、業務上知り得た事実や体験を題材として、被控訴人を批判する文章を公表した。これを知った上司の編集部長Aが、文中に取材源や取材過程の秘匿に反する部分、記者の倫理や編集方針に反する部分を指摘してその全面閉鎖を命じたところ、控訴人は被控訴人にHP公開に関する基準の作成を要請した上で一旦HPの閉鎖に応じた。しかし、1年経過しても被控訴人が同基準を作成しないことから、控訴人はHPを再開し、Aに指摘された部分も修正することなく、新たに「捏造記事」、「オーナー企業」、「悪魔との契約」などのタイトルで、取材相手の実名等を記載した取材過程、編集過程や人事データ作りの経過を公表し、被控訴人を言論の自由を認めない「悪魔」と批判する記事を掲載した。被控訴人はこれらの行為が悪質であるとして、控訴人に依願退職を勧告したが、控訴人が応じないため、平成11年3月に就業規則違反を理由に14日間の出勤停止の懲戒処分をするとともに、同年4月控訴人を東京本社編集局資料部に配置転換した。控訴人は同年7月頃から出勤しなくなり、結局同年9月に依願退職したが、懲戒処分の無効確認、不支給賃金等の支払い、精神的苦痛に対する慰謝料1000万円の支払いを求めて本訴を提起した。
第1審では、編集部長によるHP全面閉鎖命令は業務命令権の逸脱としたものの、控訴人の一連の行為は就業規則違反に該当するとして出勤停止処分を有効と認めた外、控訴人の職種は記者に限定されておらず、本件配転に業務上の必要性が認められるとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件懲戒処分の有効性
控訴人は、不特定多数の者がその内容を知り得るインターネット上の自己のHPに、被控訴人の新聞記者として活動する中で知り得た事実や体験を題材として作成した文章を掲載し、その一部には、取材過程や取材源を明らかにする記述や、被控訴人の記事には記者によって創作された部分が日常的にあるのではないかとの不信感を読者に与えかねない記述があったもので、控訴人は、公開している文章の問題点を上司から指摘され、HPの閉鎖を求められて、一旦はこれに応じたものの、被控訴人がHPに関する社内基準を作成しないことを理由に、被控訴人の了解を得ないままHPの公開を再開し、問題点を指摘された文章についても、これを削除したり、修正を加えたりすることもなくそのまま再開したばかりか、その後も、取材過程や取材源を明らかにする記述を含んだ新たな文章や、被控訴人のマスコミとしての信用を傷つける記述を含んだ文章を新たに掲載したものということができる。
仮に、取材源等を秘匿することが控訴人の指摘するようにマスコミの悪しき慣行であるとしても、取材源や具体的な取材の過程を公表することにより、実際問題として被控訴人の今後の円滑な取材活動が妨げられるなど、被控訴人の業務に支障が出るおそれがある以上、その公表は雇用者である被控訴人の判断に委ねられるべきである。控訴人が、一般論として被控訴人の悪しき慣行を批判することは言論の自由として許されるとしても、従業員である控訴人の一方的な判断で、控訴人が被控訴人の新聞記者として行った具体的な取材の過程や取材源を被控訴人の了解もなく個人的に公表することが許されないことは明らかであって、それが被控訴人の経営、編集方針でもあることは、控訴人が公開している文章の問題点を上司から指摘され、HPの閉鎖を求められたことからも容易に認識できたというべきである。そして、上司によるHPの全面的な公開禁止が行き過ぎた指示であったとしても、控訴人が自らの判断でこれを再開するに当たり、少なくとも問題点を指摘された文章を削除するなどの措置を講ずることは容易であったにもかかわらず、控訴人は、被控訴人の了解を得ないままHPの公開を再開し、問題点を指摘された文章を削除したり、修正を加えたりすることもなくそのまま再掲したばかりか、その後も取材の過程や取材源を公表する記述を含んだ新たな文章を公開したのであるから、就業規則33条1号によって従業員が遵守すべきこととされている「会社の経営方針あるいは編集方針を害するような行為をしないこと」に故意に反したものというほかない。そればかりか、控訴人の「捏造記事」と題する文章は、記者である控訴人自身が自らの記事の一部(取材対象者の名前)に創作があったことを吐露したものであり、それ自体は些細なことであっても、被控訴人の記事は記者によって創作された部分が日常的にあるのではないかとの不信感を広く読者に与えかねないものであり、これをHPに掲載することが同号に反することも明白であり、また「悪魔との契約1ないし4」と題する文章は、被控訴人を「悪魔」あるいは「屍姦症的性格を帯びた邪悪な企業」と呼称するものであり、被控訴人のマスコミとしての信用を害するものであって、就業規則35条2号において「会社の秩序風紀を正しくよくしていくために」遵守すべきとされている「流言してはならない」に反するものというほかないから、控訴人には就業規則71条1号所定の懲戒事由があり、その内容に鑑みれば、14日間の出勤停止処分である本件懲戒処分が不相当であるということもできない。
2 本件配転命令の違法性
控訴人について、いかなる場合にも新聞記者以外の職種への配転がされることはないという内容の限定された雇用契約が締結されたとはいえないところ、本件配転命令は、控訴人が受けた本件懲戒処分が新聞記者としての業務に関して生じた懲戒事由に基づくものであったため、控訴人を本社における取材業務に就かせることは当面相当ではないと判断されたことに基づくものであって、控訴人が入社間もない若年者であったことに鑑みても、その判断には合理性があり、本件配転命令が違法であるとは認められない。 - 適用法規・条文
- 01:憲法21条、02:民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例844号87頁
- その他特記事項
- 本件は上告された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京高裁 − 平成14年(ネ)第2307号 | 棄却(上告) | 2002年09月24日 |