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大阪(医薬品製造等会社)懲戒解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
大阪(医薬品製造等会社)懲戒解雇事件
事件番号
大阪地裁 − 平成12年(ワ)第1413号
当事者
原告個人4名 A、B、C、D

被告N製薬株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2001年12月19日
判決決定区分
一部却下・一部棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、医薬品の輸入、製造及び販売を主な目的とする会社であり、原告Aは昭和45年4月に被告に雇用されて平成10年3月から福岡支店長、原告Bは昭和45年4月に被告に雇用されて平成10年3月から名古屋支店長、原告Cは昭和54年4月に被告に雇用されて平成11年5月から仙台支店長、原告Dは昭和42年3月に被告に雇用されて平成10年3月から大阪支店長の地位にあった者である。

 被告は、輸入販売した非加熱高濃縮血液製剤により多数の血友病患者らにHIV感染、エイズ罹患の被害を与え、これら患者に50億円にのぼる多額の賠償金を支払うことになったほか、平成10年度初頭には、対前年比84.2%という未曾有の打上げ下落を記録した。こうした中、社長の長男で、かつて社長を非難する文書を管理職らに送付し、取締役を辞任したNが、平成11年1月、原告らと会合を持ち、その席上、Nの弟である現被告社長は愛人にうつつを抜かして経営能力を失っているとして、経営陣を一新する考えを示し、新生ビジョンと合わせて署名を集めるよう要請した。原告らはNの要請に賛同し、各支店において署名活動を行った。

 被告は、これらの署名活動についての情報を把握したことから、同年4月30日、N、原告A及び同Cを管理本部に呼び事情聴取したが、被告側が新生ビジョンについての説明を受けることを拒否したことから、原告らは署名活動の事実を否定した。その後、被告側、原告側双方ともお互いを非難する文書等を従業員らに発したり、相手に警告文を発したりしたが、そうした中で、同年5月11日、原告らは解離職組合を結成したが、被告はこれを事件の隠れ蓑であるとして、その存在を認めなかった。

 被告本社において、同年6月7日、原告Aに対する懲戒委員会が開催され、原告Aは事実を否定したが、翌8日、前提事実に従って懲戒解雇された。管理職組合は原告Aの処分撤回のため団交を要求したが、被告がこれに応じないため、同月14日及び15日にストライキを行い、被告本社前に座込みを行った。このストライキに原告Bが参加していたことから、被告は同月15日、原告Bを懲戒解雇処分とした。同月17日、原告Dに対する懲戒委員会が開催され、同原告は事実関係を否定したが、翌18日付けで懲戒解雇され、また同月17日付けで原告Cも懲戒解雇された。

 原告らは、署名活動は新生ビジョンの賛同者を募っただけであること、署名を部下に強要したことはなかったこと、被告は不当労働行為を行っていることなどを挙げて、本件処分の無効確認と、将来にわたる賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告らの訴えのうち本判決確定後に支払期日の到来する金員の支払を求める部分をいずれも却下する。

2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は、原告らの負担とする。
判決要旨
 原告らは、被告に対し、雇用契約上の地位の確認を求めるとともに、既発生部分及び将来分の賃金の支払いを請求するところ、本判決確定後に支払期が到来するものについては、少なくとも現段階において、原告らの労務提供の程度等賃金支払いの前提となる諸事情が確定していない。従って、原告らの訴えのうち、本判決確定後の賃金支払いを求める部分については、訴えの利益がない。

 原告らの署名活動は、被告の経営陣の更迭を求め、Nの擁立を図る目的で行われたものであって、被告の4支店の範囲で多数の社員を巻き込んで行われたものであり、被告の秩序を乱す行為ということができるから、原告らの行為は、就業規則79条3号(職務上のことに関し、虚偽の手続き又は届出を行い職場秩序を乱し、又は乱すおそれのあるとき)に準じる行為であるといえ、同条15号(その他前各号に準ずる行為のあったとき)に該当するということができる。

 原告らは、署名活動は新生ビジョン賛同者を募っただけで、経営陣の更迭を求めたり、Nを擁立したりするものではなかったと主張するが、署名簿である連判状の冒頭には「人心を一新する」旨の記載がされ、署名活動の中で、現経営陣では被告の将来が危ない旨の話に加え、Nが社長になるなどと告げて署名を求めているのであって、経営陣更迭とN擁立が署名活動の目的でなかったとは言い難い。また原告らは、部下に署名を強要したものではなく、署名活動が秩序を乱すものではないと供述するが、経営陣の更迭を求める署名活動は、そのこと自体、経営陣の支持不支持の派閥を作ったり、亀裂をもたらすおそれが強く、強要したか否かを問わず、秩序を乱す行為といわなければならない。

 被告は、管理職組合の結成は、原告らの会社組織破壊の企てについて調査を始めたため、原告らがその事実を隠蔽するべく組織したものであって、隠れ蓑であると主張しているが、解雇等の処分を免れようとして労働組合を結成したからといって、これが実質的に労働組合の実体を持つものであれば、その目的を不当ということはできない。そして、その規約や運動方針を見る限り、管理職組合が労働組合としての実体を有しないということはできない。してみれば、原告Bの座込みは、管理職組合のストライキとして行われたものであるから、これを理由として懲戒処分をすることはできない。

 原告らは、本件各懲戒解雇処分は不当労働行為に該当し無効であると主張する。確かに、管理職組合結成後、被告に、組合結成を認めないという言動、脱退工作や支配介入行為があることが認められるが、原告らに対する懲戒解雇事由は原告らが管理職組合を結成する以前の事柄であって、本件懲戒解雇処分を組合を嫌悪して行われた不当労働行為ということはできない。

 原告らは、懲戒解雇事由があるとしても、相当性を欠く旨主張するところ、原告らはいずれも各支店の支店長という地位にあり、組織、秩序を維持すべき立場にあったにもかかわらず、安易にNの策動に乗り、多数の者を巻き込んで秩序を乱す行為を行ったのであるから、原告らがNの元部下としてその心情からその意向に逆らい難い面があり、一方、被告を改革し、より良い企業環境を構築しようとの意図を有していたこと、署名活動によって被告に具体的な損害が生じたわけではないこと、原告らの被告におけるこれまでの長期間の勤務状況を考慮しても、その責任は大きく、懲戒解雇処分を不相当とすることはできない。

 原告らは、原告B及び同Cに対しては懲戒委員会自体が開催されていないこと、原告A及び同Dについても実質的な弁明の機会が与えられなかったことから、懲戒解雇手続きに瑕疵がある旨主張する。しかし、就業規則74条は「社員を懲戒する場合その必要に応じ懲戒委員会を設けて審査を行う」と規定しているに止まり、被懲戒者の事情聴取や意見陳述は懲戒解雇の要件とはされていないのであるから、同原告らに対する懲戒解雇手続きに不備は認められず、他の原告についても同様である。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例824号53頁
その他特記事項
本件は控訴された。