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H市環境保全公社仮処分事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- H市環境保全公社仮処分事件
- 事件番号
- 大阪地裁 - 平成21年(ヨ)第10079号
- 当事者
- その他債権者 個人7名 A、B、C、D、E、F、G
その他債務者 財団法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年01月20日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部却下
- 事件の概要
- 債務者は、H市地域の環境を保全し、市民生活の安全清潔を確保するため必要な業務を運営すること等を目的として設立された財団法人であり、同市から委託を受けたし尿及びごみ収集業務を主たる事業としていた。債権者らは、債権者Gを除いて、いずれも60歳で債務者を定年退職した後再就職した者であり、債権者Gは平成9年1月30日、債務者の臨時社員として入社した者である。
債権者らと債務者との雇用契約は6ヶ月契約であり、債務者は毎年4月1日と10月1日の2度、債権者らに対し雇用契約書に署名押印を求め、債権者らはこれに応じていた。毎年4月1日の契約更新に当たっては、3月頃債務者の担当者が債権者らと面談し、4月以降臨時雇用者の契約を更新するか否かを決定していたが、10月の更新に当たってはこれらの手続きはとられていなかった。
債務者は、平成21年9月11日、債権者らに対して書面で、本件雇用契約を同月30日をもって終了させ、それ以降は新たな契約を行わない旨の通知をした。また債務者は、同月11日、債権者Aに対し、(1)疾病等により業務従事に不適当と認められる、(2)不正行為又は公社の信用を著しく失墜させる言動が認められた、(3)業務命令・指示に従わず反抗的な態度が認められたことを理由として、解雇予告手当26万円の支払をもって同日付けで解雇する旨通告した。
これに対し債権者らは、現時点では臨時雇用者であるが、元々は債務者の正社員で業務に精通していること、臨時雇用者になってからも雇用期間は5年以上自動更新されてきたことから期限の定めのない雇用契約の実質を有していること、債権者らはラインの中心として指導的な役割を果たしていること、債務者において過去に自己の意思に反して雇止めになった臨時雇用者はいないこと、債権者らが組織する労組は、債務者と交渉を行い、債務者がK協会と統合する平成23年度までは雇用を継続する旨確認したことなどを挙げて、臨時雇用者としての地位の確認を求めた。また、債権者Aに不正行為や信用失墜行為はないこと、指示された業務には応じていること等解雇事由は認められないとして、雇用期間途中での解雇の無効を主張した。 - 主文
- 1 債務者は、債権者Aに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額26万円の割合による金員を仮に支払え。
2 債務者は、債権者Bに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額26万1333円の割合による金員を仮に支払え。
3 債務者は、債権者Cに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額26万1333円の割合による金員を仮に支払え。
4 債務者は、債権者Dに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額26万1333円の割合による金員を仮に支払え。
5 債務者は、債権者Eに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額26万1333円の割合による金員を仮に支払え。
6 債務者は、債権者Fに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額26万1333円の割合による金員を仮に支払え。
7 債務者は、債権者Gに対し、平成22年1月から同年3月まで、毎月26日限り、月額17万8005円の割合による金員を仮に支払え。
8 債権者らのその余の請求をいずれも却下する。
9 申立費用は、これを3分し、その1を債務者の、その余を債権者らの負担とする。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めの有効性
有期期間雇用労働者に関する雇止めについては、(1)期間の定めのない契約に転化しているか、(2)雇用契約継続に対する合理的な期待が存在する場合に、期間の定めのない契約に適用される解雇権濫用法理が類推適用されると解される。
これを本件についてみると、確かに債権者らの更新回数は複数回にわたっており、債権者Gを除く債権者らの業務内容については定年退職前の業務と異ならず、債権者Gの業務は何ら変化がないことが一応認められる。しかし、(1)債権者らと債務者との雇用契約書には6ヶ月の雇用期間の記載があり、正社員とは明確に区別されていること、(2)債務者は毎年3月頃債権者らと面談を行い、継続勤務の意思確認の手続きを行っていたこと、(3)債権者Gを除く債権者らについては、一旦債務者を定年退職した後、臨時雇用者として雇用されており、債権者Gについても他の債権者らと同様、臨時雇用者としての契約であること、(4)「臨時雇用者」とは「雇用契約に基づき、一定期間を定めて雇用される者をいう」こと、(5)労組は65歳以上の者の継続雇用を要求しており、同要求は飽くまでも自動更新が認められていない期間雇用であることを前提として考えられていることが認められ、これらの点からすると、債権者について、債務者との雇用契約が、期間の定めのない契約に転化しているとはいえず、また雇用継続に対する合理的な期待が存在していたとは認め難い。
もっとも、債権者らと債務者との間の雇用契約については、毎年3月頃、債務者の担当者が債権者らに対する継続雇用の意思確認等を目的とする面接を実施していたものの、毎年10月1日時点における契約更新について、債権者らは特に契約更新の意思確認等を実施されることはなく、単に契約書への署名押印を求められるだけであった。そして債務者の業務に係る予算等については、1年間単位で計画等が策定・実施されるのが通常であると考えられることをも併せ鑑みると、毎年10月1日の更新手続きは形式的なものといわざるを得ず、債権者らとしては、毎年10月1日の契約更新については、特段の事情がない限り、自動的に更新されるものであると考えていたと認めるのが相当である。以上からすると、本件雇止め(平成21年9月30日をもってする契約期間満了の取扱い)については、解雇権濫用法理の類推適用を検討する必要がある。
債務者は、(1)平成20年度の累積債務が多額に上ること、(2)債権者らが担当している業務量の減少、(3)臨時雇用者について、日々雇用の代替策を提供していることをもって、本件雇止めには合理的な理由があると主張する。しかし、(1)累積債務については平成21年9月時点で発生したものとはいい難く、同年4月には債権者らとの契約更新をしていること、(2)業務量の変化等をある程度予想できたにもかかわらず、平成21年4月時点において債権者らとの雇用契約を更新していることが認められることからすると、(3)を考慮してもなお、平成21年9月30日時点において、本件雇止めには合理的な理由があるとはいい難く、社会通念上相当であるとも認め難い。そうすると、債権者らに対する本件雇止めは無効であるといわざるを得ない。
2 本件解雇の有効性
本件解雇は、債権者Aとの雇用契約期間(平成21年9月30日)が満了する前である同月11日をもって解雇するというものであり、そうすると、本件解雇については、「やむを得ない事由がある場合」であることが必要になる。
債権者Aは、平成21年6月をほぼ全休し、7月は病気欠勤、8月は21日までの出勤が実質2.5日に過ぎなかったことが一応認められるが、債権者Aは右内頸動脈狭窄症により同年7月1日より入院し、同月7日に手術するという診断書を提出したこと、その間病気入院中であったこと、退院後も有給休暇の手続きを取っていることが一応認められ、これらの点からすると、債務者の業務の円滑な遂行に当たって、債権者Aにも配慮が欠けている点が窺われるものの、債権者Aに就労意思がなかったとは言い難く、また担当業務の変更によって、業務遂行が可能であるとも認められるから、債務者が主張する各点をもって、雇用期間が満了するまでの間に解雇することについて、やむを得ない事由がある場合に該当するとはいい難い。
債権者Aについて、不正行為又は公社の信用を著しく失墜する言動が認められたとの点について見ると、(1)債権者Aが中元及び歳暮を受領していたと一応認められるものの、その目的は明確でなく、債権者Aの方からこれらを積極的に要求したとも認め難く、これをもって解雇理由となる「不正行為又は債務者の信用を著しく失墜する言動」とは言い難いこと、(2)臨時雇用者等との金銭問題に関しては、債権者Aはこれを明確に否定しているところ、仮に債権者Aの返済が滞っていたとしても、それをもって解雇理由とは言い難いこと、(3)債務者が収集できるゴミではない酒類、景品等の産業廃棄物等を債務者所有の収集車で収集させ、処分をなさしめた点について、債権者Aは当時の事務局長の指示の下に行った旨主張しているところ、同指示の有無は不明であること、(4)「債務者有志」名の文書は、業務の改善等を求めるものと認められ、これをもって債務者の信用が著しく失墜したとは言い難いこと等の点からすると、債権者Aについて、不正行為又は公社の信用を著しく失墜する言動が認められたことを認めるに足りる疎明があったとは言い難い。
債権者Aについて、配慮に欠ける面があったことは否定し難く、債務者としても注意指導していたことは窺われるが、債権者Aの問題行動の内容、回数、注意指導の状況、債務者が具体的に如何なる損害を被ったのか必ずしも明らかとはいえないこと等に照らすと、債権者Aに反抗的な態度が窺われるとしても、それらの点をもって、本件解雇が社会通念上相当なものであったとまで認めるに足りる疎明があったとは言い難い。
以上からすると、本件雇止めは無効であり、また債権者Aに対する解雇も無効というべきであって、債権者らは債務者における臨時雇用者の権利を有する地位にあると認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 99:その他労働契約法17条1項、02:民法628条
- 収録文献(出典)
- 労働判例1002号54頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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