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大阪(運送会社)いじめ解雇事件

事件の分類
解雇
事件名
大阪(運送会社)いじめ解雇事件
事件番号
大阪地裁 - 平成21年(ワ)第49号
当事者
原告 個人1名 
被告 株式会社
業種
運輸・通信業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年01月29日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 被告は、運送業等を業とする株式会社であり、原告は平成17年3月被告に採用され、同年6月16日からは正社員として、総務、会計、労務に関わる事務を担当していた。

 被告は、平成20年6月25日付けで、女性社員C及びBを採用した。

 同年8月14日、被告社長はCと面談し、原告から、上司に仕事ができないと言われたこと、Cは建設業経理事務3級を持っているはずなのにどうしてそんなことがわからないのかと馬鹿にされたこと、これまで事あるごとに顎で指示され、露骨に邪魔者扱いされてきたことを訴えられ、退職の申し出を受けた。また、同月19日、社長はCとBから、原告に「採用される予定はなかったのに、他の人が断ったので仕方なく採用された」、「A部長に言って何時でも辞めさせることができる」と言われた旨の訴えを受けた。社長はこれらの訴えに対し、Cが仕事ができないという話は一切聞いていないこと、採用の話は事実無根であること、心配しないで仕事に専念して欲しいことを伝えた。

 同月19日、社長は原告、C及びBの3人を呼んで仲良く仕事をするよう促したが、同月22日には、原告とBが口論したことを聞いた社長がE部長に事情聴取させたところ、Bはこれまで原告に散々いじめられてきたので、我慢できないから退職すると告げた。その後社長は慰留に努めたが、Bは同月29日に退職した。また、同年9月18日、Cは、原告から余りにも失礼な振る舞いに遭い、原告の行動には我慢できないとして退職した。

 被告は、原告がC及びBをいじめによって退職に追い込んだこと、事務のスキルが低く、その向上が期待できないことを挙げて、原告を同年10月1日付けで解雇し、解雇予告手当として24万4944円、退職金として25万8400円を支払ったところ、原告は本件解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、未払賃金の支払いを請求した。
主文
判決要旨
1 本件解雇の有効性

ア 原告によるいじめ等の点について

 C及びBが社長に対し、原告によるいじめ等について苦情を訴えていたことが認められ、C及びBがいずれも入社後短期間のうちに退職していること、社長が原告、C及びBを呼び出して仲良くするように促したことからすると、原告とC及びBとの間に感情的なトラブルがあり、その原因の一端が原告のC及びBに対する言動にあったことが窺われる。しかし、原告はC及びBからの苦情に係る事実を否定し、あるいは当該事実が歪曲されていると主張していること、C及びBが社長に対して訴えていた苦情に係る事実関係の真偽について、被告は、原告あるいは他の職員に対して確認する等の作業を行ったとは認められず、上記苦情に係る事実があったことを証するに足りる的確な証拠があるとはいい難いこと、原告の直属の上司であるA部長も、C及びBからの苦情について、原告に対して注意指導等を行ったとは認められないこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、原告のC及びBに対する言動に多少配慮に欠ける点があったことは否定できないものの、原告が両名に対していじめ等の行為を行っていたとまで認めることはできない。

 また上記の点をおいて、仮にC及びBの申し出に係る原告の言動があったとしても、被告は当該各事実について、C及びBの言い分と原告の言い分を十分に聴取した上で、原告に対して、明確な注意指導あるいは懲戒を行うなどして原告の態度及び職場環境の改善等を図るべきであるところ、本件については、被告において、原告や他の職員に対して事実関係の調査等を行ったとは認められず、また原告だけを個別に呼んで、同人に対して苦情の内容を挙げ、同人の言い分を聴取した上で、注意指導する等の措置を取ったことを認めるに足りる的確な証拠もないといわざるを得ない。

イ 原告のスキルの点について

 被告は本件解雇理由として、原告について、資料の作成が遅く、間違いも多く、特に新たな表計算の資料作成ができず、修繕費実績資料、燃料費実績資料、通行量実績資料等は作成できなかったことを挙げている。しかし、(1)原告は入社して以降、会計、労務に関する事務に従事してきたこと、(2)この間、原告の就労状況に特段問題があったとは認められないこと、(3)修繕費実績資料の作成業務はA部長の所管事項であり、燃料費実績資料及び通行量実績資料の作成業務については、A部長から引き継いだ業務であること、(4)原告が同資料を作成できなかったことを認めるに足りる的確な証拠はないこと、(5)被告が原告に対して、担当業務について変更等の措置を講じたことを認めるに足りる証拠はないこと、(6)被告は原告にパソコンの知識が欠けていたというが、特段被告の業務に支障が生じているとは認め難いこと、(7)C及びBは、家電量販店の業務量確定が見込まれることから新たに採用されたものであること、(8)原告は、被告に入社する以前に、税理士事務所において、約1年余パソコンを使った総務経理関係事務の仕事に従事していたこと、以上の点が認められる。以上の点からすると、原告のパソコン操作等に関するスキルが不足していたとは認め難く、この点に関する被告の上記主張には理由がないといわざるを得ない。

 以上からすると、本件が、少人数の事務所におけるいじめが問題となった事案であること、原告の言動に苦情を訴えていたC及びBが入社後短期間で退職したことを考慮してもなお、原告に対する本件解雇には合理的な理由があるとはいえず、社会通念上相当なものともいえないから、解雇権を濫用するものであり無効といわざるを得ない。

2 原告に対する未払賃金の有無及びその額

 平成20年5月16日から同年8月15日までの3ヶ月の原告の総支給賃金合計額は、64万1633円であり、1日当たりでは6974円となる。被告は原告に対し、平成20年10月1日付けで、解雇予告手当として24万4944円を、同月20日付けで退職金として25万8400円をそれぞれ支払った。原告は、上記支払金合計50万3344円を不当解雇に伴う72日分の賃金相当額として充当した。そうすると、(1)原告が解雇された翌日の平成20年9月25日から平成21年1月5日までの103日分の賃金合計は、71万8322円であるから、上位充当額との差額は21万4978円となること、(2)平成21年1月6日から2月15日までの41日分の未払賃金は28万5934円であること、(3)仮に本件解雇がなければ、原告は1ヶ月当たり21万3878円の賃金を受けることができたこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、原告の賃金支払請求部分には理由がある。
適用法規・条文
07:労働基準法20条、24条
収録文献(出典)
労働判例1003号92頁
その他特記事項
本件は控訴された。