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京都(新聞販売・広告等子会社契約社員)雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
京都(新聞販売・広告等子会社契約社員)雇止事件
事件番号
京都地裁 − 平成20年(ワ)第4184号
当事者
原告個人2名 A、B

被告新聞販売・広告等会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1989年01月01日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
 被告は、平成18年4月、新聞を発行するC社の事業部門である新聞販売、広告等の業務について、C社の委託によりそれらを行うためにC社の全額出資により設立された子会社であり、従前C社から委託を受けてメディア局出版部等の業務を受託していたD社で担当していた業務の一部も被告に承継されることになった。

原告Aは平成13年6月1日、雇用契約期間6ヶ月でD社に雇用されて、平成14年4月からは6ヶ月毎に雇用契約を更新し、平成18年4月1日から被告で勤務するようになって、平成19年4月1日、平成20年4月1日に、それぞれ1年間の雇用契約を更新した。また原告Bは、平成16年5月1日、D社との間で雇用契約11ヶ月とする雇用規約を締結して勤務を始め、平成18年4月1日から被告で勤務するようになって、平成19年4月1日、平成20年4月1日に、それぞれ1年間の雇用契約を更新した。

 C社は、広告収入の大幅な減少等により経営状態が悪化し、平成20年度は赤字に転化して、平成22年度は正社員の募集を取り止めるに至ったことから、被告は平成20年6月2日、原告らに対し、書面をもって、平成21年3月31日をもって雇用契約を終了させる旨告知した。なお、被告の契約社員10名中、正社員に合格した者が2名、途中退職した者が2名おり、残る6名の契約社員については原告らと同時に雇止めの通告がなされた。
 原告らは、被告との間の雇用契約は、期間の定めのないものに転化しており、仮に期間の定めのない契約に転化していないとしても、原告らの雇用期間、契約更新回数、業務の基幹性等からすると、原告らには雇用継続に対する正当な期待権が発生していて、解雇に関する法理が類推適用されるところ、本件雇止めは解雇権の濫用に当たるとして、主位的には、原告らは被告との間で期間の定めのない雇用契約上の地位にあることの確認、予備的には期間の定めのある雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、雇止め後の賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告らの各主位的請求を棄却する。

2 原告Aが被告との間で雇用契約上の地位にあることを確認する。

3 原告Bが被告との間で雇用契約上の地位にあることを確認する。

4 原告らの賃金請求にかかる各訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降の給与の支払を求める部分を却下する。

5 被告は、原告Aに対し、平成21年4月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、月額16万9000円を支払え。

6 被告は、原告Bに対し、平成21年4月1日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、月額16万7000円を支払え。

7 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

8 この判決は、5項及び6項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1 期限の定めのある雇用契約終了の合理性
 使用者と労働者との間で期限の定めのある雇用契約が締結された場合であっても、(1)更新が繰り返され、更新手続きが形式的であるなど、当該雇用契約が期間の定めのない契約に転化したり、実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状況になった場合には、普通解雇の要件に準じた要件がなければ使用者において雇用契約を終了させることはできず、(2)労働者が継続雇用の合理的期待を有するに至ったと認められる場合には、期間の満了により直ちに雇用契約が終了するわけではなく、使用者が更新を拒絶するためには、社会通念上相当とされる客観的合理的理由が必要であると解される。

2 原告らと被告との間の雇用契約が期間の定めのない雇用契約に転化したか
 原告らは平成18年4月にD社から被告に移籍しているが、業務内容に変更はなく、勤務場所もC社の社屋内でフロアが変わっただけであること、被告勤務開始時の原告らの基本給は、D社での勤務年数に応じて違いがあり、有給休暇についてもD社での勤務年数に応じて日数が決められ、被告での賞与についてもD社の在籍期間をも計算対象期間として支払われていたことなどからすると、雇用契約期間や契約更新回数を考えるに当たっては、D社での勤務と被告での勤務は継続しているものと考えるのが相当である。
 しかし、他方、原告らと被告との間で締結された雇用契約の更新に当たっては、必ず契約社員雇用契約書を取り交わしており、その契約書では、4ヶ月ないし1年間の期間の定めのある労働契約であることが明記されていたこと、D社や被告においては、正社員と契約社員は採用方法が異なるほか、入社後においても、転勤や業務内容の変更の有無等が異なっていること、D社や被告では契約社員から正社員への登用試験が存在し、現にその試験に合格して正社員になった者がいること、D社においては、3年を超えて勤続している契約社員がいるが、3年以内で退職した、あるいは3年で退職した者もかなりの数存在することなどの事実関係からすると、原告とD社あるいは被告との雇用契約の更新が形式だけのものであったということはできず、原告らと被告との雇用契約が、期間の定めのない雇用契約に転化した、又はそれと実質的に異ならない関係が生じたと認めることはできない。

3 原告らは雇用継続の合理的期待を有するか
 被告は、契約社員については3年を超えて更新されないという3年ルールが存在すると主張するところ、3年ルールは平成11年4月からC社において実施し、その後D社や被告においても実施されたと認めることができ、正社員と契約社員との採用方法や勤務体系の違い等からすると、3年ルールは一定の合理性を有しているということができる。しかし、3年ルールについては、かなり例外が認められるものであった上に、本来適用されるべきはずの契約社員についてもその適用は厳格にはされていなかったということができる。すなわち、原告Aについては、D社において平成16年4月1日の契約更新により期間が3年を超えることになり、翌年4月以降も継続的に続く企画の担当をさせており、当然雇用契約が更新されることを前提としていたことが窺えること、D社においては、契約社員は3年を超えて勤務している(勤務していた)者が少なくないこと、本件訴訟提起後、D社の在職者で3年の期間満了になる契約社員のうち、3年ルールを十分に承知していなかった者については、1年に限り雇用契約を延長する措置を講じたことなどからすると、原告らが在籍したD社において、3年ルールが厳格に守られ、契約社員に周知されていたとは考えられず、原告らに対してもその旨の説明がされていたと認めることはできない。
 また、被告は、D社から被告に移籍することになる者を対象として平成17年9月22日の説明会において、契約社員については契約更新の上限が3年であることについて説明した旨主張する。確かに説明会の議事録には、上限が3年であることを説明した旨記載されているが、同時に出席した3年ルールの例外である定年再雇用者についてどのように説明したのか不明であるなど、あいまいな点があることは否定できず、3年ルールが一応あるという程度のことを述べた可能性が高く、特に書面は配られなかったこともあり、出席者としては、厳格に3年ルールが適用されるとは考えていなかったということができる。そうすると、3年ルールの原告らに対する説明は不十分なものであったということができるから、3年ルールについて説明をしていたことを理由として原告らにおいて契約期間満了後も雇用継続を期待することは合理的ではなかったとする被告の主張は採用できない。
 原告Aについては、勤続年数7年9ヶ月、更新回数10回、原告Bについては、勤続年数4年11ヶ月、更新回数は4回に及んでいること、原告らの業務は、広告記事の作成やイベントの運営など、ほぼ自分の判断で業務を遂行しており、誰でも行うことができる補助的・機械的な業務とはいえないこと、原告らは契約の満了時期を迎えても、翌年度に継続する業務を担当しており、当然更新されることが前提であったように窺えることなどからすると、原告らとしては、契約の更新を期待することには合理性があるといえる。したがって、原告らと被告との間の雇用契約については、期間の満了により直ちに雇用契約が終了するわけではなく、使用者が更新を拒絶するためには、社会通念上相当とされる客観的に合理的な理由が必要であると解される。
 被告はこの点について、被告を含めたグループの経営状態が極めて厳しく、原告らとの契約を更新しないことについて合理的な理由があると主張する。確かに、C社の広告収入が大幅に減少しており、C社の営業利益は平成20年度は赤字となり、平成22年度の正社員の募集をしなかったなど、解雇もやむを得ないことを窺わせる事情はあるが、被告についての経営状態が明らかではなく、これまで原告らに対し3年ルールを十分に周知せずに契約の更新が重ねられてきたことなどからすると、3年ルールが告知されてから未だ3年に満たない時期にされた本件雇止めを相当とする合理的理由があるとまではいえない。したがって、本件雇止めは無効であるから、原告らは、現在も被告において期間の定めのある契約社員としての地位にあるといえる。

4 原告らの賃金請求
 雇用契約上の地位の確認請求と同時に、将来の賃金請求をする場合には、地位を確認する確定判決後も、被告が原告らの労務の提供を拒否して、その賃金請求を争うことが予想されるなどの特段の事情が認められない限り、賃金請求中、判決確定後にかかる部分については、予め請求する必要がないと解するのが相当である。本件において特段の事情を認めることはできないので、本判決確定後の賃金請求は不適法である。
 平成20年度の給与額は、原告Aが月額16万9000円、原告Bが月額16万7000円であったことが認められ、原告らは、平成21年4月1日以降、本判決確定まで上記の給与の支払を求めることができる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例1004号160頁
その他特記事項