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看護婦頸腕症候群事件

事件の分類
職業性疾病
事件名
看護婦頸腕症候群事件
事件番号
東京地裁 - 昭和51年(ワ)第11493号
当事者
原告 個人1名
被告 学校法人
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1983年02月28日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 原告(昭和29年生)は、高校卒業後の昭和47年4月、被告の経営する大学附属病院青戸分院に准看護婦として雇用されて外科病棟に配属され、昭和48年10月同分院小児科外来に配転され、業務に従事していた。

 原告は、昭和48年12月、肩、腕に異常を感じたが、「ちょっと手がだるい、肩凝りがする」という程度で、特に医師の診察は受けなかった。その後昭和49年5月に新しい症状が出始め、更に同年10月には「ボールペンを長く持っていられない、受話器を長く持てない、風呂桶を上に上げられない」といった症状が出たことから、同月22日に初めて医師の診察を受けたところ、その2日後に、「右上腕骨堯側上顆周囲炎」として「3週間の休業、通院加療の必要」との診断を受け、翌25日以降、療養のため休業し、連日のように診察・治療を受けるなどした。原告は、昭和49年12月17日、初めて東大附属病院のY医師の診察を受け、その後継続して同医師の診察・治療を受けた。

 原告は、本件疾病を業務上のものと主張して、労働基準監督署長に対しては、労災給付申請を行い、被告に対しては業務上災害による休業扱いとするよう要求したが、同署長は、昭和50年9月22日、これを不支給処分とし、被告は、本件疾病を業務上疾病とは認めず、昭和49年11月1日から昭和50年1月31日までを長期欠勤とし、翌2月1日から昭和51年10月31日までを業務外疾病による療養休職として扱い、右休職期間が経過したとして、原告を退職扱いとした。

 これに対し原告は、本件疾病は業務上のものであるにもかかわらず被告は業務外疾病として取り扱っているところ、これは労働基準法19条の趣旨に反し無効であること、被告は原告に対し安全保護義務を負っているのに、その義務に基づく措置をとらず原告を頸肩腕症候群に罹患させ、職員としての地位を剥奪したからこれは違法であるとして、職員としての地位の確認と未払賃金の支払いを求めるとともに、精神的苦痛に対する慰謝料として200万円を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
 原告の疾病の発症と経過、小児科外来勤務当時、原告は1ヶ月に2回ないし3回の当直(午後5時から翌日午前8時30分)などの業務内容と業務量、泣き声等の騒音、昼休みを十分に取れないこともあるなどの作業環境及び同一姿勢での書字作業等の作業姿勢の外、原告は昭和48年4月大学二部に入学し、同年4月から11月まで毎週月曜日から金曜日まで通学していたこと、同年12月から昭和49年7月頃までは週1回通学していたこと、胃炎、感冒、腎炎等の既往歴があること、労働基準監督署長に対し労災給付を請求したが不支給とされたことなどが認められ、とりわけ、

 (1)原告の作業環境は、特に本件疾病の原因となるほど劣悪とはいえないこと

 (2)作業の内容及び態様も、一定の作業を一定の固定された姿勢を持続して繰り返し行うものではなく、診察の介助、その間に書字作業、また必要に応じ、隣室の受付、処置室にも移動するというもので、混合作業と評価すべきものであること

 (3)原告が特に問題としている書字量は、一般の事務作業に比較して特に多いとはいえないこと

 (4)かえって、原告が通学していた大学での講義の書字量の方が多いと推認されること

 (5)原告は小児科外来での業務により本件疾病になった旨主張するが、小児科外来の仕事が外科病棟の仕事よりも厳しいとは言い切れないこと、むしろ青戸分院では一般的には外来勤務の方が楽であるといわれていること

 (6)小児科外来の業務から離れても、長期間軽快しなかったこと、業務を離れてからは、肘の症状よりはむしろ頸を中心とした症状を呈していること

 (7)右症状を改善するために、東大・Y医師はトフラニールの投薬量を途中から増加していること

 (8)原告は外科病棟勤務時には健康であった旨主張するが、原告には既往歴があり、小児科外来勤務後も急性腸炎、感冒、胃炎、遊走腎の疑い、腎炎、気管支炎、潰瘍性大腸炎の病名で青戸分院において治療を受けており、特に本件疾病で病欠する前の月である昭和49年9月には潰瘍性大腸炎にかかり、体力の低下が窺われること

 (9)原告の主張する繁忙期の疲労は、いずれも直前直後の休日によって回復したとみられること、

 (10)小児科外来では看護助手が頸腕症候群と診断されているが、右疾病が業務に起因するかどうかはさておき、右助手の業務と原告の業務は同一と評価できないこと

 (11)原告がした労災給付申請につき、労働基準監督署長が不支給処分をなし、更に原告がしたその審査請求、再審査請求のいずれも棄却されていること

等を総合すると、原告の本件疾病がその業務に起因しているものと認めることはできない。

 よって、原告の本件疾病は業務上のものとは認められない。そうすると、本件疾病は規則の業務外の傷病に該当し、本件退職は有効なものであるから、原告の労働契約上の地位確認を求める請求は理由がなく、また原告のその余の金員請求はいずれも理由がないといわなければならない。
適用法規・条文
02:民法415条、709条、07:労働基準法19条、76条
収録文献(出典)
判例時報1077号135頁
その他特記事項
本件は控訴された。