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東京(コンピューターソフト会社)開発業務担当者出勤停止事件

事件の分類
その他
事件名
東京(コンピューターソフト会社)開発業務担当者出勤停止事件
事件番号
東京地裁 − 平成14年(ワ)第20908号
当事者
原告個人1名

被告B株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2003年07月25日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
 被告は、コンピューターソフトの設計、開発等を業とする株式会社であり、原告は平成元年9月被告に雇用され、平成4年4月に事業推進部の部長に就任した者である。原告は平成9年4月11日に解雇されたが、労働契約上の地位確認等を求める訴訟を提起し、平成11年12月28日、請求を認容する判決を受けて平成12年1月25日職場に復帰した。職場復帰後、原告は、被告が請け負ったり、受託されたソフト開発業務に従事し、そのような仕事がないときは被告事業所において研修をしていた。

 平成14年2月末、被告はA社との間で、被告がA社の注文する開発業務を受託する旨の基本契約を締結し、A社は基本契約に基づいて、被告に対し、C製薬の情報データベース構築業務を注文し、被告はこれを承諾した(本件個別契約)。本件個別契約に先立って、A社は被告に対し、作業者はソフトの基本設計ができること等を要求し、被告は原告をA社の担当者と面談させた上でその作業担当とした。この面談の際、原告はA社及び総研の担当者から、作業はC製薬の情報系データベース構築であること、作業場所はB総研の事業所(三軒茶屋作業場)又はC製薬の事業所(高田馬場作業場)となる見込みであること、作業期間は3月上旬から9月末までを予定している等を告げられた。

 原告は、同年3月1日から、A社から指定された高田馬場作業場で開発業務に従事し始めたが、室温が高過ぎ換気も悪い等作業環境が悪く、体調が優れないことから、A社のHに対して家に持ち帰って仕事をしたいなどと要請したところ、Hは一時的ならともかく継続的にはできないこと、高田馬場作業場以外での作業は難しい旨伝えた。原告は、医師から、血圧が高いため検査や治療が必要と告げられたことから、A社に対し、週のうち何日か持ち帰って仕事をしたいと要請したが、A社はこれを拒否し、原告に対し、このまま仕事を続けるのか、仕事を終了するのかの選択を迫った。これに対し原告は、仕事を終了したいと言ったが、被告は直ぐに代替者を送ることができないため、結局原告は4月末日まで基本設計業務に従事し、業務引継を終えた。

 被告代表者は、5月に入ってから、原告に対し本件個別契約が4月末で終了になった経緯の報告を求め、原告はその報告書を提出したところ、同代表者は、原告の上司らに確認した上、同月24日、原告は就業規則54条の11「職務上の指揮命令に違反した時」に該当するとして、同月27日から6月4日まで原告を出勤停止処分とし、その間の賃金を支払わない旨通知した(本件処分)。これに対し、原告は本件処分は無効であるとして、その間の賃金23万8357円、慰謝料等55万円を被告に対し請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
1 懲戒事由該当性

 原告は、被告が顧客から委託されたC製薬の情報系データベース構築の仕事に従事するため、顧客の指定する場所で業務に従事するよう業務命令(本件業務命令)を受けてその作業に従事していた際、その仕事の元請で、被告の顧客にとっては注文者に当たる者の社員から、その仕事について現在の作業場所を変更することは難しい旨伝えられていたにもかかわらず、被告代表者や社員に何ら相談することなく、被告の顧客の社員に対し、作業環境のため体調が悪いので仕事を終了したい旨直接伝えたことが認められる。そして、原告が被告代表者らに無断で仕事を終了したい旨を顧客の社員に伝えた行為は、被告が顧客の指定する場所で受託業務に従事するよう命じた業務命令に反する行為であるから、原告は「業務上の指揮命令に反した時」(就業規則54条の11)に該当するというべきである。

確かに本件業務命令は、作業場所について具体的な指定はなく、A社の指定する場所とされていたこと、A社の社員から作業場所は高田馬場の作業場のみならず三軒茶屋の作業場もある旨原告が当初から告げられていたことから、原告がA社やB総研の社員に対し作業場所の変更の要望を伝え、変更可能性の有無を尋ねたこと自体は、本件業務命令に反する行為とはいえないものである。しかし原告は、B総研やA社の社員に対し、作業を自宅や三軒茶屋の作業場でできないか等と尋ねて、難しい旨告げられており、この時点で、本件業務命令にいう、A社の指定する作業場所が本件高田馬場の作業場から変更できないことが明らかになったというべきであって、原告がこのような認識を持ちつつ、原告が課長らに相談することなく、作業の終了を希望する旨の要望を伝えたことは、本件業務命令に反する行為であるというべきである。

2 本件懲戒の相当性

 労務遂行上の安全に配慮すべき注意義務を負う使用者としては、労働者から体調不良による就労場所の変更の要望があった場合には、体調不良が作業環境に基づく場合でも、労働者個人の私病に基づく場合でも、当該労働者について就業場所の変更を検討しなければならない。他方、そのような場合でも、使用者は就業場所の変更について当該労働者から必要な調査をし、医療機関の意見を聴く等した上で、変更するかしないか、変更の時期及び変更方法を決定することになるところ、その決定については、労働者に対する安全配慮義務に反しない限り、一定の裁量を有しているものである。

 本件では、原告が仕事の終了を希望する旨顧客に告げた行為により、被告は顧客から代替者の配置を突然要請され、これに対応することを余儀なくされたが、これに対応することができなかったため、少なくとも残り5ヶ月程度の期間継続が予定されていた本件個別契約を4月末で終了せざるを得なかった。

 このように、原告の行為により被告に与えた経済的損害及び信用毀損の程度は軽くないことに加え、原告の業務命令違反行為は過誤に基づくものではないこと、原告がいわゆる管理職に就いていることを併せ考えると、原告が4月末までに本件個別契約による業務に従事し、基本設計と引継ぎを遂行したこと、被告がAから業務委託の基本契約を打ち切られることはなかったことを考慮しても、本件処分は被告の有する懲戒権の行使として、その裁量の範囲内であるというべきである。

3 本件処分が就業規則等に違反するとの原古の主張について

 本件処分は、出勤停止の期間を5月17日から6月14日までとするが、そのうち出勤すべき日は、5月27日(月)から31日(金)まで、6月3日(月)及び4日(火)の合計7日間であったから、この7日間を出勤停止の対象としたものと認めることができ、就業規則55条3項の範囲内で出勤停止処分を課したものといえる。

 期間中の賃金を支払わない出勤停止の場合の賃金控除は、労務の提供を受領しつつその賃金を減額するものではないから、それが懲戒処分としてなされる場合でも労働基準法91条の適用はなく、控除される金額の計算方法が労働契約及び労働基準法24条に照らし合理的なものであれば良い。被告の賃金規定9条は、欠勤、中途退職等の場合の賃金の減額方法について、月ごとに支払われる賃金を欠勤控除する場合には、月ごとの賃金額を各月の所定労働日数で除して、欠勤日数を乗じる方法によるべきであるとしており、被告がした出勤停止期間中賃金の算定方法はこれに沿うものであって、合理的である。
適用法規・条文
07:労働基準法24条、91条、11:労働者派遣法4条3項
収録文献(出典)
労働判例862号58頁
その他特記事項
本件は解雇事案としても争われた(東京地裁平成15年(ワ)6071号、2004年1月14日判決)。