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関労基署長(鶏肉製造加工業)くも膜下出血死控訴事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 関労基署長(鶏肉製造加工業)くも膜下出血死控訴事件
- 事件番号
- 名古屋高裁 − 平成8年(行コ)第30号
- 当事者
- 控訴人関労働基準監督署長
被控訴人個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年10月22日
- 判決決定区分
- 控訴棄却
- 事件の概要
- M(昭和7年生)は、昭和59年10月、鶏肉の製造加工業を営む本件会社に雇用され、以来同社敷地内にある従業員寮に単身で寄宿しながら、鶏の解体作業に従事していた。
Mの発症前7ヶ月間の拘束時間の合計は約2450時間であって、年間に換算すると、約4200時間となり、この間の実労働時間は2145時間で、年間に換算すると約3677時間となって、当時の日本の労働者の平均の約1.74倍の時間の労働に従事していた。発症前1ヶ月間におけるMの拘束時間の合計は約294時間、実労働機関の合計は約252時間、時間外労働時間の合計は66時間48分であり、発症前1週間の実労働時間の合計は約58時間であった。
Mは、昭和61年3月4日午前9時40分頃、柱の角にもたれかかるような状態でいるところを発見され、救急車で病院に搬送されて治療を受けたが、同日午後4時20分にくも膜下出血により死亡した。
Mの妻である被控訴人(第1審原告)は、控訴人(第1審被告)に対し、Mの死亡は業務上の死亡であるとして、労災保険法に基づき、遺族補償年金及び葬祭料を請求したが、控訴人は不支給の処分(本件処分)をした。被控訴人は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決を受けたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、Mの業務と死亡との間に相当因果関係が認められるとして、本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、正当としてこれを認容すべきものと判断する。
Mは、会社の敷地内にある寮に単身で居住し、会社の食堂において三食を提供されていたから、通勤による疲労はなく、かつ食事の準備をする必要もなかった。しかし、寮は二段ベッドの2人部屋であり、娯楽施設は乏しく、Mは休日に帰宅すると「久しぶりに畳に大の字になって寝られる」等と言って長時間寝ていることが多かったことが認められるから、寮での単身生活は、精神的に落ち着かない部分があって、疲労回復という面では自宅からの通勤よりマイナス面もあるということができ、Mの居住環境は、特に疲労の蓄積を防止できるものであったとはいえない。
疲労の蓄積あるいはストレスは、脳動脈瘤の増大及び破裂の危険因子となるところ、高血圧自体も脳動脈瘤破裂の危険因子であるから、境界域高血圧の労働者にとっては、そうでない労働者と比較して、疲労の蓄積あるいはストレスはより危険因子になりやすいといえる。
Mは、発症前7ヶ月間にわたる慢性的に続いたともいえる著しく長い労働(ただし、発症前1ヶ月間は若干軽減した)と作業環境により、発症1週間前の段階では相当な疲労が蓄積し、比較的軽度の刺激によっても血圧が上昇しやすい状態になっており、Mが発症直前に行っていた作業は、Mの血圧を相当程度上昇させるに足りるものであった。その一方、Mの血圧が境界域高血圧の限度で止まっており、脳動脈瘤の破裂率を考慮すると、Mの年齢を考慮しても、Mの脳動脈瘤が右のような要因を受けることなく自然的に経過したときにも、破裂を発症させる状態であったとは直ちにはいえないところである。また、発症前7ヶ月間において、Mの業務外の生活において、疲労の蓄積あるいはストレスの増大をもたらし、あるいは血圧の上昇をもたらす事由の存在は認められない。そうすると、Mの脳動脈瘤破裂は、業務による過度の精神的、肉体的負担によって、先天的要因と境界域高血圧という基礎疾患が自然の経過を超えて急激に悪化したために発症したものと認められ、業務との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。 - 適用法規・条文
- 07:労働基準法79条、80条、99:その他労災保険法7条、16条、17条
- 収録文献(出典)
- 判例タイムズ1015号145頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
岐阜地裁 − 平成3年(行ウ)第8号 | 認容(控訴) | 1996年11月14日 |
名古屋高裁 − 平成8年(行コ)第30号 | 控訴棄却 | 1998年10月22日 |