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地公災基金愛知県支部長(名古屋市立中学校教員)心臓死控訴事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金愛知県支部長(名古屋市立中学校教員)心臓死控訴事件
- 事件番号
- 名古屋高裁 − 平成8年(行コ)第11号
- 当事者
- 控訴人地方公務員災害補償基金愛知県支部長
控訴人個人1名 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年10月08日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- Kは昭和58年6月当時、51歳、勤続29年の教諭で、9年前に胸の痛みのため2日間入院した外は病歴や欠勤歴はなく、昭和56年に高脂血症との検査結果があり、飲酒の習慣はないものの1日20本程度の喫煙習慣があるという状態で、昭和53年4月から生徒指導主事として、生徒指導の企画立案及び処理に当たっていた。Kの勤務していた中学校は、生徒数1500人を超える大規模校で、昭和57年9月以降は、シンナー吸引、窃盗、恐喝等の問題行動が目立ち、「荒れる中学校」の様相を呈していた。昭和58年に入ってからは、新聞報道されるような対教師暴力があり、生徒の家出、死亡事故などが起こり、Kはその対応に追われるとともに、修学旅行や祭りの際の防犯対策の立案などで、深夜から早朝に及ぶ残業をし、時間外勤務時間は1ヶ月平均54時間に上っていた。
昭和58年4月以降気鋭の校長が登用され、生徒指導に関心の深い男性教諭を2名配置するなどの体制整備が行われ、問題行動に対し警察通報をも辞さないとする学校の方針が示されたことから、Kは問題行動を減少させるため、非常な努力をしていた。同年6月27日、Kは一旦帰宅した後、同僚らとともに学内パトロールを行い、その後麻雀をして帰宅し、翌28日午前1時頃就寝したところ、午前3時15分、急性心筋梗塞により死亡した。
Kの妻である被控訴人(第1審原告)は、Kの死亡は公務に起因するものであるとして、控訴人(第1審被告)に対し、地公災法に基づく遺族補償給付及び葬祭補償給付の支給を請求したが、控訴人はこれを不支給処分(本件処分)とした。被控訴人は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却の裁決されたため、被控訴人は、主位的には本件処分はKの死亡が公務上の事由によると認められるにもかかわらず、これを認められないとの判断に基づいてされた点で違法であること、予備的にはKの死亡は公務上の死亡に当たるとして、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。
第1審では、被控訴人の予備的請求を認め、Kの死亡には公務起因性が認められるとして本件処分を取り消したことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 本件は主位的請求を提起するについて被控訴人が誤って不支給処分の取消しを求めたとしても、その前提には控訴人が昭和60年5月31日付けでなした唯一の処分(本件公務外認定処分)が存するだけであるから、主位的請求を提起した時に変更後の予備的請求にかかる公務外認定処分の取消しの訴えがあったと解すべき特段の事情があったと解される。
控訴人は、Kは昭和57、58年に年次休暇を取っていなかったとしても、昭和57年9月から同58年6月までの間に1ヶ月延べ6日ないし15日の休暇を取っており、この間教員には夏休み、冬休み等の長期研修日という出勤を要しない日もあるのであるから、疲労困憊などしていなかった旨主張する。
しかしながら、控訴人の休日の計算は土曜日も休日に計上するなどその算定方法に問題があるし、校長でも1人で校内を歩くのに危険を感じることもあったという事実を合わせ考えれば、当時の中学校の異常な事態は十分理解できるところ、これによれば同校の教師が当時置かれていた状況や苦慮は休暇の有無で対応できるものではなかったこと、Kは生徒指導主事として一応は校外指導を分担し、その下には学年主任、副主任がつけられていたし、主任各自は協力していたとはいえ、生徒の問題行動は全て総括責任者であるKの下に伝えられ、Kは直接、間接に全てのことに関わらねばならなかったことはもとより、職員ばかりでなく問題行動を起こす生徒に指導力のあったKは何かにつけ重宝がられ、歯医者に通う時間も惜しんで職務を全うせざるを得なかったこと、教員には超勤という概念は直ちには容れられないまでも、Kの時間外勤務は、昭和57年9月から同58年6月までの10ヶ月に限っても1ヶ月平均約34時間、昭和58年2月から同年6月までに限れば1ヶ月平均約54時間になること、更に昭和58年度から校長以下職員の約4分の1が異動し、新たに地域の協力も得るとともに、問題行動に対しては直ちに警察通報も辞さない校長の方針に変更したこと等を総合して判断すると、荒れる中学校として世間の注視を集める学校の生徒指導主事としてのKの責任は前にも増して重くなり、更に一方では問題行動を起こす生徒やその父兄からも一定の信頼を集めていた同人は学校の方針転換との間にジレンマを感じていたであろうことは容易に推認されるところ、結局問題行動を少なくするにしくはないとして異常な努力をして疲労を増大させたものと認められる。当時のKの状態については同人と僅か2ヶ月間ばかり勤務しただけの校長さえ同人が疲れていると感じていたばかりでなく、同人の死後容易に後任者を選ぶことができなかったことによっても大変なものであったと認められる。以上のとおりであるから、控訴人のこの点の主張は採用しない。
よって被控訴人の本件公務外認定処分の取消しを求める被控訴人の予備的請求は理由があるとしてこれを認容した原判決は相当である。 - 適用法規・条文
- 99:その他地方公務員災害補償法31条、42条、45条
- 収録文献(出典)
- 判例タイムズ989合110頁
- その他特記事項
- 本件は、「名古屋地裁昭和63年(行ウ)1号、1996年5月8日」の控訴審である。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁 − 昭和63年(行ウ)第1号 | 主位的請求却下、予備的請求認容 | 1996年05月08日 |
名古屋高裁−平成8年(行コ)第11号 | 控訴棄却(確定) | 1998年10月08日 |