判例データベース

東京(書店編集者)雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
東京(書店編集者)雇止事件
事件番号
東京地裁 - 平成21年(ワ)第15590号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年12月21日
判決決定区分
一部認容・一部却下(控訴)
事件の概要
 被告は、書籍の出版等を目的とする株式会社であり、原告は平成19年6月18日、被告との間で、期間を同日から同年12月31日まで、賃金を月額23万円と定めて雇用契約を締結した女性であって、平成20年7月に結成された労働組合東京ユニオン明石書店支部(組合支部)の組合員である。原告と被告は、期間を平成20年1月1日から同年12月31日まで、賃金は月額24万円と定めて上記契約を更新した(本件契約)。

 被告の人事制度は、入社時に全採用者との間で一旦有期労働契約を締結して、数年後にその中から正社員を登用するというものであり、同契約は、問題がなければ更新されることが予定されていたところ、平成20年11月26日、原告は被告に対し本件契約の更新を要求し、翌27日、被告は原告に対し、契約内容の不利益変更がないことを強調した上で、本件契約を同内容で更新する旨提案して原告はこれを承諾した。ところが、同年12月2日の団体交渉が終わりかけたところ、被告は不更新予定条項の追加の通告を含む書面(原告を1年間だけ契約更新し、平成21年12月末日の期間満了をもって終了するとの条項)を組合委任交付して、関係者が直ぐに退席した。原告がこれは受け容れがたいとして拒否したところ、被告は平成20年12月31日、本件契約が期間満了により終了したとの理由で原告を雇止めし、平成21年1月以降の原告の就労を拒否した。

 これに対し原告は、(1)原告と被告との間には、本件契約について「翌年も今年と同内容」で契約を締結する合意が成立していたこと、(2)仮に本件契約の更新の合意が成立していなかったとしても、被告の人事制度は上記のとおりであり、既に1回の更新を済ませていること、(3)正社員と契約社員は同じ就業規則が適用され、勤務時間や仕事内容に差はないこと、(4)原告は平成20年12月の時点で、翌年以降も継続する事業を担当していたことなどから、本件契約は実質的には期間の定めのない契約と変わりはなく、またある程度の継続が期待されるとして、本件雇止めの無効を主張し、従業員としての地位の確認と、賃金の支払いを請求した。
主文
1 原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2 被告は、原告に対し、96万円及びそのうち24万円に対する平成21年2月11日から、24万円に対する同年3月11日から、24万円に対する同年4月11日から、24万円に対する同年5月11日から、それぞれ支払済みまで念6分の割合による金員を支払え。

3 被告は、原告に対し、平成21年6月から本判決確定まで、毎月10日限り月額24万円及びこれらに対する各支払期日の翌日から、それぞれ支払済みまで念6分の割合による金員を支払え。

4 原告のそのほかの請求にかかる訴えを却下する。

5 訴訟費用は被告の負担とする。

6 この判決の第2項及び第3項は、仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件契約の更新合意の成否

 被告は、平成20年11月27日、原告に対し本件契約を概ね同じ内容で更新する旨提案したが、その際契約内容について新たな提案をすることを留保した旨主張する。しかし、更新後の契約に本件契約とは異なる新たな内容の条項が加わる可能性があるとしたら、原告や組合支部関係者は、どのような条項が加わるのか、それが不利益変更ではないのか、その場で確かめようとしたはずであるが、その形跡が窺われないから、被告の主張はそのまま採用することはできない。

2 本件雇止めの相当性

 (1)被告の人事制度は、入社時に全採用者との間で一旦有期労働契約を締結して、数年後にその中から正社員を登用するというものであり、同契約は問題がなければ更新されることが予定されていた。(2)原告が担当していた書籍の編集は、継続的・計画的な仕事というべきであるところ、原告は平成20年12月頃、実際に平成21年中に発行された書籍の編集を複数担当していた。(3)被告は、平成20年12月2日の団体交渉が終わりかけた頃、不更新予定条項の追加の通告を含む書面を組合側に交付して直ぐに退席した。(4)原告は、本件契約の更新合意問題は既に解決したものと考えて、同日の団体交渉に出席しなかったが、当日夜、不更新予定条項の追加の通告があったと知らされて愕然とした。(5)原告は、12月17日の団体交渉において、不更新予定条項の追加の理由や不利益変更の目的を問い質したが、納得のいく説明を得ることができなかった。以上によれば、平成20年11月27日の時点で、原告と被告の間に、本件契約を同じ内容で更新する旨の合意が成立したと認めることができる。

 被告は、平成10年以降、全社員との間で、更新の場合も含めて例外なく労働契約書を作成しており、契約書の作成によって初めて契約が成立する慣行が成立しているから、何らの書面が作成されていない本件契約において、更新合意は成立していない旨主張する。しかし、一般的に契約は合意により成立するものであるし、本件契約は7カ条だけのシンプルな契約であるから、これを同じ内容で更新する旨の合意をするに当たり、殊更書面の作成を成立要件とすべき理由は見出しがたい。

 また、被告は、契約社員のあり方について、反復更新はできる限り回避し、正社員に登用できない契約社員の契約を打ち切る方針を立てていたところ、これにより、企画力が欠如している原告を正社員に登用することはできないと判断して、厚生労働省告示に基づき、不更新予定条項の追加を通告したと主張する。しかし、被告が上記の方針を立てた時期が不明確であり、本件訴訟において後付の理由として持ち出されたものと考えられる。

 厚生労働省告示は、労働契約の当事者に対し、合意の内容に応じて更新の有無を明示することを求めるものであり、合意がないのに一方当事者が追加したい事項の明示を求めるものではない。また、本件において、契約社員との間で有期労働契約を締結しておきながら、その取扱いを正社員登用か不更新予定条項の追加のいずれかに限定し、契約の反復更新の可能性を排除するという方針は、それ自体不合理なものといわざるを得ない。そうだとすると、本件契約の更新合意の成立に対する否認の理由は、いずれも失当というべきである。

 以上によれば、現在の原告・被告間には、期間を平成21年1月1日から12月31日まで、賃金を月額24万円と定めた労働契約が存在することになるから、原告の請求のうち、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、並びに現在までの賃金の支払いを求める部分には理由がある。

 また、上記認定事実によれば、本件契約は、これまでの更新回数は少ないが、少なくともある程度の継続が期待される(平成21年末で直ちに期間満了により終了すると判断することは、本件紛争の実態に合致しない)ものということができるから、将来の賃金請求権は、下記の範囲を除く部分について理由があるということができる。

3 本判決確定後の賃金請求について

 原告らは、本判決確定後についても毎月の賃金請求をしているが、雇用契約上の地位の確認と同時に将来の賃金を請求する場合には、地位を確認する判決確定後も、被告が原告からの労務の提供の受領を拒否して、その賃金請求権の存在を争うなどの特段の事情が認められない限り、賃金請求中、判決確定後にかかる部分については、あらかじめ請求する必要がないと解するのが相当である。
適用法規・条文
02:民法536条2項
収録文献(出典)
労働判例1006号65頁
その他特記事項
本件は控訴された。