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医療機器販売等会社勤務成績不良雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
医療機器販売等会社勤務成績不良雇止事件
事件番号
東京地裁 − 平成20年(ワ)第31322号
当事者
原告個人1名

被告H社
業種
卸売・小売業・飲食店
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年04月09日
判決決定区分
一部認容・一部却下・一部棄却
事件の概要
 被告は、医療機器の販売等を目的とする株式会社であり、原告は大学卒業後の平成17年4月に被告に入社した従業員である。

 原告は、入社当初、営業担当社員とともに、被告の製品を卸している病院等に対する営業業務に就いた。原告は、試用期間中の平成17年6月7日、先輩社員に同行して訪れたY病院において、手術立会中に声を上げて伸びやあくびをしたり、手術室のドアを開閉させるなどの行為を繰り返し、被告は同病院から無期限での手術室の立会及び原告を同行しての営業活動を禁止された。また、他の病院でも原告の態度についてクレームがあったほか、顧客を交えた会議での居眠りを注意されたり、品川分室に訪問する際、大幅に遅刻したのみならず、遅刻する旨の連絡も怠ることもあったが、これについての反省もなかった。

 被告は、原告の勤務態度から、営業職に従事させることはできないと判断し、平成17年10月3日から人事室付けとしたが、原告はより重要なポストに就く準備との言動を行い、他の従業員の反感を買った。原告は、人事室において、電話や訪問者の受付業務、各事業部の補助業務、郵送関係業務などに従事したが、電話の聞き取りの間違いや郵便物の仕分けの間違い、送付先の誤りなどのミスを繰り返し、反省文を書かされた外、原告が給与明細を配る際に、給与内容を知っているかのような言動をしたため、従業員から苦情が出され、始末書を書かされるなどした。

 被告は、原告のこうした勤務振りを見て、他の従業員の目がなく、転職活動をしやすいことを配慮して、平成18年3月1日付けで倉庫勤務に配置換えしたが、出勤簿をその都度ではなく、まとめて提出するなどして、上司から注意された外、倉庫勤務中に15回の遅刻を繰り返した。被告は、原告の解雇は避けられないと判断し、平成19年1月26日、原告に人事室付きに異動させ、同年3月末まで社宅と給与を保障した自宅待機とし、その間、週1回の社内会議への出席以外は自由行動とした。また、被告は、同年4月以降原告が被告に勤務を続ける場合はSOHO勤務とすること、その場合は東京での勤務は不要だから社宅の使用は認められないことを原告に説明し、同年3月末までの社宅の明渡しを求めた。原告は、この指示を受けて引越し先を探すなどしたが、結局同年3月末までに社宅を明け渡さなかった。被告は、転職の便宜を考慮して自宅待機としていた原告について、同年4月1日付けでSOHO勤務者とし、SOHO勤務の場所を申告するよう原告に命じたが、原告はこれに応じなかったため、被告は、原告を同年9月末日をもって解雇した。原告は、平成20年2月20日付けで本件解雇に対する仮処分の申立をしたところ、裁判所は同年9月30日付けで申立を棄却した。

 そこで原告は、解雇に該当するような事実はないから、本件解雇は無効であるとして従業員としての地位の確認を求めるとともに、社宅以外に住まいはないから、SOHO勤務の場所の申告は不能であるとして、平成19年5月から行われた家賃控除の合計69万9000円を請求した。
主文
1 本件の第1請求欄第3項に係る訴えのうち、本判決確定日の翌日以降の金員の支払を求める部分を却下する。

2 被告は、原告に対し、69万9000円及びこれに対する平成20年11月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用はこれを12分し、その11を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

5 この判決は第2項に限り仮に執行することができる。
判決要旨
1 本件解雇の有効性

 原告の勤務状態は著しく不良であり、業務上の指示に違反し、社内の業務遂行を阻害するような行為があったものと認められ、原告には就業規則の解雇事由が認められる。そして、解雇事由に該当する営業先の病院において、あくびをしたり、言動・態度が無責任かつ不快と注意されるなどの問題行動を繰り返したことにより取引先の病院から原告を同行しての営業活動を禁止された事実、顧客を交えての会議で居眠りを繰り返し、退室を命じられた事実、品川分室を訪問する際に連絡なく遅刻した事実、倉庫勤務の出勤簿を期間内に提出しない等の各事実について原告の情状は特に悪いというほかないから、被告が原告を解雇すると判断したことは客観的に合理的な理由が認められる。これに加え、被告が、原告に営業業務を任せられないことを確認した後も、新卒者として採用された原告の立場を考慮して、直ちに解雇することなく教育を試みたこと、にもかかわらず、原告が基本的な定型業務すら満足に実行できず、給与明細を知っているかのような軽率な言動を行って、人事の信用を毀損したこと、被告が、社会人としての基本的な素養ないし資質を問われるような過誤や問題行動を繰り返す原告の業務に対する姿勢や注意力の欠如を踏まえて原告の雇用継続困難と判断した後も、本件解雇までの約8ヶ月間を転職の準備期間として便宜を図っていること、原告もこれに応じて転職のための就職活動をしていたことなどの各事情を総合すると、原告を解雇することが解雇権の濫用であるとは認められない。したがって、本件解雇は有効であり、原告と被告との間の雇用契約は本件解雇により終了したものと認められる。

 原告は、居眠りや営業先の出入り禁止について、解雇を相当とする程重大なものではないと主張する。しかし、かような社会人として基本的な言動や態度について、営業先顧客から注意されたり、出入り禁止とされたことは、営業社員の態度として目に余るものであったことが推認され、営業活動の根本というべき顧客との信頼関係構築を阻害するものであって、勤務状態としても著しく不良であることは明らかである。また、顧客を交えた会議で2回にわたり居眠りをして退室を命じられることも同様の評価を免れない。

 原告は、被告から始末書を徴収されていないことや半休扱いになっていることを挙げて、遅刻が重要視されていなかったと主張する。しかし、遅刻だけでなく、遅刻の連絡を怠ることは社会人として考え難い失態であり、遅刻し報告を怠ったことについて報告を命じられていること、手書きの反省文の作成を命じられていることなどに照らして、被告においてこの遅刻及び連絡を怠ったことが重要視されていたことは明らかであり、原告の主張は認められない。

 原告は、輸送関係業を遂行する能力がなかったという評価は成り立たない旨主張するが、金沢営業所宛てに名古屋営業所宛の送付物を封入したこともあり、その他基本的な定型業務について、集中力、注意力を欠き、業務上の命令・指示に反し、又は職務を怠り、若しくは社内業務の遂行を阻害するような行為があり、勤務状態が不良であったと認められる。

 出勤簿への記載自体はその性質上も、その都度記載するべきものであり、上長からも早退、半休をその都度記載することが指示されているにもかかわらず、原告は後日まとめて記載するため正確な出勤時刻や退社時刻の記載をせず、また半休の記載を怠るなどした上、出勤簿の上長への提出は1週間単位とされ、複数回にわたって上長から指導されたにもかかわらず、1ヶ月分を遅れて提出するなど被告における適正な勤怠管理を妨げたことは、社内業務の遂行を阻害したといえる。

2 本件各家賃控除の効力如何

 被告は、SOHO勤務に伴い、平成19年4月以降は原告に対する社宅の提供は不要との判断の下に、同年2月2日、賃貸人に対して本件社宅の賃貸借契約解約の通知をした。にもかかわらず、原告は社宅から退去しなかったため、被告は平成19年5月以降、原告から異議の出る同年9月3日まで、原告の給与から社宅の賃料相当額を控除した。上記事実によれば、本件各家賃控除について、原告の明示又は黙示の承諾があったものとは認め難く、被告によって一方的になされた本件各家賃控除は賃金の全額払の原則(労働基準法24条1項)に反して認められず、原告は被告に対し、賃金請求権に基づいて、本件家賃控除に係る控除合計額69万9000円の支払いを求めることができる。
適用法規・条文
07:労働基準法24条1項
収録文献(出典)
労働経済判例速報2079号14頁
その他特記事項