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東京都自動車振興整備会降格処分控訴事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 東京都自動車振興整備会降格処分控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成21年(ネ)第826号
- 当事者
- 控訴人 社団法人
被控訴人 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年11月04日
- 判決決定区分
- 原判決取消(控訴認容)
- 事件の概要
- 控訴人(第1審被告)は、道路運送車両法及び民法に基づき設立された社団法人であり、被控訴人(第1審原告)は、昭和54年4月控訴人に採用され、平成16年11月足立支所に配置換えとなり、副課長に任用された者である。
被控訴人は、個人加盟の労働組合の副中央執行委員長であり、同労組分会と被告は平成17年春の賃上げ及び夏の賞与の決定について容易に合意に達しなかったことから、同年11月30日、分会は昇給及び賞与の支払い等を求める抗議行動を行った。控訴人は、同年12月2日、分会に対し、業務を違法に妨害したとして、「抗議・警告文」を送付し、被控訴人に対しては弁明書の提出を求める業務指示書を交付しようとしたが、被控訴人がこれに応じず、分会が不当労働行為であると抗議したことなどから、弁明の機会を放棄したものとみなし、支部会員や他支部職員らに対し侮辱的言動を繰り返したことを理由に、被控訴人を副課長から係長へ降格した。
これに対し被控訴人は、処分の理由とされたことは、事実でないものも含まれ、事実としても侮辱的な言動には当たらないこと、本件処分は被控訴人の組合活動を嫌悪して行われた不当労働行為に当たることを主張し、本件処分の取消し及び役職手当の差額並びに精神的損害に対する慰藉料300万円を請求した。
第1審では、降格処分の理由とされた事実はいずれも確認できない上、仮にそれらの事実があったとしても、降格処分に当たる程の悪質性は認められないとして、被控訴人による地位確認及び役職手当の差額請求を認めるとともに、慰謝料30万円を認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 本件降格処分は、足立支所業務課副課長から同業務課係長に役職を引き下げるものであるが、懲戒処分として行われたものではなく、控訴人の人事権の行使として行われたものである。このような人事権は、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れられるのではなく、職業能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、その権限の行使については使用者に広範な裁量権が認められるというべきである。そうすると、本件では、本件降格処分について、その人事権行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かという観点から判断していくべきである。そして、その判断は、使用者側の人事権行使についての業務上、組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か、労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきものである。ただし、それが不当労働行為の意思に基づいてされたものと認められる場合は、強行規定としての不利益取扱禁止に違反するものとして、無効になるというべきである。
(1)控訴人の業務は、会員である自動車分解整備業者に対し、その事業の運営等に関し、各種のサービスを提供することを主たる目的とし、その事業は主として会員の会費によって賄われているものである。支所の業務も、自動車整備事業場に関する相談受付、法令研修の申込みの受付、自動車整備士講習の申込みの受付、自動車重量税等の印紙の頒布、自動車税の納税確認、検査予約の確認など、会員に対するサービス業務が中心で、そのための窓口対応や電話対応が相当な比重を占めているのである。(2)被控訴人が就いている副課長というポストは、支所長に次ぐ管理職ポストであり、窓口の責任者的立場にあるから、当然他の職員に対して模範となるべき立場にあり、また他の職員を指導することが期待される地位にあったものであって、被控訴人自身も窓口対応や電話対応に当たっていたものである。(3)ところが、被控訴人の窓口対応、電話対応を巡って、会員ないし支部事務局職員から苦情が複数控訴人に直接寄せられた。また、平成17年8月の足立支部役員会の席上、被控訴人の言動の悪さは目に余る、署名運動を起こそうという意見まで出たし、同年9月の足立ブロック正副ブロック長会議でも、被控訴人の窓口対応の悪さへの対応が議題として協議され、その結果、支所長が被控訴人に対し窓口対応等の苦情を伝えて注意したのである。ところが、その後再び被控訴人の窓口対応についての苦情が出て、同年12月のブロック長会議でも再びこの問題が取り上げられるに至ったのである。
控訴人にとって、窓口対応、電話対応は重要な仕事であるところ、被控訴人は他の職員に対し模範となるなるべき地位にあるにもかかわらず、その対応の悪さが会員や支部事務局の職員の間で問題となり、足立ブロック正副ブロック長会議等でも何度も取り上げられるまでに至ったのである。そうすると、会員の会費によって活動が賄われ、会員に対するサービスを業務とする控訴人にとっては、このような会員の不満、苦情に対処して何らかの対応措置をとるべき業務上の必要性が大きいことは容易に看取することができる。また、足立支所のナンバー2で、他の職員を指導したり、仕事の上で模範になるべきポストに会員から苦情が続出している者を就けておくことが組織上の観点からふさわしくない、また被控訴人は副課長としての能力・適性に欠けると判断したことが、合理性を欠く判断であるとはいえないことが明らかである。そして、これらの点に、本件降格処分は、副課長から1ランク下の係長に降格するだけのもので、役職手当上の不利益も僅か本給額の1%(3862円)の違いに過ぎないこと等を総合すると、控訴人が本件降格処分をしたことにつき、裁量権の逸脱又は濫用があるとは認め難いというべきである。そうすると、被控訴人の請求は、いずれも理由がないことになる。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条、
12:労働組合法7条 - 収録文献(出典)
- 労働経済判例速報2055号13頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 - 平成19年(ワ)第10777号 | 一部認容・一部棄却(控訴) | 2009年01月19日 |
東京高裁 - 平成21年(ネ)第826号 | 原判決取消(控訴認容) | 2009年11月04日 |