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青森(私立高校)常勤講師雇止控訴事件
- 事件の分類
- 雇止め
- 事件名
- 青森(私立高校)常勤講師雇止控訴事件
- 事件番号
- 仙台高裁 - 平成21年(ネ)第334号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
控訴人 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2010年03月19日
- 判決決定区分
- 控訴一部認容・一部棄却(上告)
- 事件の概要
- 被控訴人(第1審被告)は、学校教育等を目的とする法人で、高校、幼稚園、福祉専門学院を設置運営しており、控訴人(第1審原告)は、平成16年4月1日、本件高校の公民科の常勤講師として雇用された者である。その雇用期間は平成17年3月31日までとされていたが、その後1年ごとに、平成20年3月29日まで3回雇用契約が更新された。
控訴人は、被控訴人に対する住居届、通勤届等において、実家の所在地を住所としていたところ、平成19年頃には婚約者と同居し、同人が居住していた賃貸住宅を実質的な生活の本拠としていた。しかし控訴人は、当時はまだ未入籍であったことなどからその変更届をしていなかったところ、この事情を知った被控訴人から事情を聴取され、平成20年1月23日、届出書類と異なる通勤状況であったことについて謝罪する旨の始末書を提出し、同月25日、通勤手当の過剰受給につき戒告処分を受け、過剰受給額を返還した。しかし、その後も原告は住所変更届を提出しなかったため、被告がその提出を督促し、控訴人は同年2月19日、以後は実家から通勤する旨の顛末書を被控訴人に提出した。
被控訴人の事務局次長は、同月22日、25日、27日の朝、婚約者宅の駐車場に原告の自動車があることを確認したことから、被控訴人は、控訴人に対し、同月27日、同年3月29日の雇用期間満了により本件雇用契約を終了させ、以後の雇用はしない旨伝えた。
これに対し控訴人は、本件雇止めには解雇の法理が類推されるところ、本件住居変更届等を理由とする雇止めは解雇権の濫用に当たるとして、雇用契約上の地位にあることの確認と賃金の支払いを請求した。
第1審では、本件雇止めには解雇の法理が類推されるとしつつも、控訴人が顛末書を提出してからもその内容に反する行為を継続していたことは、被控訴人との信頼関係を傷つけるものであるとして本件雇止めを有効としたため、控訴人はこれを不服として控訴した。 - 主文
- 1 原判決を取り消す。
2 控訴人が、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、平成20年4月から本判決確定の日まで、毎月21日限り、1ヶ月当たり18万9467円及びこれら各金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 控訴人のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、第1審、2審とも被控訴人の負担とする。
6 この判決の3項は仮に執行することができる。 - 判決要旨
- 1 本件雇止めへの解雇権濫用法理の類推適用の有無
控訴人は新規学卒者として被控訴人に雇用されたものであり、例えば、定年退職後に有期雇用される者であるとか、あらかじめ病気休業や育児休業等により欠けた教員の一時的な代替であることを明示されて有期雇用される中途採用者等と異なり、雇用継続を期待してしかるべき状況にあったものといえるところ、雇用契約に先立つ被控訴人代表者との面接において一定期間後の雇用の継続は保障されない旨の説明は一切なく、契約期間の始期である平成16年4月1日に契約期間が記載された辞令を交付されたのみで契約書の作成もされず、被控訴人における有期契約の更新に関する方針について口頭の説明もなされなかったことが認められる。また、控訴人を含む常勤教員には、他の専任教員等の担当授業数と遜色なく授業を担当し、クラス担任を担当したり、校務分掌において役割を担ったり、クラブ・同好会の指導に携わるなどし、控訴人の在籍期間においてなされた臨時教員の雇止めは、本件高校において不祥事を理由とするもの1件、高齢を理由とするもの1件、幼稚園において収支状況の悪化を理由とするもの1件であり、特段の理由もなく期間が満了したことのみにより一方的に雇止めがなされた事例があったことは窺われない。
以上に加え、控訴人は、本件雇用解約を3回更新されて、被控訴人における勤務年数が4年に及んでいることからすれば、控訴人が、本件雇用契約については、継続を期待することに合理性があるものと認められる。
被控訴人は、控訴人が雇用されていた間に臨時教員が雇止めされた例があるから控訴人の雇用継続の期待には合理性がないと主張するが、これらの例をもって控訴人の雇用継続の期待に合理性があることを否定することはできない。次に、被控訴人は、平成17年度末及び平成18年度末の契約更新時は雇止めの方針であったところ、教頭、同僚、控訴人の父の働きかけによって辛うじて更新されたものであって、それを自覚していた控訴人が雇用継続に期待を抱き得るような状況にはなかったと主張する。しかし、控訴人は、辛うじて更新するとの説明も今後の雇止めの可能性に関する具体的な説明も受けることなく本件雇用契約を更新され、かえって、野球部の監督を継続したのみならず、平成19年度にはクラス担任を再び委ねられるとともに、担当授業数も増加しており、被控訴人から勤務態度について指摘されなかった事実をも併せ考えると、控訴人の雇用継続の期待に合理性があるとすべき客観的な事情があることを左右するものではないというべきである。また、被控訴人は、厳格な更新手続きを執っているとして、控訴人の雇用継続の期待には合理性がないと主張するが、被控訴人においては、更新に先立つ年度の3月中旬に更新する旨を告げて意思確認を行っていたものの、契約書は作成せず、4月下旬に契約期間を自書させて履歴書を作成させていたのであって、本件における控訴人の雇用継続の期待の合理性を否定する事由にはならないというべきである。更に、被控訴人の供述には、近年の少子化傾向に基づき、被控訴人が専任教員の採用を極力抑制し、不足する人員を短期的に補うために臨時教員を有期雇用しているという状況を認識している控訴人が、雇用の継続に合理的な期待を抱くことはあり得ず、有期雇用の臨時教員がいつでも雇止めになり得ることは教育界の常識であるなどとする部分があるが、被控訴人においては、ここ数年にわたって概ね定員を充足する入学者数を確保しているのみならず、クラス数も増加している。そうすると、被控訴人においては、上記の少子化傾向は、現に雇用している臨時教職員を具体的に削減する必要があることを示す状況にはないから、これら臨時教職員の雇用継続への期待の合理性を否定する事情となるものとはいえない。
以上を総合すれば、本件契約について控訴人が雇用の継続を期待することに合理性があるものと認められ、控訴人を雇止めするに当たっては、解雇に関する法理を類推するのが相当である。
2 本件雇止めについての権利濫用の有無について
本件調査からは、平成20年1月22日及び25日の午前7時以降並びに27日の午前4時台に婚約者宅に控訴人がいたことが認められるに過ぎず、控訴人の実家と婚約者宅の距離は3km弱であることからすれば、控訴人が婚約者との家族関係を維持するために通勤前後に婚約者宅に寄ったとしても、そのこと自体は必ずしも不自然であるとか不合理であるとまではいい難い。むしろ、控訴人が敢えて顛末書に反した行動をとれば被控訴人の代表者に露見するおそれが多分にあることは控訴人にもわかっていたはずであり、住居届の問題に関して本件戒告処分を受けたのみならず顛末書の提出までさせられた控訴人が、このような危険を冒してまで本件顛末書に反した行動をとるというのは相当に不自然である感を否めない。また、控訴人は本件戒告処分を受けながら、本件顛末書の作成に至るまでその是正を怠っていたということができるが、本件は単純に住居変更届を出すか否かという問題ではなく、婚約しているとはいっても未入籍の状態で対外的に同居を申告するべきか否かなどといった身分関係に関する問題を含んでおり、親族・婚約者の意向や自己の職場における体面を考慮して即時に決断できないこともあると思われ、1ヶ月足らずの間に適切な対処をしなかったことをもって、直ちに控訴人が本件戒告処分を真摯に受け止めなかったと評価することはできないし、更にそのような態度から、控訴人が婚約者との同居の実態を変える意図なく虚偽の内容の本件顛末書を提出したとまで推認することはできない。以上を総合すると、本件において、控訴人が本件顛末書提出後本件雇止めまでの間に、本件顛末書に反して婚約者宅に居住していたとまでは認められない。
被控訴人は、控訴人は担任したクラスから多数の退学者を出し、積極性や自主性に欠け、指示に対する反応が遅く、上司への連絡や報告をおろそかにするなど、教員としての能力が低く、4年の勤務期間を経てもその能力は向上しなかったこと、更に野球部の監督としての能力にも問題があったことなどを主張する。しかし、控訴人のクラスだけが突出して退学者・転学者が多いわけではないし、対戦成績の低迷のみから監督の能力に問題があると断ずることもできない。加えて、被控訴人に控訴人の勤務評定書等の資料もないことなどからすれば、控訴人に被控訴人が主張するような教員としての能力の不足があったことを認めるに足りる証拠はない。更に、上記住居届の提出を怠った一連の経緯から、控訴人の教員としての能力が不足しているとはいうことができない。
被控訴人は控訴人について、(1)届出書類と異なる住所及び通勤手当の過剰支給を受けたこと、(2)(1)につき住所変更届の提出を速やかに行うように指示を受けながらこれを怠ったこと、(3)その後督促を受けると、以後は実家から通勤することとする顛末書を提出したものの、その後も従前通り婚約者と同居を継続し、婚約者宅から通勤したという非違行為が存すること、(4)教員としての能力・適性が劣ることから、本件雇止めは相当であると主張する。
(1)については、控訴人が意図的に住所変更を隠蔽しようとしていたということはできず、また実家からの通勤距離は6.6kmで婚約者宅からの通勤距離は5.7kmであり、婚約者宅からの通勤距離がそれ程短いとはいい難いから、控訴人が通勤手当を意図的に不正受給しようとしたものということもできない。(2)については、確かに控訴人は本件戒告処分後1ヶ月弱の期間適切な対処を怠っており、適切ではないが、控訴人及び婚約者間の事情に照らせば、直ちに控訴人が本件戒告処分を真摯に受け止めなかったと評価することは困難である上、の事情については顛末書の提出をさせる以上に特段の処分や注意を受けた様子は窺われない。加えて、(1)及び(2)の事情により、控訴人の教員としての労務提供に支障を来したことを窺わせる証拠はなく、(3)及び(4)の事情が認められないのは上記のとおりである。
そこで検討すると、上記事情に鑑みれば、の事由については本件雇止めの相当性を基礎付けるものとは到底いえない。まして、控訴人は、(3)の事由を重視して本件雇止めを行ったことが窺われるところ、同事実を確認するために僅か4日の調査を行ったのみでその結果について控訴人に一切弁明の機会を与えておらず、本件雇止めは社会的相当性を欠き、権利の濫用に当たることは明らかである。
以上によれば、本件雇止めにより本件雇用関係が終了したとはいえないことになり、雇用関係は継続しているとみるべきであり、控訴人の雇用契約上の地位確認請求には理由がある。そして、本件雇用契約に基づき、被控訴人が平成19年3月から平成20年2月までの間に控訴人に支払った賃金の平均月額は18万9467円であるから、控訴人の賃金請求は、月額18万9467円の支払いを求める限度で理由がある。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例1009号61頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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青森地裁 − 平成20年(ワ)第269号 | 棄却(控訴) | 2009年06月24日 |
仙台高裁 - 平成21年(ネ)第334号 | 控訴一部認容・一部棄却(上告) | 2010年03月19日 |