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観光バス会社少数組合退職勧告・共同絶交事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 観光バス会社少数組合退職勧告・共同絶交事件
- 事件番号
- 大阪地裁 − 昭和51年(ワ)第6019号、大阪地裁 − 昭和52年(ワ)第92号
- 当事者
- 原告(反訴被告) 個人2名 A、B
被告(反訴原告) 観光バス株式会社
被告 個人1名 - 業種
- 運輸・通信業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1980年03月26日
- 判決決定区分
- 本訴 一部認容・一部棄却、反訴 棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告会社は、従業員約70名を雇用して観光バス事業及び旅行斡旋事業を営む会社であり、Kは被告会社の運行部次長、被告Fは被告会社の営業部次長の地位にある者である。一方原告らは被告会社に運転手として雇用される従業員であり、全国自動車交通労働組合(全自交)大阪地方連合会中央観光労働部会(中央観光労組)に所属する組合員であって、原告Aは執行委員長、原告Bは書記長の地位にあった。
被告会社は、中央観光労組が結成されて間もない昭和45年10月、同労組執行部4名を含む組合員6名を、料金着服の理由で解雇した。これに対し中央観光労組は、右解雇を不当労働行為として地労委に救済申立てをし、2名について現職復帰させるなどした。他方、中央観光労組は、右解雇処分を争っている間に、被告会社の働きかけ等により組合員が激減し、昭和48年夏頃には原告両名を残すのみとなった。
原告らはその後も組合活動を継続してきたところ、被告会社は原告らに最も古い型式の車両を与え、その結果、原告らはチップやリベートを期待できる温泉地などへの観光旅行の配車を受けることができなかった。原告らは、昭和50年1月、陸運局及び労働基準監督署に対し、被告会社に法違反がある旨申告し、陸運局は被告会社に対し、25台の観光バスを3日間営業停止とするなどの命令を行った。
K及び被告Fは、被告会社が営業停止処分を受けるなどしたことから、昭和50年3月末頃、乗務員約30名を参集させ、被告会社に対する不満等を発言させる機会(守る会)持った。同年6月20日、営業所の壁面に、監督官庁から被告会社は運転手とコンパニオンとの間に無理矢理不純な関係を作り、乗務員が運航先で体面を汚すような行為をしているなど厳重な勧告を受けたこと、全自交が監督官庁を回り会社を潰し善良な乗務員の生活を脅かす行為に出たこと、正常な労務の提供を維持するため同志の協力を望むこと等を内容とする張り紙が出された。更に同月27日、被告本社社屋に従業員30名が集合し、被告Fは右従業員に対し、「会社として原告らにできる限りの嫌がらせ、排除行為などは全てやった。後は皆さんでやって欲しい」旨述べた上、原告らは退社すること、原告らがこれに応じない場合には、原告らとは一切の交際を絶ち仲間外れにし、更に原告らの乗務するバスには一切の同行・同乗を拒否する旨右従業員らに誓約させ、右趣旨を記載した「勧告書」にそれぞれ署名捺印させた。K及び被告Fは、同日原告らに同文書を交付して右誓約の趣旨を通告した。
右勧告書交付後、署名をした乗務員は原告らと挨拶を交わすことさえ拒み、原告らと同乗・同行勤務をすることがなくなった。原告らは、上記の行為によって精神的苦痛を味わうとともに、コンパニオンの同乗拒否によって被告会社における勤務が不能となる危険性を感じたことから、同年7月8日、勧告書署名者に対し、右勧告書の交付が人権を侵害し、脅迫罪に当たること、原告らは告訴を考えていること、署名者の本心を確かめること、同月15日までに連絡なき場合は告訴され又は損害賠償の責を負うことになる旨記載した書面を送付し、その結果10名が署名を撤回する旨申し出た。
原告らは、被告FはKらと共謀の上、多数の従業員を使って、原告らに対し本件勧告書を作成・交付したとして、民法709条、719条1項に基づき、また被告Fらの不法行為は被告会社の事業の執行につきなされたとして、民法715条1項に基づき、原告各自に対し慰謝料50万円の支払いを請求した。 - 主文
- 1 被告(反訴原告)中央観光バス株式会社及び被告Fは、各自、
一 原告(反訴被告)Aに対し、金5万円及びこれに対する昭和50年6月28日から支払ずみに至るまで年5分の割合による金員を、
二 原告(反訴被告)Bに対し、金5万円及びこれに対する昭和50年6月27日から支払ずみに至るまで年5分の割合による金員を
それぞれ支払え。
2 原告(反訴被告)らのその余の本訴請求をいずれも棄却する。
3 被告(反訴原告)中央観光バス株式会社の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、反訴についてのみ生じた分は被告(反訴原告)中央観光バス株式会社の負担とし、その余はこれを10分し、その9を原告(反訴被告)らの負担とし、その余は被告(反訴原告)中央観光バス株式会社及び被告Fの負担とする。 - 判決要旨
- 1 本訴請求
本件勧告書は、原告らに退職を求め、これに応じなければ原告らを無視するとともに、原告らと同乗・同行勤務を拒むという、いわゆる共同絶交を宣言するものであるということができるところ、右共同絶交は、職場という限られた社会生活の場において行われるものであるとはいえ、右職場は原告らにとって日常生活の重要な基礎を構成する場であり、それが実行されると、原告らはその意に反して右職場から離脱せざるを得ないこととなるであろうことが容易に推測し得るものである。従って、右勧告書が作成され、原告らに対し交付されたことは、原告らに被告会社を退職することを強要し、退職しない限り原告らの自由及び名誉を侵害することとなる旨告知した違法な行為というほかない。また右勧告書が作成・交付される直前の昭和50年6月20日頃には、原告らが虚偽の事実を行政官庁に申し立て、被告会社に不利益を及ぼそうとしている旨の貼り紙がなされる状況にあったのであるが、被告会社の中堅管理職ともいうべきK及び被告Fは、右状況を踏まえ、かつ原告らが組合活動又は行政活動に対する申告及びストライキ等の行為が被告会社にとって不利益を及ぼすものであることを慮り、意を通じて、まずKが従業員らに対し、中央観光を明るくする会の趣旨が原告らを退職させることにある旨をあらかじめ知らしめた上、右集会においてその方法を検討させ、その結果、その意を諒解した一部乗務員が本件勧告書を作成し、提出するや、K及び被告Fはこれを是認した上、他の乗務員らにも署名することを求め、出席していた全乗務員が署名捺印を了して右勧告書を完成させ、これを1乗務員が原告らに交付し、また右署名者らは原告らと共同絶交を実行する様相を呈するに至ったものということができる。そうすると、被告F及びKは、共同して、被告会社の乗務員に対し、同乗務員が本件勧告書を作成し、原告らに交付するという不法行為を教唆し、幇助したというべきであり、よって、民法719条2項、1項、709条により原告らが被った損害を賠償すべき義務があるということができる。
K及び被告Fは、被告会社において、従業員を指導・監督すべき管理職としての立場を有する者であること、本件勧告書の作成・交付は、原告らを退職させる結果を生じさせることを目的とするものであるところ、K及び被告Fが乗務員に対し、右行為をなすことを教唆し、幇助したことは、結局のところ、被告会社における人事管理、ひいては被告会社労組対策としての性格をも帯びるものであること、本件勧告書に従った共同絶交は、直接的には従業員相互間において行われるものであり、右決定に関与したこと自体、従業員の指導・監督上の一環として行われたものとも評価できること、右勧告書が作成された集会は、被告会社の承諾の下に開催されたものであり、その開催は、主として勤務時間中の職員を被告会社の本社社屋会議室に参集させて行っていることを指摘することができる。
以上の諸点を総合勘案すると、被告F及びKの前記不法行為は、被告会社の事業の執行と同視し得る程に密接な関連を有すると認められる行為というべきであるから、被告会社は、民法715条1項により被用者である被告F及びKが原告らに加えた損害を賠償する義務があるということができる。
原告らは、本件勧告書の作成、交付という不法行為によって、被告会社を退職することを強要され、また共同絶交を実行し、自由及び名誉を侵害する旨告知され、もって精神的苦痛を被ったものと認めることができる。そうすると、被告らは原告らに対し、相当の慰藉料を支払う義務があるということができるところ、その額は、前記認定事実その他本件に顕れた一切の事情を斟酌して、原告ら各人につき金5万円をもって相当と認める。
2 反訴請求(略) - 適用法規・条文
- 02:民法709条、715条1項、719条2項
- 収録文献(出典)
- 判例時報968号118頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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