判例データベース

地公災基金千葉県支部長(中学校長)急性心筋梗塞死事件

事件の分類
過労死・疾病
事件名
地公災基金千葉県支部長(中学校長)急性心筋梗塞死事件
事件番号
千葉地裁 - 平成4年(行ウ)第2号
当事者
原告 個人1名
被告 地方公務員災害補償基金千葉県支部長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
1996年05月31日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
K(昭和8年生)は、昭和30年11月千葉県下の中学校教諭として採用され、昭和62年4月から千葉市立M中学校の校長の職にあった。
 Kは、昭和62年11月12日、M中学校の校内研究授業を参観中、激しく咳き込み、意識を失って前のめりに椅子から倒れ、床に顔面を打ち付けて鼻血を出し、救急車で病院に搬送され、血圧が210~130であった。Kは3日間入院したが、糖尿病以外には特に異常はなく退院し、その後2回通院した。Kは、この発作を契機として喫煙を控えていたが、本件事故当時肥満傾向にあって、血圧は150~80であった。
 Kは、昭和63年6月20日午前7時30分頃M中学校に出勤し、同日午前9時5分頃、教育用務連絡のため、普通乗用自動車(本件自動車)を運転して千葉市立R中学校に向かい、その後同市立W中学校及び同市立D小学校を順次訪れた後、午前10時57分頃自校に戻るためにD小学校を出発した。Kは午前11時頃、シートベルトを着用して走行中、突如激しい心筋梗塞に見舞われ、意識を失って運転の継続が不可能になり、本件自動車は高さ約30cmの歩道縁石に乗り上げ、そのまま歩道を斜めに横切る形で進んで、コンクリート製防護柵にその右前部を衝突させて停止した(本件事故)。Kは本件事故後しばらくの間は息をしていたが意識はなく、同日午前11時18分頃に救急車が到着した際には、既に呼吸も心臓も停止しており、正午頃その死亡が確認された。医師らは、Kの死体検索等を行って、その死因を「急性心筋梗塞による急性心不全」とする死体検案書を作成したが、その約3ヶ月後の同年9月21日、Kの妻子の依頼により、「交通事故による頭頸部挫傷」とする死体検案書を新たに作成した。
 Kの妻である原告は、Kの死亡は公務による自動車の運転で発生した交通事故によるものであるから、公務災害に該当するとして、被告に対し、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、被告はこれを公務外の災害と認定する旨の処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却されたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
主文
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は原告の負担とする。
判決要旨
原告は、主位的に、「Kは頭頸部挫傷の傷害を受け、これによるショックを原因として心停止を来し、死亡するに至った」旨主張し、予備的に「仮にKの死因が急性心筋梗塞であったとしても、Kは本件自動車を歩道縁石に乗り上げさせて防護柵に衝突させた際、これらによって頭頸部挫傷によるショック又は精神的ストレスを生じさせ、これを誘因として急性心筋梗塞を発生させた」旨主張する。しかし、Kの死因は急性心筋梗塞であると認められる外、Kが防護柵に至るまでの間にブレーキをかけた形跡がなく、これにKの既往歴を併せ考えると、Kは突如激しい心筋梗塞に襲われ、意識を失って運転ができない状態となり、その後何らかの原因によってハンドルが左に切れたため、本件自動車は左斜め前方に進み始めたと認定するのが最も自然でありかつ合理的である。
 これに対し、医師はKの死因を「交通事故による頭頸部挫傷」とする死体検案書を作成している。しかし、Kは、(1)事故地点以前で既に運転席に座ったままの状態で首を垂れていたのであり、(2)本件自動車が歩道縁石に乗り上げるまでの間にKがブレーキをかけた形跡が全くなく、更に、心筋梗塞は外部的刺激によるストレスの生じたときの方がより発生しやすいとしても、外部的刺激がなければ発生しないというわけではないこと、心筋梗塞が生じても必ずしもすぐには心肺機能は停止しないこと等を考慮すると、やはりKは事故地点に至る直前において突如激しい心筋梗塞に襲われたものと認定するのが自然であり相当である。
 そして、Kにおける本件心筋梗塞の発生とそれまでの同人の公務遂行との間にいわゆる相当因果関係を認めることも本件証拠上困難であるから、結局、Kの死亡が公務に起因しないものと認めた本件処分は適法というべきである。
適用法規・条文
05:地方公務員法
地方公務員災害補償法31条、45条
収録文献(出典)
労働判例732号66頁
その他特記事項
本件は控訴された。
・法律  地方公務員災害補償法