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地公災基金千葉県支部長(中学校長)急性心筋梗塞死控訴事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金千葉県支部長(中学校長)急性心筋梗塞死控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成8年(行コ)第79号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 地方公務員災害補償基金千葉県支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1997年07月16日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(上告)
- 事件の概要
- 昭和62年4月から千葉市立M中学校の校長の職にあったK(昭和8年生)は、同年11月12日、M中学校の校内研究授業を参観中、激しく咳き込み、意識を失って前のめりに椅子から倒れ、床に顔面を打ち付けて鼻血を出し、救急車で病院に搬送され、3日間入院したことがあり、Kは、この発作を契機として喫煙を控えていたが、本件事故当時肥満傾向にあって、血圧は150~80であった。
Kは、昭和63年6月20日午前9時5分頃、普通乗用自動車(本件自動車)を運転して小中学校を3校廻った後帰途についた。Kは午前11時頃、シートベルトを着用して走行中、突如激しい心筋梗塞に見舞われ、意識を失って運転の継続が不可能になり、本件自動車は高さ約30cmの歩道縁石に乗り上げ、そのまま歩道を斜めに横切る形で進んで、コンクリート製防護柵にその右前部を衝突させて停止した(本件事故)。Kは本件事故後救急車により病院に搬送されたが、正午頃その死亡が確認された。医師らは、Kの死因を「急性心筋梗塞による急性心不全」とする死体検案書を作成したが、その約3ヶ月後の同年9月21日、Kの妻子の依頼により、「交通事故による頭頸部挫傷」とする死体検案書を新たに作成した。
Kの妻である控訴人(第1審原告)は、Kの死亡は公務による自動車の運転に発生した交通事故によるものであるから、公務災害に該当するとして、被控訴人(第1審被告)に対し、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、被控訴人はこれを公務外の災害と認定する旨の処分(本件処分)をした。控訴人は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却されたため、本件処分の取消を求めて本訴を提起した。
第1審では、Kの死亡は公務に起因するものではないとして、本件処分を適法と認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1、本件控訴を棄却する。
2、控訴費用は控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないと判断する。
Kの死因は急性心筋梗塞であると認められる外、Kが防護柵に至るまでの間にブレーキをかけた形跡がなく、これにKの既往歴を併せ考えると、Kは突如激しい心筋梗塞に襲われ、その結果脳血流が急激に著しく阻害されたため正常な運転をすることができなくなって暴走したと認めるのが最も自然でありかつ合理的である。
これに対し、医師はKの死因を「交通事故による頭頸部挫傷」とする死体検案書を作成している。しかし、本件事故は前記態様のものであり、これによればKが本件事故により頭頸部挫傷の傷害を被る機会があったとは認め難い。医師は頭頸部挫傷が存在したと仮定した上で前記のとおりKの死因に関する意見を変更したのであるが、この仮定は、事故の2日後の葬儀の際にKの遺体の左後頭部から左肩部にかけて皮下出血痕が存在したことを前提とするものである。しかし、葬儀の際に皮下出血痕があることを目撃したと述べる原審の証言部分は、目撃状況が不自然でにわかに採用し難いし、仮に皮下出血痕様のものを見たとしても、医師らが死体検案等をしたときにはKの体に皮下出血等がなかったこと等によると、これが真実頭頸部挫傷による皮下出血痕であったとまで認めることはできない。したがって、医師の前記変更後の意見はその前提において正当なものと認めることはできない。そして、Kは、(1)事故地点以前で既に運転席に座ったままの状態で首を垂れていたのであり、(2)本件自動車が歩道縁石に乗り上げるまでの間にKがブレーキをかけた形跡が全くなく、更に、心筋梗塞は外部的刺激によるストレスの生じたときの方がより発生しやすいとしても、外部的刺激がなければ発生しないというわけではないこと、心筋梗塞が生じても必ずしもすぐには心肺機能は停止せず瞬間的に意識が喪失するものでもないこと等を考慮すると、やはりKは事故地点に至る直前において突如激しい心筋梗塞に襲われたものと認定するのが自然であり相当である。よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当である。 - 適用法規・条文
- 05:地方公務員法
地方公務員災害補償法31条、45条 - 収録文献(出典)
- 労働判例732号64頁
- その他特記事項
- ・法律 地方公務員災害補償法
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
千葉地裁 - 平成4年(行ウ)第2号 | 棄却(控訴) | 1996年05月31日 |
東京高裁 - 平成8年(行コ)第79号 | 控訴棄却(上告) | 1997年07月16日 |