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地公災基金東京都支部長(小学校長)急性心不全死事件
- 事件の分類
- 過労死・疾病
- 事件名
- 地公災基金東京都支部長(小学校長)急性心不全死事件
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成7年(行ウ)第63号
- 当事者
- 原告個人1名
被告地方公務員災害補償基金東京都支部長 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1998年03月05日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- T(昭和12年生)は、昭和32年5月東京都公立学校教員に採用され、昭和60年4月からの2校における教頭勤務を経て、平成元年4月からK小学校長に就任した。平成元年当時、K小学校は、児童数559名、各学年3クラス(3年生のみ2クラス)と、特殊学級11名を有する1クラスの合計18クラスがあり、職員は39名であった。
Tは、昭和47年に狭心症様症状と診断され、経過観察と負荷心電図検査の必要性を指摘されたが、その後昭和57年までの間、循環器系の異常は認められなかった。昭和58年及び60年には左心室肥大と診断され、昭和62年には6ヶ月毎に心電図検査を受けるよう指摘され、いずれも要注意の判定を受けたが、検査・治療の必要性は特に指摘されなかった。本件災害の1ヶ月前である平成元年4月15日、Tは自宅で左胸痛を訴え、気分が悪いと言って15分程横になって休み、また同月25日は日光修学旅行実地踏査の2日目であったが、Tは宿舎で朝食時の打合せ中顔面蒼白になり、多量に発汗し10分程横になって休んだが、その後職務を特段の支障なく遂行していた。
平成元年5月18日、Tは5年生の登山遠足の引率業務に従事中、山道を3km歩いて登った後、石段を下り上りし、平均斜度6ないし8度の上り坂を100m程上った地点で、午前11時07分頃、突然しゃがみ込み、1度立ち上がりかけたが再び崩れるように蹲り、約1時間後救急車で病院に搬送されたが、急性心不全のため午前11時10分頃死亡したものと診断された。
Tの妻である原告は、Tの死亡は公務によるものであるとして、地公災法に基づき、被告に対し、公務上災害の認定請求をしたが、被告はこれを公務外とする処分(本件処分)をした。原告は本件処分を不服として、審査請求、更には再審査請求をしたが、いずれも棄却されたため、本件処分の取消しを求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1,原告の請求を棄却する。
2,訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 「公務上」の意義について
地公災法に基づく補償は、公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡)に対して行われるものであって、遺族補償は、「職員が公務上死亡した場合」に支給される。ここでいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、右負傷又は疾病と公務との間には相当因果関係の存することが必要であり、その負傷又は疾病が原因となって死亡事故が発生した場合でなければならない。そして、地方公務員災害補償制度は、公務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に、それによって職員に発生した損失を補償するものであることに照らせば、職員の負傷又は疾病と公務との間に相当因果関係が認められるかどうかは、経験則及び医学的知識に照らし、その負傷又は疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであるかどうかによって判断すべきものと解される。そして、負傷又は疾病が公務に内在又は随伴する危険が現実化したものとみられるためには、当該公務が肉体的、精神的に過重負荷と評価される内容のものであることが必要であり、この公務の過重性は、当該職員と同種の公務に従事し、当該公務に従事することが一般的に許容される程度の心身の健康状態を有する職員を基準にして判断すべきものと解される。
2 Tの死亡と公務の関連性について
平成元年に入ってからのTの公務の内容は、校長就任及び転勤に伴う変更があるものの、Tは一貫してその職務を特段の支障なく遂行していたこと、その勤務状況は、初の校長就任と転勤が重なり多忙ではあったものの、いずれも校長就任時における通常の業務として予定されたものであったこと、死亡までの5ヶ月余の間で退勤時刻が午後8時を過ぎた日は10数日に過ぎず、休日出勤は昭和天皇の崩御の日を除いて1度もしていないこと、修学旅行の実地踏査や遠足・修学旅行の児童引率業務は肉体的・精神的に疲労を伴うものであるとはいえ、その疲労も祝休日に休養することによって回復することができないほど過激な内容であるとはいえないこと、本件災害当日の遠足の引率業務も、心障児2名を含む小学校5年生の児童を対象にしたものであり、特に過重というものではなかったなどの事情を総合考慮すれば、前の小学校での教頭として国家斉唱、国旗掲揚問題に取り組んだことによる心労や、K小学校がK市1番の伝統校であることによる職責の重さなどの事実を考慮しても、この間Tの従事していた公務が、Tと同種の公務に従事し、当該公務に従事することが一般的に許容される程度の心身の健康状態を有する職員を基準にしても、過重であったと認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 05:地方公務員法
地方公務員災害補償法31条、45条, - 収録文献(出典)
- 労働判例737号35頁
- その他特記事項
- 本件は控訴されたが取り下げられた。
・法律 地方公務員災害補償法
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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