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人材派遣会社登録型派遣社員雇止事件

事件の分類
解雇
事件名
人材派遣会社登録型派遣社員雇止事件
事件番号
東京地裁 - 平成22年(ワ)第6495号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年12月27日
判決決定区分
棄却
事件の概要
 被告は人材派遣業等を目的とする株式会社であり、原告は平成20年12月5日頃、被告との間で、文書ファイリング業務を行う派遣スタッフとして雇用契約を締結した。原告は、同月15日から平成21年6月14日までの6ヶ月間、更に翌15日から同年12月14日までの6ヶ月間、派遣先である日本経済新聞社(日経)の編集局証券部(兜倶楽部)において派遣スタッフとして勤務していたが、被告は平成21年11月13日、同年12月14日限りで本件契約を更新しないとの意思表示(雇止め)をした。
 これに対し原告は、面接時、(1)6ヶ月契約だが更新があり、必ず3年間勤務できると言われて勤務に就いたこと、(2)被告から、辞めるときに有給休暇をまとめて取られると困るので、月に1日くらい取るよう指示されていたこと、(3)日経の派遣スタッフは3年間勤務できることが慣行であることを理由として、被告との間に3年間勤務する旨の合意があるなど3年間の雇用が前提になっていたと主張した。その上で原告は、本件雇止めは解雇権濫用法理が適用されるところ、(1)被告が3年間勤務との期待を持たせる説明をしたこと、(2)業務内容が長期にわたり継続する内容のものであること、(3)契約書に更新しない旨の明示がないこと、(4)原告の後任にはアルバイトではなく別の派遣社員が就いていること、(5)業務の効率化の提案や代替要員の要請等を行ったが改善されず、むしろ反感を持たれたと思われることを挙げて、本件雇止めは解雇権の濫用に当たり無効であるとして、被告の派遣社員としての地位の確認と賃金の支払いを請求した。
主文
1、原告の請求をいずれも棄却する。

2、訴訟費用は、原告の負担とする。
判決要旨
1 本件契約の内容

 認定した事実によれば、本件契約の雇用期間を3年間と定める旨の合意が成立していたと認めることはできず、かえって、本件契約書及び本件更新契約書の記載どおり、雇用期間は6ヶ月間であったと認めるほかない。なお、被告側が原告に対し、直ぐに辞めないで欲しい旨や、辞める時にまとめて有給休暇を取られると困る旨を話したことについては、原告主張の一部を認めることができるが、原告主張のその余の事実を認めることはできないのであり、結局原告主張のような3年契約の合意が成立したと認めることはできない。

2 本件雇止めの有効性

 原告主張の事実のうち、(1)業務内容が臨時的なものでなく、長期にわたり継続する内容のものであること、(2)本件契約書や本件更新契約書に更新しない旨の明示がないこと、(3)被告は、日経の事情でアルバイトを使うことにしたため本件雇止めをしたと説明していたが、実際には原告の後任に別の被告派遣社員が就いていること、(4)遅番担当が派遣スタッフからアルバイトに代わってからは原告が昼の休憩時間を契約通り1時間取りにくくなったり、業務効率化の提案や代替要員の要請等を行ったことがあったことについては、当事者間に争いがない。しかし、被告側が原告に対して、3年間勤務との期待を持たせる説明をしたとの事実を認めるに足りない。また原告は、(4)の提案や要請等に関して反感を抱くようになったと思われる旨主張するが、兜倶楽部ではかつて派遣スタッフ2名がそれぞれ早番と遅番を担当していたところ、平成21年7月下旬頃日経側の方針変更により、早番担当派遣スタッフ(原告)、遅番担当のアルバイト1名という体制に変更されるに至ったが、更に同年11月頃、日経側の意向により、アルバイト2名にそれぞれ早番と遅番を担当させる体制に切り替える旨が示されたこと、実際には当初の予定と異なり、原告の後任には別の派遣スタッフが就いたが、それは当時、業務がなくなってしまったにもかかわらず派遣期間が残っていた派遣スタッフがいたため、兜倶楽部での受入を日経に依頼して受けてもらったからであること、そのことは原告にも説明がなされていたこと、その後日経側の更なる方針変更により、派遣スタッフ1名、アルバイト1名の体制を維持する方針となったことが認められる。このように、原告の在籍中にも実際に体制変更が一度なされていることからすると、再度の体制変更の指示が日経側からなされたとしても何ら不自然ではなく、日経側の事情による体制変更が本件雇止めの理由であったとする被告側の主張は、相当程度信用するに足りるものということができる。
 以上のような状況に加え、本件契約の更新につき、特に当然更新を前提とした定めがあったとは認められないこと、本件契約の更新手続きは、口頭による意思確認と書面の交付によって明確になされており、本件雇止めまでの間の更新回数は1回だけであって、到底、反復性・継続性を認めるに足りないことに照らすと、前記のような事情があるからといって、本件契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていたということができないことはもちろん、雇用継続に対する原告の期待に合理性があったと認めることもできない。よって、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用される余地はなく、他に本件雇止めの有効性を妨げるべき事情を認めることはできない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働経済判例速報2094号8頁
その他特記事項
・キーワード  雇止め・更新拒絶、パートタイマー・派遣