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中労委・石油会社人事考課事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 中労委・石油会社人事考課事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成17年(行ウ)第175号(甲事件)
- 当事者
- 原告株式会社S
被告国
原告全石油S労働組合大阪支部 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2007年05月28日
- 判決決定区分
- 甲事件認容、乙事件棄却(控訴)
- 事件の概要
- 甲事件原告兼乙事件補助参加人(原告会社)は、原油、石油製品の輸入、石油精製、石油製品の販売等を業とし、昭和60年に合併により設立された株式会社である。全石油S労働組合の下部組織である本件組合大阪支部及び組合員6名(A〜F、甲事件補助参加人兼乙事件原告)は、原告会社及びその関連会社に勤務する従業員等により組織されている労働組合の大阪支部と、これに所属し原告会社大阪支店に勤務し、又は勤務していた者である。本件初審審問終結時において、全石油S労働組合の組合員数は70名、本件組合大阪支部の組合員は6名のみであったが、原告会社には、本件組合のほか、組員数約3000人の全国S労働組合が存在した。
Aは高校卒業後の昭和40年4月、Bは大学卒業後の昭和39年4月、Cは高校卒業後の昭和44年4月、D及びEは大学卒業後の昭和47年4月、Fは大学卒業後の昭和46年4月に、いずれも原告会社の前身であるS社に入社し、大阪支店等において勤務していた者であり、いずれも本件組合大阪支部の組合員であった。本件組合大阪支部は、「目標記述書」、「自己診断カード」を提出せず、人事考課面接を拒否する方針を立て、また組合員の同意に基づかない配転を拒否する態度を堅持しており、そのため本件組合の組合員らは、1名を除き大阪支店から1度も転勤したことがなかった。
原告会社では、合併を契機に能力主義的人事制度として職能資格制度を定め、職能資格等級ごとに従業員の能力開発努力の目標となる職能資格要件を定めており、合併の1年後の昭和61年1月以降、S-2とS-3との間にS-3Aを新設し、従来のS-3をS-3Bとして整理した。原告会社は、各年1月1日付で職能資格等級の格付を行っており、また定期昇給等の判断に反映される能力開発考課及び夏季・冬季賞与の支給額に反映される賞与考課のため、毎年10月に直属上司である第一次評価者との間で目標を設定し、毎年1月に「目標記述書」、「自己診断カード」を原告会社に提出することとなっていた。能力考課及び賞与考課においては、目標への達成度によりS〜Dの5段階で評価し、それぞれの評価項目ごとに総合評価をS〜Dの5段階でつけていた。
平成元年2月、本件組合大阪支部及び組合員らは、大阪地労委に対し、原告会社が組合員らの組合活動を嫌悪し、昭和60年以降の職能資格等級を、本来S-1(BについてはM-4B)であるのに、S-2以下の低位に格付したこと、能力開発考課及び賞与考課においても低査定をしたことなどが不当労働行為に当たるとして、不当労働救済申立を行った。これに対し同地労委は、昭和63年1月1日以降の職能等級及び賃金額の是正等、これに基づくバックペイなどの命令を発し、それ以前については申立期間経過を理由に却下するとの命令を発した。これに対し原告会社並びに本件組合大阪支部及びは組合員ら6名(Aら6名)は、中央労働委員会に対し、それぞれ本件初審命令の取消を求めて再審査申立を行ったが、中労委はこれを棄却するとの命令を発した。
これに対し、原告組合は本件命令の取消を求める(甲事件)とともに、本件組合も申立期間の経過を理由に却下された部分の取消を求めて(乙事件)本訴を提起した。 - 主文
- 1 中央労働委員会が、中労委平成12年(不再)第2号、第7号事件につき、平成16年11月4日付けでした不当労働行為救済命令のうち、甲事件補助参加人兼乙事件原告らの申立を棄却した部分を除いた部分を取り消す。
2 甲事件補助参加人兼乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、甲事件の補助参加人によって生じた費用及び乙事件によって生じた費用を甲事件補助参加人兼乙事件原告らの負担とし、その余の費用を被告の負担とする。 - 判決要旨
- 1 組合差別の存否についての判断の枠組み
甲事件についてみると、取消訴訟を提起した原告会社は、中労委が本件命令を発し、これが原告会社に送達されたことを主張立証し、本件命令は違法であることを主張すれば足り、原告会社はこれらの主張立証をしている。
原告会社の前記主張立証に対し、被告としては、原告会社のAら6名に対する職能資格等級の格付、本件考課における査定、これらに基づく賃金、賞与の支給が不当労働行為(不利益取扱、支配介入)に当たることを主張立証しなければならない。すなわち、被告は、不当労働行為の要件として、(1)原告会社のAら6名に対する行為が不利益取扱い、支配介入に当たる事実、(2)Aら6名が組合員であること、(3)前記の行為が不当労働行為意思に基づくということを主張立証しなければならない。
本件命令は、同期入社の中で著しく低い職能資格等級と賃金である場合には、特段の事情が必要であり、特段の事情がなく考課結果、職能資格等級、賃金が著しく低位にあれば、その合理性を原告会社において立証する必要があり、原告会社がこれを行わなければ人事考課が公正に行われていなかったことが推認されると判断している。更に本件命令では、Aら6名が能力開発考課等において事実上最も低いC評価を受け、かつ、職能資格等級及び賃金が全体的にみて、同期、同性、同学歴の者の中で著しく低位に位置付けられていると認定した上で、Aら6名の勤務成績が特に劣っていたなどの個別的事情が存在しない限り、人事考課が合理的に行われていたとは考え難いと述べている。この点、確かに、Aら6名は、相対的にみて、同期、同性、胴学歴者に比べて低位の職能資格等級に位置付けられていたことが認められる。
しかしながら、本件初審審問終結時において、原告会社の社員数は約2000名であったのに対し、本件組合の組合員数は70名であり、同期、同性、同学歴者に限っても本件組合の組合員数は極めて少数であり、このような著しい人数差がある状況において、単純に職能資格等級を比較して、一方が他方に比べて差別的取扱いを受けていると推認することは相当でない。また、原告会社では従業員の職能資格要件を定め、これに基づき個々の従業員の職能資格等級の格付けを行っていること、毎月1回、能力開発考課と同時に当該従業員が上位の職能資格要件を満たすか否かを検討し、昇格の是非の判断を行っていること、従業員の本給は職務遂行における成績・能力・勤務態度等を反映した職務職能給としていること、このため毎年1回能力考課を行い、翌年の職務職能定昇に反映させていること、賞与についても考課を行い会社査定部分に反映させていることが認められる。上記認定事実に照らすと、原告会社では、経歴や職務内容を同じくする従業員であっても、それぞれ個別にその成績・能力・勤務態度等に基づいて昇格判断及び人事考課がされるのであって、その結果として同期、同性、同学歴者であっても職能資格等級の格付、査定に格差が生ずることは当然といえる。そうだとすると、Aら6名と同期、同性、同学歴者との間に、職能資格等級及び賃金について格差が生じているからといって、直ちにAら6名に対する職能資格等級の格付、人事考課に合理的理由がないと推認することは相当でない。
更にAら6名は、本件組合の方針に従って、能力開発考課及び賞与考課について、原告会社に対し、「目標記述書」、「自己診断カード」を提出せず、目標の設定、自己評価の機会を放棄するなどして、原告会社における職能資格制度に基づいた人事考課を拒否していたのである。原告会社では、目標記述書等の不提出自体を不利益に取り扱うことはなく、不提出者については上司らが目標に相当するものを設定して査定を行っているというものの、人事考課制度に則った目標の設定、自己評価を行っていた者の査定内容とその機会を自ら放棄しているAら6名の査定内容を単純に比較し、Aら6名が相対的に低査定を受けたからといって、当該人事考課に合理的理由がないと推認することも相当とはいえない。しかも原告会社では、労働者の適正配置、業務の能率増進、業務運営の円滑化など業務上の必要性のみならず、労働者の能力開発として、配転を行っており、大多数の従業員が配転を経験しているところ、Aら6名は「自己申告書」の提出をせず、実質的に配転を拒否するとの意向を示し、大阪支社の同じ課に長期間にわたり勤務し続けていたことが認められる。そうだとすると、Aら6名は、長期間同一部署で同様の職務を担当していたのであるから、ある程度の成績を上げることができるのは当然であって、Aら6名の成績、査定内容と同一部署の他の従業員の成績、査定内容を単純に比較し、Aら6名が相対的に低査定を受けていたからといって、当該人事考課に合理的理由がないと推認することも相当とはいえない。
以上のとおり、本件命令が、Aら6名と同期、同性、同学歴者の職能資格等級、人事考課の査定結果及び賃金額を比較し、Aら6名が人事考課において事実上最も低いC評価を付けられ、職能資格等級及び賃金額が同期、同性、同学歴者の中で著しく低位に位置付けられていると認定した上で、Aら6名の本件考課及び職能資格等級の格付に合理性がないものと事実上推認し、原告会社においてAら6名の勤務成績が特に劣っていたなどの個別的事情を主張立証しない限り、Aら6名の本件考課及び格付が合理的に行われていたとは認められないとした判断手法は、本件にあっては採用することができない。むしろ、Aら6名は、原告会社の人事考課制度における目標の設定、自己評価を拒否し、配転にも応じないなど、本件組合組合員以外の従業員とは異質な行動をとっていたのであるから、被告並びに本件組合大阪支部及びAら6名において、原告会社がAら6名に対して行った人事評価及び職能資格等級の格付が合理的理由を欠いていることを個別に主張立証した上で、それがAら6名が本件組合に所属することの故であることを主張立証しなければ、組合差別による不当労働行為であると認めることはできないものと解するのが相当である。
2 Aの本件考課における査定及び職能資格等級の格付について
Aの本件考課のうち昭和62年度能力開発考課及び同63年度各考課における「成果」及び「成果達成への努力」はいずれもB評価であり、平成元年度各考課における「成果」はいずれもA評価、同「成果への努力」はA又はB評価であることが認められ、これらの評価が合理的理由を欠いているとはいえない。
これに対し、Aの本件考課の各考課における能力及び勤務態度に関する評価項目のうち、「教育・指導力」、「折衝・調整力」、「工夫・改善力」、「規範性」、「積極性」、「協調性」、「責任制」は概ねC評価となっていることが認められる。この点について、Aは、(1)入社以来20年以上にわたり、大阪支店において航空機用潤滑油などの販売に従事していたこと、(2)それにもかかわらず、昭和62年から平成元年までの新規需要家の開拓に関する達成率は低調であったこと、(3)ガスタービン発電機の最終需要家が試用する潤滑油の受注に関しても情報収集等において積極的な活動をしているとはいい難いこと、(4)特約店が新規開拓するためのフォローアップが十分でなかったこと、(5)原告会社が全社を挙げて取り組んでいた「Xカード」会員を1枚も獲得しなかったことが挙げられる。
上記事実によれば、Aは、入社以来同一部署で同様の業務を続けることによる担当職務に対する意欲の低下が避けられない状況にあったと認められるところ、Aの本件考課の一次考課者である課長は、Aの業務処理、勤務態度等について、マンネリ化を指摘し、他部門への転出によって能力開発を図りたいとの意見を度々述べていることが認められ、Aの能力及び勤務態度を的確に評価していたと認めるのが相当である。そうだとすると、Aの本件考課における能力及び勤務態度に関する上記評価項目は概ねC評価となっているものの、同評価が合理的理由を欠くとまでいうことは困難である。
原告会社では職能資格等級ごとに従業員の能力開発努力の目標となる職能資格要件を定めており、Aは昭和61年以来S-3Bに格付けされていることが認められる。ところで、Aの職歴、成績、能力、勤務態度等に照らすと、同人が「事業所・課に関する目標の設定と推進などの業務を関係者との折衝・調整や問題に対する新しい解決策を試みながら行い、また教育指導も特に優れ、部下の監督・指導を計画的に行い、その意欲を高揚させることができる能力を有する」(S-1)とか「グループの目標の設定と推進などの業務を、関係者との折衝・その他諸問題の発見・解決を的確に行いながら遂行し、またグループメンバーの教育指導が積極的にできる能力を有する」(S-2)と評価することは困難であるのみならず、「グループに関する目標の設定と推進などの業務を関係者と話し合い、その他必要な問題解決を行いながら責任をもって遂行し、また下位等級者に的確な指導ができる能力を有する」(S-3A)と評価することも困難というべきである。
以上によれば、原告会社がAに対して行った本件考課における各査定及びこの間の職能資格等級の格付は、いずれも合理的理由を欠いているとまで認めることは困難である。
3 Fの本件考課における職能資格等級の格付について
Fの潤滑油販売実績は、昭和62年10月から平成元年8月までの間、概ね横ばいであること、Fの担当する特約店の潤滑油セールスマンが潤滑士に合格したり、表彰を受けたりしたことが認められる。これに対し、Fの本件各考課の「成果」及び「成果達成の努力」は昭和62年度能力開発考課の「成果」を除き、いずれもA又はB評価であったこと、同年度能力開発考課の「成果」がC評価となったのは、甲電機・乙樹脂等との間の取引を失ったためであることが認められ、Fの職務内容、勤務状況及びこれに対する査定内容に照らすと、原告会社がFに対して行った本件考課における成績の評価が合理的理由を欠いているとはいえない。
Fは、(1)S社入社以来20年以上にわたり、能力的には標準的な評価をされていたこと、(2)もっとも、その仕事ぶりには職人気質的な面があり、得意分野には進んで取り組むものの、バランス感覚を欠き、のめり込みすぎる場合があったこと、(3)このため「協調性」、「規律性」についてC評価を受けたことが認められる。そうだとすると、原告会社がFに対して行った本件考課における能力及び勤務態度に関する評価が合理的理由を欠いていると認めることは困難である。Fは昭和61年以来職能資格等級がS-3Aに格付けされていることが認められるところ、Fの職歴、成績、能力、勤務態度等に照らすと、同人を(S-1)と評価することも、(S-2)と評価することも困難というべきである。
4 Bの本件考課における職能資格等級の格付について
Bは給油所開発チームにおいて、開発業務に関する知識、経験を生かして、揮発油販売業法に関する業務等においては実績を上げていたものの、自らがきっかけを作って給油所の新設を行ったことはなく、自らの担当地域に新設された給油所建設についても地元町内会との交渉などにおいて実績を上げることができなかったことが認められる。これに対し、Bの本件考課の「成果」、「成果達成への努力」及び「能力」に関する各評価項目は、昭和62年度及び昭和63年度能力開発考課の「総合知識・専門知識」がA評価となった以外は、いずれもB又はC評価であったことが認められる。上記Bの職務内容、職務状況及びこれに対する査定内容に照らすと、原告会社がBに対して行った本件考課における成績、能力に関する評価が合理的理由を欠いているとはいえない。
Bは、(1)原告会社において20年以上の経験を有するベテランであり、開発業務の経験も有しているところ、開発業務に関する専門知識、事務処理には優れているものの、開発業務に最も必要とされる対外折衝能力に欠けていること、(2)比較的得意な申請業務などをマイペースで行う傾向があったこと、(3)チームワークに基づいた業務処理を苦手としていたこと、(4)これらの事情から「協調性」、「責任性」についてはC評価を受けることがあったことが認められる。これらの事実に照らすと、原告会社がBに対して行った本件考課における勤務態度に関する評価が合理的理由を欠いているとまではいえない。以上によれば、Bの本件考課は、成績に関する評価項目のうち、「成果達成への努力」(昭和62年度及び同63年度各能力開発考課)、「教育指導力」(昭和63年度夏季賞与考課)、「協調性」(各考課)、「責任性」(昭和62年度能力開発考課、同63年度各考課)がそれぞれC評価となり、その結果全ての考課の総合評価もC評価となったことが認められるものの、このような原告会社のBに対する評価が合理的理由を欠いているとまでいうことはできない。Bは昭和60年の本件合併以来S-2に据え置かれていることが認められるところ、Bの職歴、成績、能力、勤務態度等に照らすと、同人を(S-1)と評価することも困難である。
5 Cの本件考課における職能資格等級の格付について
Cは、給油所課開発チームにおいて、事務処理関係を一手に引き受け、これを着実に処理していたこと、消費税導入に際し、残業や休日出勤も厭わず、予定通り準備作業を完了したことが認められ、各評価項目はいずれもA又はB評価であったことが認められる。上記Cの職務内容、勤務状況及びこれに対する査定内容に照らすと、原告会社がCに対して行った本件考課における成績、能力の評価が合理的理由を欠いているとはいえない。
また、Cの本件考課のうち昭和62年度能力開発考課及び同63年度各考課における「責任性」、各考課における「協調性」がいずれもC評価となり、その他はいずれもB評価であったことが認められる。この点について、Cは、(1)原告会社において約20年の経験を有するベテランであり、事務処理には優れているものの、チームワークに基づいた業務処理に支障を来すことがあったこと、(2)このため「協調性」、「責任性」についてC評価を受けることがあったことが認められる。そうだとすると、原告会社がCに対して行った本件考課の勤務態度に関する評価が合理的理由を欠いているとまではいえない。
6 Dの本件考課における職能資格等級の格付について
Dは、(1)約15年にわたり販売を担当していたベテランセールスマンであったこと、(2)それにもかかわらず、他の特約店セールスに比べて担当する給油所が少なかったこと、(3)昭和61年9月頃、相次いで担当特約店から担当の交替を申し入れられたこと、(4)昭和63年度販売目標達成率は軽油等が目標を超えているものの、潤滑油は目標を下回っていたこと、(5)同62年10月から同63年3月までの間の「Xカード」の消化率及び獲得数は大阪支店内では上位に入るが、課内では下位であったことが認められる。これに対し、Dの本件考課の「成果」、「成果達成への努力」は、昭和63年度各考課における「成果達成への努力」がC評価、それ以外はいずれもA又はB評価であったことが認められる。また、Dの第一次評価者である課長は、「成果達成の努力」について、なりゆきセールスになっており、業務改善のための努力に欠ける旨指摘していることが認められる。上記Dの職務内容、勤務状況及びこれに対する査定内容に照らすと、原告会社がDに対して行った本件考課における成績の評価が合理的理由を欠いているとはいえない。
Dは、上記のほか、一貫して人事考課における面接を拒否していたことが認められ、また平成元年度夏季賞与考課までの第一次考課を行った課長は、Dの「教育・指導力」について他の課員らに対する配慮に欠け、チーム活動の障害となっていること、「折衝・調整力」について上司に頼り自ら問題解決する努力に欠けること、「工夫・改善力」について改善する意思が見られないこと、「規律性」についてマイペースであり、整理整頓が悪いこと、「協調性」について、自己中心的であることなどをそれぞれ指摘していることが認められる。これら事実に照らすと、原告会社がDに対して行った本件考課における能力及び勤務態度に関する上記評価項目は概ねC評価となっているものの、当該評価が合理的理由を欠いているとまで認めることは困難である。Dは昭和61年度からS-3Aに格付けされていることが認められるところ、Dの職歴、成績、能力、勤務態度等に照らすと、(S-1)とか(S-2)とかに評価することは困難というべきである。以上、原告会社がDに対して行った本件考課における各査定及びこの間の職能資格等級の格付は、いずれも合理的理由を欠いていると認めることは困難である。
7 Eの本件考課における職能資格等級の格付について
Eは、(1)和歌山県の比較的小さい特約店を担当していたこと、(2)昭和63年は軽油、潤滑油等について販売目標を達成し、「スーパーX」についても他の課員と遜色ない程度の達成率であったこと、(3)昭和62年後半に御坊給油所が販売成績優秀な給油所として表彰されるなどの成果を上げていたこと、(4)しかし、Eの訪問回数について不満を持つ特約店があったことも認められる。これに対し、Eの本件考課の成績及び能力に関する各評価項目は、昭和63年度夏季賞与の「教育・指導力」がC評価となったのを除き、いずれもA又はB評価であったことが認められる。上記Eの職務内容、勤務状況及びこれに対する査定内容に照らすと、原告会社がEに対して行った本件考課における成績及び能力の評価が合理的理由を欠いているとはいえない。
Eは、(1)二度にわたり考課表において「職場同士の改善」を指摘されていること、(2)原告会社が昭和62年から翌63年までの間、最重要年間販売目標商品としていた「Xカード」の会員獲得実績がとりわけ低いこと、(3)人事考課における面接を拒否していたことなどが認められる。この事実に照らすと、Eの本件考課における勤務態度について、「規律性」、「協調性」がC評価になっているものの、同評価が合理的理由を欠いているとまで認めることは困難である。以上によれば、Eの昭和63年度夏季賞与考課は、能力のうち「教育・指導力」、勤務態度のうち「規律性」、「協調性」がC評価となり、平成元年度冬季賞与考課は、勤務態度のうち「協調性」がC評価となり、その結果、それぞれ総合評価がC評価となったことが認められるものの、このような原告会社のEに対する評価が合理的理由を欠いているとまでいうことができない。Eは昭和62年よりS-2に格付けされていたことが認められるところ、Eの職歴、成績、能力、勤務態度等に照らすと、同人が(S-1)とまで評価することは困難である。以上、原告会社がEに対して行った本件考課における各査定及びこの間の職能資格等級の格付は、いずれも合理的理由を欠いているとまで認めることは困難である。
8 まとめ
以上検討したところによれば、原告会社がAら6名に対して行った本件考課における査定及び職能資格等級の格付が合理的理由を欠いているとまで認めることは困難である。したがって、原告会社の本件組合大阪支部及びAら6名に対する不当労働行為意思の存否を検討するまでもなく、原告会社はAら6名が本件組合に所属し、組合活動を行っていたことゆえに、本件考課における査定及びこの間の職能資格等級の格付において、労働組合法7条1号にいうところの「不利益取扱い」をしたとはいえず、またこれが認められない以上、「不利益取扱い」の存在を前提とする原告会社の本件組合大阪支部に対する「支配介入」を認める余地もないことになる。そうだとすると、本件命令のうち、これとは判断を異にし、原告会社に対し、Aら6名の職能資格等級及び賃金等の是正、差額の支払い、謝罪文の手交を命じた部分は違法であり、取消を免れない。
9 申立期間の経過の有無 (略) - 適用法規・条文
- 12:労働組合法7条、27条2項、
- 収録文献(出典)
- 労働判例947号58頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。 ・法律 労働組合法 ・キーワード 不当労働行為、パワーハラスメント
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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