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中労委・遊技機等製造会社人事考課事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 中労委・遊技機等製造会社人事考課事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成19年(行ウ)第671号
- 当事者
- 原告株式会社T
被告国 - 業種
- 卸売・小売業・飲食店
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2008年11月17日
- 判決決定区分
- 認容(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、パチンコ遊技機及びパチンコ玉児童補給装置の製造・販売等を行い、約270名の従業員を擁する株式会社であり、Aは昭和62年4月に原告に入社して福岡支店サービス課に所属し、平成4年4月に総務主任に昇格し、Bは平成14年4月に原告に入社し、同課課員として勤務していた。また、補助参加人は、組合員数約300人の労働組合で、原告従業員の組合員はA及びBのみであった。
原告は、平成9年頃から成果主義の観点に立った考課制度を徐々に導入するようになったが、その基本的な仕組みは、「基本給等×個人考課係数×役員考課係数×部門考課係数」により各従業員の賞与基準額を算出するものであった。このうち個人考課係数は、各部門長等がその所属する従業員について、勤務成績全般を考慮して、相対評価でA〜Eの5段階評価で決定し、役員考課係数は、会社に対する貢献度や制裁的な意味から、大きな功績があった従業員には1.1〜1.5の係数を付け、大きな問題があった従業員には0.5〜0.9の係数を付け、部門考課係数は、各部門の成績に応じて上からA〜Eの5段階の評価を付すものであり、原告はこうした仕組みによって、7月の夏期賞与、12月の冬期賞与及び3月の期末賞与の支給額を決定していた。
A及びBは、低い考課を受けたことに不満を抱き、被告補助参加人組合(組合)に加入して、賞与の引上げ、是正支給を求めていたが、個人考課、役員考課とも低い評価を受け続けた。こうしたことから、組合は平成17年3月、福岡労働委員会に対し、(1)原告が、平成15年度期末賞与、平成16年度夏期賞与及び冬期賞与について、組合員であるA及びBに対して恣意的な人事考課を行い、著しく低額の支給をしたこと、(2)原告福岡支店長が、Bに対し、被告補助参加人から脱退するよう働きかけたこと、(3)同支店長が、団体交渉で議論された事項に関し、朝礼でBを非難するような発言をしたこと等が不当労働行為に該当するとして救済申立を行った。同地労委は、各賞与における個人考課については低査定を不当と認めなかったが、役員考課については、合理性・相当性のない低査定であり、A及びBの組合加入を嫌悪した原告の不当労働行為に当たるとして、平成18年9月22日付けで救済命令を発した。原告はこれを不服として、中労委に対して再審査申立をしたが、平成19年9月5日付けで中労委がこれを棄却したため、原告は同命令の取消を求めて本訴を提起した。 - 主文
- 1、中央労働委員会が、中労委平成18年(不再)第60号事件について、平成19年9月5日付けでした命令を取り消す。
2、訴訟費用中、補助参加によって生じたものは被告の補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする - 判決要旨
- 1 不当労働行為の立証責任
本件は、不当労働行為を主張する被告において、労働組合法7条1号の不利益取扱いの成立を立証しなければならず、そのためには、(1)本件役員考課の低査定がA及びBに対する不利益な取扱いに当たること、(2)A及びBが労働組合に加入し、労働組合の正当な行為をする等したこと、(3)原告が(2)の「故をもって」の不利益な取扱をしたことを立証しなければならない。そして、本件では成果主義の観点から導入された役員考課が問題となっており、考課は、従業員によりその結果に差が生じるのが常態といえるもので、(1)の要件を立証するためには、A及びBが他の従業員と同様の勤務実績を挙げているのに本件役員考課において他の従業員より低査定を受けたという不利益な取扱いの事実立証をしなければならないと解すべきである。この点被告は、被告が立証すべきなのは本件役員考課が原告の不当労働行為意思に基づくことであり、本件役員考課が相当であることは原告が立証すべきである旨主張する。もとより、使用者と労働組合側の考課に関する情報量の差を考慮すれば、労働組合ないし被告が考課の相当性に多大な疑問があることを指摘しているのに、原告からの的確な考課の相当性についての反証が得られなければ、(1)の要件が立証されたものと評価し得るものというべきであるが、(1)の要件の要素である考課の相当性についての客観的な立証責任を原告に負わせるという主張は、労働組合法7条1号の規定、考課制度の性質に照らすと、妥当でなく採用できない。
2 立証の可否
Aについて、平成15年度期末賞与の役員考課の低査定の理由は、Aが見積書の誤りで顧客に迷惑をかけたこと及び繁忙期に有給休暇を取得して貢献がなかったことである。前者については、平成16年2月頃、顧客に対する設備改造工事の見積書提示等の対応が遅かった上、見積書が他社より高く、結果として改造工事を受注できなかったことがあり、これを低査定の理由とすることは一応の合理性が認められる。また、後者については、帯状疱疹を患い、有給休暇を取得したこと自体を低査定の理由としているのではなく、そのことにより貢献がなかったことを理由とするものであり、これを低査定の理由とすることは有給休暇の趣旨からすれば望ましいとはいえないが、役員考課が原告への貢献度を計るものであることからすれば、不合理とはいい切れない。また、平成16年度冬期賞与の役員考課の低査定の理由は、Aのパーラー研修での勤務態度が積極性に欠けていたことである。同研修の勤務態度が1.0未満となった例はAのほかになく、勤務態度についてわざわざ研修現場の長から指摘されたのもAだけだというのであるから、同研修での勤務態度の悪さを低査定の理由としても不合理とはいえない。
更に、他の賞与において実施されたAに対する役員考課をみるに、平成14年度冬期賞与及び期末賞与の役員考課が1.0とされたのは、成績不良との報告がなかったためで、平成15年度夏期賞与の役員考課が1.0とされたのは、支店長が専務にAの査定を悪くしないように要請したためであるし、同年度冬期賞与の役員考課は、Aの勤務態度が改善しないとの報告に基づき、0.8とされており、この査定には一応の合理性が認められる。また、参考として、Aに対する個人考課についてみるに、平成13年度期末賞与はE評価、平成14年度冬期賞与はD評価、同年度期末賞与はD評価、平成15年度冬期賞与、期末賞与及び平成16年度冬期賞与はいずれもE評価とされており、これらの査定はいずれも一応の合理性が認められる。
以上によれば、Aは、組合に加入した平成15年11月20日の前後を通じて、ほぼ一貫して業務に対する姿勢、意欲が低く評価されている。Aは福岡支店サービス課における経験年数が最も長かったにもかかわらず、一部の書類の作成業務が満足にできない状況であったことからすれば、Aの勤務実績は、他の従業員に比して良くなかったと評価し得る。実際、福岡支店における個人考課及び役員考課の分布をみると、Aは組合加入前から低位にあり、Aの組合加入の前後で顕著で不自然な変化があるわけではない。
Bについては、平成15年度期末賞与の役員考課の低査定の理由は、以前起こした交通事故から1年も経たないうちに再度勤務中に自らの過失で交通事故を起こしたことであり、これが低査定の理由となるのはやむを得ない。平成16年度冬期賞与の役員考課の低査定の理由は、Bが勤務時間外の深夜に数回福岡支店事務所に無断で立ち入ったことについて、目的や理由の明確な説明がなかったことを理由とするもので、事務所を管理する原告として、従業員が深夜に何度も事務所に立ち入った場合に報告を求めるのは当然であり、これに適切に応じなかったことを低査定の理由とすることは特に問題はない。
更に、他の賞与において実施されたBに対する役員考課は、平成14年度冬期賞与及び期末賞与の役員考課が1.0とされたのは、新入社員の特例で役員考課が実施されなかったためであり、平成15年度夏期賞与の役員考課は、能力不足と成長性の欠如、勤務中に交通事故を起こしたことを理由として0.8であり、この査定には合理性が認められる。また、同年度冬期賞与の役員考課は、執務能力の欠如と改善の見込みがないことを理由として0.7であり、この査定が不合理とはいい切れない。また、参考としてBの個人考課を見ると、平成14年度冬期賞与ではE評価、同年度期末賞与では努力しようという姿勢が見られる等としてC評価、平成15年度冬期賞与及び期末賞与ではE評価、平成16年度冬期賞与ではD評価とされており、これらの査定にはいずれも一応の合理性が認められる。
以上によれば、Bは、組合に加入した平成15年7月4日の前後を通じて高く評価されたことがない。また、Bは先輩社員から、言葉遣い、態度、身なり等について度々注意を受けるもふてくされたような態度が見受けられたというのであるから、Bの勤務態度は他の従業員に比して良くなかったと評価し得る。実際、福岡支店における個人考課及び役員考課の分布をみると、Bは組合加入前から低位にあり、Bの組合加入の前後で顕著で不自然な変化があるわけではない。
原告全体における平成15年度期末賞与及び平成16年度冬期賞与の役員考課を見ると、役員考課が1.0未満の者が、各20名、16名であり、A及びBのみが低査定を受けたわけではない。A及びBの組合活動の活発さの時点を考えると、平成15年度期末賞与よりも平成16年度冬期賞与での役員考課の方が、Aは0.1、Bは0.3それぞれ上昇しており、これは団体交渉の結果と言い得る余地が存するが、組合活動故に不利益に取り扱ったとするには疑問が残る。以上に加え、もとより、賞与の査定を行う際に、いかなる事由をどのように考慮して査定するかは、使用者である原告に広範な裁量が認められるものであること、平成15年度夏期賞与以降の賞与支給額がそれより前の賞与支給額より下がった主な理由は、役員考課とは直接には関係しないファンド数の低下によるものであることをも考慮すべきである。
以上によれば、本件命令の指摘する原告の賞与制度そのものが恣意的な運用を許す構造となっていること、本件役員考課の査定の相当性について少なくとも疑問を生じさせる事情があることを十分考慮に入れてもなお、原告の役員考課にかかる全体的状況とA及びBの勤務状況に鑑みれば、A及びBが他の従業員と同様の勤務実績を挙げているのに他の従業員より低査定を受けたという不利益な取扱いの事実が存在するとまで立証し得ているとは解し難く、前記(1)の要件は立証できていないというほかない。したがって、本件で問題となっている原告の本件役員考課におけるA及びBに対する低査定については、労働組合法7条1号の不利益取扱いについての前記3要件のうち、少なくとも前記(1)の要件が立証できておらず、不当労働行為を認めることはできない。 - 適用法規・条文
- 12:労働組合法7条、
- 収録文献(出典)
- 労働判例980号67頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
・法律 労働組合法
・キーワード 不当労働行為、パワーハラスメント
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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