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外国人研修生研修費用不払等事件
- 事件の分類
- その他
- 事件名
- 外国人研修生研修費用不払等事件
- 事件番号
- 熊本地裁 - 平成19年(ワ)第1496号
- 当事者
- 原告 個人3名 A、B、C
原告 協同組合
被告 個人1名 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2009年12月15日
- 判決決定区分
- 一部認容・一部棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告九州経済交流事業協同組合(原告組合)は、組合員のために外国人研修生の共同受入事業を行うこと等を目的として設立された協同組合であり、被告(昭和30年生)はトマトを栽培する農家の経営者である。また、原告A(昭和58年生)、原告B(昭和62年生)及び原告C(昭和61年生)(以下「原告研修生」)は、いずれも中国出身の外国人女性研修生であり、原告組合と被告は、平成18年6月14日、外国人研修生の受入れに関し、次の内容の合意をした(本件受入合意)。
(1)被告は、第1次受入機関たる原告組合が受け入れた外国人研修生を第2次受入機関として受け入れ、これに対して1年間の実務研修を施すこととし、その間、研修生に対して1人当たり月額6万円の研修手当を支払うほか、研修生の居住施設その他生活必需品を提供し、研修生の国際渡航費その他各種費用等を負担するとともに、原告組合に対しても、研修生1人当たり月額4万5000円ないし5万5000円の派遣機関管理費を支払う。
(2)被告は、外国人研修生らに対して行う研修を原則として1週間平均40時間以内とし、時間外や夜間にはこれを行わせてはならない。
(3)原告組合は、研修生に対し非実務研修(語学研修等)を施すとともに、当該研修が関係法令の趣旨に沿うように適切に管理する。
原告研修生らは、平成18年10月27日に日本に入国後、原告組合の下で約1ヶ月間、語学等の研修を受け、同年11月から被告においてトマト栽培に関する育成管理、収穫及び箱詰め作業等の実務研修に入った。しかし、被告は原告研修生らに対し、語学研修等を受けている間も土日に実務研修をさせ、実務研修に入ってからは連日のように残業をさせたことなどから、原告研修生らは原告組合に対し、長時間の残業を強いられていること、残業を拒否すると被告と息子(被告ら)らが、(1)残業費いらないから残業しない、(2)残業費もらったら現在よりもっと頑張って仕事をする、(3)今中国に帰りたい、の三択を文書で示し、その選択を強いられたり、帰国を強要されたりしたことを訴えた。
原告組合は、これを受けて、平成19年6月4日と7日、原告から事情を聴取したが、その際被告は原告研修生らが時間外作業をしていたことを認めながらも改善指導書への署名押印を拒否したため、話合いは決裂した。
被告は、本件受入合意に基づいて原告組合に対して支払うべき平成19年4月ないし7月分の派遣管理費合計66万円、3名の原告研修生らに対する、同年5月ないし7月分の研修費54万円をいずれも支払わなかったため、原告組合は研修費を立て替えて原告研修生らに対して支払った。そこで、原告組合は被告に対し、支払われていない派遣管理費及び立て替えた研修費の支払いを被告に請求する一方、原告研修生ら3人は、被告に対し、同年齢の日本人女性と同様な金額の賃金と、慰謝料の支払いを請求した。 - 主文
- 判決要旨
- 1 超過研修の有無
被告においても、原告研修生らが週40時間を超える研修をしていた事実関係についてはこれを認める旨の主張をしており、入国管理局に対しても同様の答弁をしていたことが窺えるところ、これに本件紛争の経緯、特に平成19年5月10日に被告らが原告研修生らに提示した三択の内容や、その直後に原告研修生らが原告組合宛に差し出した手紙の内容に照らせば、原告研修生らは、被告らに強いられ、超過の研修を余儀なくされていたことを認めることができる。したがって、被告が、原告研修生らに対して不法行為に基づいて損害を賠償する責任を負うことは明らかである。
2 超過研修の程度
原告研修生らは、1人当たり504.5時間の超過研修が行われていた旨主張し、これを裏付ける証拠として、日々超過研修時間を記載したカレンダーを提出するが、原告研修生らは平成19年3月21日に原告組合に差し出した手紙において、平成18年11月から平成19年3月21日までの間に休みが取れたのは同年1月1日と3月11日の2日だけと記載しており、3月11日は原告研修生らが被告らとともに料理店で飲食したことが認められるところ、本件カレンダーの同日欄には1日中研修があった旨の記載があることから、本件カレンダーの記載を全面的に信頼することはできない。
一方、被告は、原告研修生らを受け入れる以前から2人の中国人研修生を受け入れ、技能実習生の身分を獲得した2人に対して月100時間ほどの残業をさせていたところ、これらに、原告研修生を受け入れるに当たり、更に300万円かけて3つの部屋と炊事場及び風呂場を増設し、原告組合に対しても多額の費用を支払っていること、原告研修生らが入国した当日に受け入れ、翌日と翌々日には研修の導入を始めていること、原告研修生らが語学研修等を受けている最中も、3週間にわたり、週末に車で迎えに行って被告方に同道し、日曜日の夜に原告組合に送り届けるとの方法で土日に実務研修をさせていることが認められ、更に被告自身、原告組合が言外に超過研修を黙認していたことを強調して自己の行動を正当化しようとしているなどの各事情を総合すると、被告が原告研修生らに相当長時間の超過研修を強いていたことは明らかであり、その総時間が約6ヶ月間で1人当たり500時間程度になっていたとしても、直ちに不自然とは言えない。これらの事情を総合すると、原告ら主張の7割程度である350時間程度の超過研修時間があったことは、これを推認することができるものというべきである。
3 損害額及び慰謝料
損害額の算定に当たって、原告研修生らは、同人らと同年齢の日本女子学歴計の賃金センサスを基準として、得べかりし賃金相当額を把握すべき旨主張する。しかし、原告研修生らは、当時いずれも外国人研修生であって、労働をしてその対価を受ける地位にはなかったのであるから、賃金相当の損害額をもって把握することはできないというほかない。
結局、この点の原告研修生らの損害は、本来、自己の自由な選択に基づいて自己研鑽なり気分転換なりに費やすことができる時間を不当に奪われ、かつその間、意に添沿わない肉体労働に従事させられて精神的損害を被ったことと把握すべきであり、この慰謝料の額については、かかる事情を併せ考慮して判断することとする。
原告研修生らは、被告が、週40時間を超える労働を強制した上、原告研修生らがこれを拒否できないように、中国への強制帰国を仄めかすなどしていた旨主張する。この点、被告はかかる言動を仄めかしたこと自体を認めているところ、これに、被告が原告研修生らに提示した三択の文書の内容に中国に帰国するとの選択肢があることや、原告研修生らが原告組合に宛てた手紙にもかかる言動があったことが記載されていることを併せると、被告においてかかる言動があったことは、これを十分認めることができる。加えて、被告は原告研修生らが引き上げられるまで、パスポートと預金通帳を預かり保管していたことを認めることができ、かかる事実は、被告の原告研修生らに対する干渉の程度が著しいものであったことを窺わせるものといえる。よって、この点の原告研修生らの主張は理由がある。
慰謝料の額を検討するに、周囲との意思疎通が不十分な状況にあるにもかかわらず、約束されていた休日も満足に与えられず、語学等の自己研鑽もできず、息抜きもままならない状態に置かれ、しかも、パスポートや預金通帳の自己保管も許されないような管理下に置かれ、長時間の無償の肉体労働を教養された原告研修生らの精神的苦痛は重大なものというべきである。ところで、原告研修生らは既に中国に帰国しているから、原告研修生らの慰謝料については、中国国内の物価水準や貨幣価値等を基準として判断することになる。そこで、現在の中国国内の物価水準が日本国内の7ないし10分の1程度と見込まれることや、将来的には経済発展を遂げる中国の通貨切上げが見込まれることなどの顕著な事実に、前記の各事実及び本件に顕れた一切の事情を併せ考慮し、原告研修生らの1人当たりの慰謝料の額を20万円と判断するのが相当であり、また弁護士費用は7万円と認めることができる。
4 原告組合の請求について
原告組合が、原告研修生らに対し、被告が支払わなかった研修費用合計54万円を立替払したことを認めることができるから、原告組合はこれを被告に対して求償することができる。被告が、原告組合に対して支払うべき平成19年4月ないし7月分の派遣機関管理費合計66万円を支払っていないから、原告組合はこれを被告に対して請求することができる。 - 適用法規・条文
- 02:民法709条、
- 収録文献(出典)
- 労働判例998号80頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
・法律 民法
・キーワード パートタイマー・派遣、慰謝料、パワーハラスメント
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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