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小規模証券会社管理職解雇賃金請求控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
小規模証券会社管理職解雇賃金請求控訴事件
事件番号
東京高裁 − 平成21年(ネ)第1055号、東京高裁 − 平成21年(ネ)第2647号
当事者
控訴人兼附帯被控訴人 N証券株式会社
被控訴人兼附帯控訴人 個人1名
業種
金融・保険業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2009年09月15日
判決決定区分
控訴及び附帯控訴棄却(確定)
事件の概要
被控訴人兼控訴人(被控訴人・第1審原告)は、A証券で営業職として約7年間勤務した後、控訴人兼被控訴人(控訴人・第1審被告)の社長からの強い勧めもあって、平成19年5月21日、控訴人に営業職の正社員として雇用された。被控訴人の賃金は、毎月65万円、賞与は年2回各105万円とされたが、雇用契約書には、被控訴人の業績等によっては賞与を支給しない場合もあると規定されている外、被控訴人の報酬額については、勤務態度や業績が著しく悪い場合には本件雇用契約締結後6ヶ月を経過した後に見直すことがあると定めていた。

被控訴人の手数料収入は、6月63万8000円、7月41万2000円、8月11万4000円であり、役員などから給料の見直しもあり得る旨注意を受けたが、ノルマを示されたことはなかった。被控訴人は同年8月28日、役員から給与を65万円から25万円に減額した上であと1ヶ月だけ猶予するか、解雇を受諾すること等が告げられたことから、被控訴人は給与減額の上1ヶ月解雇猶予を選択したが、改めて試用期間残り3ヶ月について従来通りの待遇を求めたところ、控訴人は同年9月3日、被控訴人は今後も改善の見込みがないなどとして、就業規則にいう「試用期間中に不適と認められるときの解雇」として、被控訴人を同日付で解雇した。

これに対し被控訴人は、本件解雇は無効であることを前提に、平成19年11月1日以降の未払賃金月額65万円と、C証券で得ている月額60万円の差額及びC証券は賞与がないから平成20年夏以降毎期の賞与105万円並びに慰謝料250万円及び弁護士費用25万円を請求した。

第1審では、本件解雇は無効であるとして、控訴人に対し、被控訴人が解雇されてから次に就職するまでの期間の賃金及び慰謝料150万円等の支払いを命じたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだが、他方被控訴人も損害賠償額の引上げ等を求めて附帯控訴した。
主文
1本件控訴を棄却する。

2本件附帯控訴を棄却する。

3控訴費用は控訴人兼附帯被控訴人の、附帯控訴費用は被控訴人兼附帯控訴人の各負担とする。
判決要旨
当裁判所も、被控訴人の本件請求は原審が認容した限度で理由があると判断する。

本件雇用契約書には、本件雇用契約における被控訴人の試用期間を6ヶ月とする規定が置かれているところ、試用期間満了前に、控訴人はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから、被控訴人と控訴人との間で、被控訴人の資質、性格、能力等を把握し、控訴人の従業員としての適性を判断するために6ヶ月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきである。そして、試用期間が経過した時における解約権留保条項に基づく解約権行使が、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6ヶ月間の試用期間の経過を待たずして控訴人が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるというべきである。

なるほど、平成19年5月21日から9月3日までの期間の原告の手数料収入は高いものとはいえないが、被控訴人と控訴人との間では、被控訴人の資質、性格、能力等を把握し、控訴人の従業員としての適性を判断するために6ヶ月間の試用期間を定める合意が成立しているのであって、控訴人が僅か3ヶ月強の期間の手数料収入のみをもって原告の資質、性格、能力等が控訴人の従業員としての適格性を有しないと判断して本件解雇をすることは、試用期間を定めた合意に反して控訴人の側で試用期間を被控訴人の合意なく短縮するに等しいものというべきであって、被控訴人が業務上横領等の犯罪を行ったり、控訴人の就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど、試用期間の満了を待つまでもなく被控訴人の資質、性格、能力等を把握することができ、控訴人の従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められるのであれば格別、合意した試用期間である6ヶ月間における被控訴人の業務能力又は業務遂行の状態を考慮しないで控訴人が行った本件解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当として是認することはできない。

控訴人は、被控訴人を即戦力として採用したのであるから、原告がどのような資質能力を備えているかを判断するには3ヶ月で十分であると主張するが、何故3ヶ月で十分であるのか明らかでないし、仮に被控訴人のような即戦力として雇用された従業員の適性を判断するに当たっては3ヶ月という期間で十分というのであれば、雇用契約書における試用期間を3ヶ月間とする条項を設けて控訴人と被控訴人との間の合意とすることができるところ、これに反して、本件雇用契約書には、本件雇用契約における原告の試用期間を6ヶ月とする規定が置かれている上に、被控訴人の報酬額も契約締結後1年経過ごとに被控訴人の勤務状況及び業績に基づき見直すとしつつも、被控訴人の勤務態度や目標に対する業績が著しく悪い場合には本件雇用契約締結後6ヶ月を経過した後に被控訴人の報酬を見直すことがあるとしているのであって、これらの規定によれば、控訴人も、6ヶ月の試用期間が経過した時点で、被控訴人の勤務態度や目標に対する業績が著しく悪い場合には報酬額の見直しを行い、試用期間中の調査や観察に基づいて従業員としての適格性が否定される場合には最終的な決定としての留保解約権の行使を行う趣旨であったと解されるのであり、控訴人の前記主張はにわかに採用し難い。

更に被控訴人は、平成19年11月1日以降、他社に就職して中間収入を得ているが、本件において被控訴人は、本件解雇後、控訴人を相手方にして東京労働局に斡旋を申請し、金銭的な解決を求めていたこと、法令等で証券会社間の従業員の兼業は禁止されているところ、被控訴人は同年11月1日、C証券会社に入社し、労働審判においても労働者足る地位の確認は求めず、金銭解決を求めていた等の事実が認められるのであって、これらの事実に照らせば、被控訴人はC証券会社に入社した平成19年11月以降、本件雇用契約を終了させる旨の本件解雇を承認したものと認められる。してみると、被控訴人の同月1日以降の給与の請求及び平成20年6月以降の賞与の請求は、その前提を欠くものと認められる。また平成19年12月に支給される賞与の算定期間は同年4月1日より同年9月30日までであり、この期間中における被控訴人の勤務は存在するが、上記賞与については、支給時において被控訴人が控訴人に在籍していないため、控訴人の給与規定により、これも被控訴人に支給されるべき要件を欠くものと認められる。

以上によれば、被控訴人の本件請求は、原審が認容した限度で理由があり、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから、いずれも棄却することとする。
適用法規・条文
労働基準法37条1項、41条1項、114条1項、民法709条
収録文献(出典)
その他特記事項