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保険査定業務派遣社員解雇控訴事件

事件の分類
解雇
事件名
保険査定業務派遣社員解雇控訴事件
事件番号
東京地裁 − 平成21年(ワ)第19991号
当事者
控訴人・被控訴人 個人1名

被控訴人・控訴人 J株式会社
被控訴人U共済会
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年12月15日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
被控訴人・控訴人J社(1審被告会社)は、保険金の支払いや損害額の調査・評価等と人材派遣を業とする株式会社、被控訴人(第1審被告)U共済会(被控訴人)は、いわゆる無認可共済と呼ばれる事業を営んでいた権利能力なき社団であり、控訴人・被控訴人(1審原告)は、平成18年6月1日、1審被告会社との間で、業務を被控訴人への保険査定業務とする業務契約を締結した。

1審原告は、E社に派遣されて仕事を始めたところ、平成19年8月21日、1審被告会社から、同年9月20日付けで委託を中止する旨の通告(解雇)を受けた。これに対し1審原告は1審被告会社に対し、両者間の契約は違法な労働者派遣であること、突然の解雇は解雇権の濫用であって受け入れられないことを通知したが、1審被告会社は、同年10月17日、1審原告について離職証明書を発行した。

一方、1審原告は、E社で働く20代の女性Kに対し、英会話を教えたり、クリスマスにブーケを渡したりした外、メールで頻繁にKを夕食などに誘ったが、Kから「普通の皆と同じように接してください」との返事を受け、メールで謝罪した。1審被告J社代表者はE社から原告とKとの関係について善処されたい旨の申出を受けて、平成19年2月中旬、1審原告に対しKとの関係について今後注意するよう申し向けた。

1審原告は、1審被告会社との労働契約は常用型の派遣労働者契約であって、派遣先(被告U共済会)が解散となっても1審被告会社との契約関係は終了しないことを主張して、本件解雇の無効及び賃金の支払い並びに精神的苦痛に対する慰謝料200万円を請求した。これに対し1審被告会社は、1審原告との法律関係は登録型派遣契約であり、被控訴人が解散してその保険査定業務がなくなった以上、両者の労働契約は終了すること、仮に1審原告と1審被告会社との関係が労働契約関係であるとしても、1審被告会社はE社から要員の減員を申し出られて人員削減の必要があったこと、原告を配置転換したり出向させたりする余裕はないこと、1審原告はE社の若手女性社員Kに対するセクハラ問題を発生させるなど、E社の従業員らとの円満さを欠いていたこと、1審被告会社の代表者が1審原告に対し整理解雇の必要性について詳しく説明していることなどから、整理解雇としても有効である旨主張して争った。

第1審では、本件解雇は無効であるが、1審原告は被控訴人の業務を行うために雇用されたものであるところ、被控訴人が解散したことによって1審原告は1審被告会社の従業員の地位を失ったとして、解雇から被控訴人の解散までの間の賃金の支払いを認めたことから、1審原告、1審被告会社ともにこれを不服として控訴に及んだ。
主文
1原判決主文第1項から第3項までを、次のとおり変更する。

(1)1審原告が、1審被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(2)1審被告会社は、1審原告に対し、10万円及びこれに対する平成19年11月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

(3)1審被告会社は、1審原告に対し、平成19年11月から毎月末日限り各40万円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

(4)1審原告の1審被告に対するその余の請求をいずれも棄却する。

21審原告の被控訴人U共済会に対する控訴を棄却する。

31審原告と1審被告会社の間も訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを10分し、その1を1審原告の負担とし、その余を1審被告の負担とし、1審原告と被控訴人U共済会との間の訴訟費用は、1審原告の負担とする。

4この判決第1項(2)及び(3)は、仮に執行することができる。
判決要旨
11審原告と1審被告会社との契約内容について

当裁判所は、1審原告と1審被告会社との契約関係は、業務請負契約ではなく、労働契約であると判断する。

労働契約か請負契約かは業務遂行の実態に応じて判断されるべきものであり、業務遂行に当たっては就労先の指揮命令に従い、出退勤の管理もされていたという本件の事実関係の下においては平成18年6月の契約当初から労働契約であったことが明らかである。また、労働契約か請負契約かの判断をするに当たり契約関係の文書をいたずらに重視すべきものではなく、本件においても業務発注依頼書に「業務発注」、「報酬」等請負契約に用いられる用語が記載されていることを重視すべき事情の存在を認めるに足りる証拠はない。当裁判所は、1審原告と1審被告会社との契約関係は期間の定めのない労働契約であって、本件解雇当時の1審原告は、1審被告会社に常時雇用される労働者として、1審被告会社から被控訴人U共済会又は同被控訴人から査定業務等の委託を受けていたE社に派遣されていたものと判断する。

1審被告会社は、1審原告の雇用を開始した平成18年6月1日の時点においては、一般労働者派遣事業の許可を得ず、特定労働者派遣事業の届出も行わずに、常時雇用される労働者について労働者派遣事業を行うという罰則の対象となる違法行為を犯していたものと認められる。しかしながら、このことは期間の定めの有無に関する上記判断に影響を及ぼすものではない。

2本件解雇の有効性について

当裁判所は、本件解雇は無効であると判断する。

平成19年の本件解雇当時、1審被告会社がE社から要員の減員の要請を受けていたことが認められる。しかしながら、その事実から直ちに人員整理の必要性があったと断ずることは困難であるばかりか、1審被告会社は平成21年以降は業務の範囲を拡大し、従業員数も平成19年当時よりも増加させていることが認められ、この事実によれば、本件解雇当時人員整理の必要性があったかどうかは疑わしいといわざるを得ない。また1審被告会社は平成16年から平成20年まで被控訴人からの取扱件数の減少傾向が止まらなかったと主張するが、1審被告会社はどのような企業に対しどのような資格のある者をどの程度の員数派遣することにより収益を上げているかを明確にしないので、被控訴人からの取扱件数が減少したことが認められるとしても、整理解雇の必要性があったものということができない。

1審被告会社が、希望退職の募集、配置転換、他の派遣先の開拓などの解雇回避の努力を尽くしたことを認めるに足りる証拠はない。1審被告会社は、同社が零細企業であるため1審原告の配置転換や出向等ができない状況にあったと主張するが、このような主張自体が具体的な努力の欠如を窺わせるものというほかなく、1審被告会社の主張は採用することができない。

1審被告会社は、1審原告のセクハラ問題、派遣先のE社における問題のある勤務態度が原因で、E社から暗に1審原告を減員することを求められたと主張する。しかしながら、1審原告にセクハラ問題があるとはいえず、また1審原告のE社における勤務態度に問題があったという事実については、証拠に照らしてにわかに採用することができない。なるほど、1審原告は協調性を欠き、遠慮なく意見を言う人物と評価されていることが認められるが、1審被告会社は、その当時他に整理解雇の対象者がいるかどうかを検討したと認めるに足りる証拠はなく、上記人物評価から、1審原告を解雇対象者とすることが合理的であるとは直ちにいうことはできない。また、1審原告を整理解雇するについて、1審原告の納得を得るための相応な説明、協議等が実施されたことを認めるに足りる証拠はない。以上の認定判断を総合すると、本件解雇に客観的な合理性はなく、解雇権の濫用として解雇が効力を有しないことは明らかである。

3解雇無効の場合の法律関係について

本件解雇は無効であり、1審原告は就労の意思を継続して有していると認められるから、1審原告の1審被告会社に対する労働契約上の地位確認請求は理由がある。1審原告は就労の意思を継続して有しているものと認められ、1審被告会社が1審原告の就労受入れ表明をしたなどの事情を認めるに足りる証拠はないから、1審被告会社は、本件解雇の翌日である平成19年9月21日以降の賃金を支払うべき義務を追う。1審原告の未払賃金額は、平成19年10月以降は、月額40万円と算定するのが相当である。

1審原告は、平成19年10月31日に手術を受け、そのほかにも通院したことが認められるが、1審原告は雇用の日から6ヶ月間以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤しているところ、1審被告会社が1審原告の就労に応じていれば、有給休暇を取得するなどしてこれらの入通院を実行したものと推認されるから、これらの日の賃金を未払賃金から控除することは適当ではない。以上によれば、1審被告会社は、1審原告に対し、未払賃金として、平成19年10月以降毎月末日限り40万円及びこれに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになる。

本件解雇が1審被告会社又は被控訴人の代表者又は従業員による故意又は過失による不法行為に当たることを基礎付ける事実関係を認めるに足りる証拠はない。また本件解雇によって、1審原告に未払賃金の支払を受けてもなお慰謝されないような精神的損害が生じたことを認めるに足りる証拠もない。1審原告は、セクハラの濡れ衣を着せられたと主張するが、1審原告とKとの関係に若干の行き違いが生じ、これによりKが戸惑いを感じたことはあったが、この一連の経過を解雇の1事由として取り上げることそれ自体が違法行為に該当すると断ずるのは困難である。また本件は、1審原告と1審被告会社との間で解雇原因事実についての論争があったというにとどまり、精神的損害が発生したと断ずることも困難である。

4被控訴人U共済会に対する請求について(略)
適用法規・条文
民法709条、労働者派遣法5条、16条
収録文献(出典)
労働判例1019号5頁
その他特記事項
・法律民法、労働者派遣法

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