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業績不振等定年後再雇用者雇止事件

事件の分類
雇止め
事件名
業績不振等定年後再雇用者雇止事件
事件番号
京都地裁 − 平成21年(ワ)第4484号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社F
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年11月26日
判決決定区分
一部認容・一部却下
事件の概要
被告は、百貨店を主要取引先としてマネキンの貸出等を行う会社の子会社が平成19年3月にM社と統合して発足した会社であり、マネキンの製造、メンテナンス、内装展示のための陳列器具の商品管理及び物流業務等を業としており、原告は、M社で勤務してきたが、統合後は被告の西営業所において、商品管理業務、マネキンメンテナンス等の業務を担当していた。

原告は、平成20年6月3日の誕生日をもって60歳定年により被告を退職し、翌日付けで平成21年6月15日を期限として被告に再雇用されたが、その際、「契約期間満了の1ヶ月前までに契約書の更新について通知し、就業規則に定める条件を満たしているときは契約が更新される」と記載された再雇用通知書の外、業務量の減少等により契約の必要性がなくなったときや会社の経営の都合で人員削減の必要上やむを得ないときには契約を修了とする旨記載された条項が存在した。本件再雇用に関する労使協定では、継続雇用の上限年齢は64歳と定められていた。

被告は、平成21年2月2日付けで、労働組合の委員長である原告に対し、「未曾有の不況乗切り策についての協議申入書」を交付し、未曾有の経営危機を乗り切るため、徹底した経費削減、ベースアップの見送り等を行い、雇用の確保と賃金の見直しを行っていくので協力を求める旨申し入れた。その後組合と被告は団体交渉を行い、組合は、指名解雇と同等なAの雇止めを回避するため、希望退職の募集、賃金カット、委託業務の見直し、派遣社員やアルバイトの業務の見直し、一時帰休等を提案したが、被告はこれに同意せず、平成21年3月27日、原告に対し、同年6月15日をもって原告との雇用契約を修了する旨通知した。

これに対し原告は、協定に定める除外事由がない限り原告は64歳まで雇用されるもので、実質的には60歳定年後64歳までの有期雇用であるから、本件雇止めには解雇権の濫用の法理の適用があるところ、本件解雇は整理解雇の要件を満たしていないから解雇権の濫用として無効であるとして、従業員としての地位の確認と、判決確定まで及び判決確定後の賃金の支払を求めて本訴を提起した。
主文
1原告の請求のうち、被告に対し、本判決確定後の賃金支払を求める部分を却下する。

2原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3被告は、原告に対し、平成21年7月から本判決確定まで毎月末日限り18万4000円を支払え。

4訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

5この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1本件雇止めについて解雇権濫用の法理が適用又は類推適用されるか

高年齢者雇用安定法は、定年を65歳に引き上げ、その効力を事業主と労働者間に当然に及ぼすものではなく、各事業主に努力義務を課すものであること、被告が平成20年2月16日に制定した再雇用制度に関する就業規則41条では、従業員は60歳に達した後も、同条の定める継続雇用基準を満たす場合に、原則1年単位で再雇用され、上限年齢(原告の場合は4歳)に至るまでは反復更新が予定されていたこと、原告は平成20年6月3日に60歳になって定年を迎えたが、上記就業規則の定めに基づき、翌4日付けで平成21年6月15日までの間再雇用されたことに照らすと、原告と被告との間で締結された本件雇用契約が、64歳までの有期雇用であったと解することはできない。

被告は、本件再雇用契約書13条で会社の経営上の理由により契約更新が行われない場合を規定していることから、定年後の継続雇用に対する合理的期待が生じる余地はない旨主張する。しかし、就業規則41条のいう「労働条件等」とは、賃金や労働時間等雇用の継続を前提とした労働条件を意味するのであって、再雇用契約の更新に関わる条件を意味するわけではないと解されるから、上記契約書の規定は、就業規則に反し無効である(労働契約法12条)。

就業規則で、再雇用に関し、一定の基準を満たす者については「再雇用する」と明記され、期間は1年毎ではあるが同じ基準により反復更新するとされ、その後締結された本件協定でも就業規則の内容が踏襲されている。そして、現に原告は上記再雇用の基準を満たす者として再雇用されていたのであるから、64歳に達するまで雇用が継続されるとの合理的期待があったものということができる。そして、原告が60歳定年までの間、被告において期間の定めなく勤務してきたことを併せ考えると、本件再雇用契約の実質は期間の定めのない雇用契約に類似するものであって、このような雇用契約を使用者が有効に終了させるためには、解雇事由に該当することのほかに、それが解雇権の濫用に当たらないことが必要であると解される。したがって、本件雇止めには、解雇権濫用法理の類推適用があるとするのが相当である。

2本件雇止めが解雇権を濫用したものといえるか

被告は、原告の雇止めの理由として「業績不振のため」を挙げるところ、原告に対する雇止めが解雇権の濫用に当たらないか判断するに当たっては、本件雇止めが整理解雇の要件を満たすかどうかを検討する必要があり、整理解雇については、人員整理の必要があったか、解雇を回避する努力がなされたか、被解雇者の選定基準に合理性があるか、労働者や労働組合に対する説明・協議が誠実になされたかという点を総合的に考慮して判断するのが相当である。

まず、人員整理の必要性については、被告の売上高は、平成20年6月1日〜平成21年5月31日をその前年1年間と比較すると、約1億2000万円減少しており、昨今の百貨店各店の業績からすると、原告を雇止めした平成21年6月時点において、被告における今後の売上高の上昇が期待できる見込みに乏しく、人員を削減すべき必要性を認めることができる。しかしながら、解雇回避努力の点をみると、原告に対する本件雇止めより以前においては、平成20年12月に西営業所の契約社員Jの雇止め、平成21年2月に役員及び管理職の賃金カット、東営業所の派遣社員Nの派遣打切り、原告の雇止めと同時期の契約社員C、D、E、Fをアルバイト又は顧問待遇に変更する措置を実施しているものの、Jについては主として本人の資質で雇止めされたものであるし、平成21年4月には親会社に移籍予定とはいえ、新規に大学卒を採用している。そして、被告において一時帰休を実施したのは平成21年7月、希望退職を募集したのは同年12月であって、こうした経緯からすると、被告において、本件雇止め以前にそれを回避すべく努力義務を尽くしたということはできない。また、選定基準の合理性についても、原告以外の再雇用労働者5人C、D、E、F、Gは身分がアルバイト等に変更になった者もいるが、再雇用が継続されているのに、原告のみが雇止めになった理由について、被告において説明しているが、必ずしも説得力ある理由とはいい難い。以上の検討からすると、本件雇止めについて、整理解雇の要件を満たしていると認めることはできず、被告の業績不振を理由とする本件雇止めは、解雇権の濫用に当たり無効である。

なお、契約上の地位の確認の請求と同時に将来の賃金請求をする場合には、地位を確認する確定判決後も、被告が原告の労務の提供を拒否してその賃金請求権を争うことが予想されるなどの特段の事情が認められない限り、賃金請求中、判決確定後にかかる部分については、予め請求する必要がないと解するのが相当であり、本判決確定後の賃金請求は不適当である。
適用法規・条文
労働契約法12条、高年齢者雇用安定法9条
収録文献(出典)
労働経済判例速報2093号31頁

・法律労働契約法、高年齢者雇用安定法

・キーワード雇止め・更新拒絶
その他特記事項