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K社人事考課事件(パワハラ)

事件の分類
職場でのいじめ・嫌がらせ
事件名
K社人事考課事件(パワハラ)
事件番号
大阪地裁 − 平成7年(ワ)第4419号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年04月25日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
被告は、各種ベアリング・ステアリング等の製造販売を営む会社であり、原告は昭和45年8月、被告に工員として入社した者である。

被告は、昭和56年から段階的に職能資格等級制度を導入し、昭和57年10月1日付けで原告ら一般職従業員にも適用するようになった。被告は同日付けで7〜10級の等級格付を実施したが、この格付に当たっては、学歴別に資格等級基準線を作り、これに人事考課を加味して決定していた。原告の学歴は昭和29年3月の高校卒業であったため、基準上、昭和49年以前に高校を卒業した者のグループに属し、7〜9級のいずれかに人事考課によって決められることになった。人事考課はA〜Eの5段階評価で、Cが標準の8級で、D(標準よりやや劣る)とE(劣る)は9級に格付されることとされ、原告はDと評価されたため、9級に格付けされた。

平成2年4月に原告は8級に進級したが、平成4年4月以降、原告は不良品を出すことがあり、知識・技能が未熟であり、課長、職長らの指導に対し理解を示そうとせず、同僚とのコミュニケーションを図ることもなく、積極性や責任感も乏しい状態であった。原告は課の親睦会にも1人だけ入らず、人間関係の円滑さに欠け、頑固で独りよがりの風変わりの者と見られていた。7級への進級は、ほぼ過去2年分の評価が、中位の3.0を少し超えていることが必要とされるのが通常であるところ、原告は平成5年3月から平成6年4月までの期間の人事考課では、一次考課では項目毎に、2.0から2.75、二次考課では2.75と評価され、標準ではあるが、進級の検討対象にはならなかった。

原告は平成7年2月末に定年退職したが、勤務態度、技能とも優秀であったにもかかわらず9級Dに位置付けられたこと、これに対し入社時期及び年齢が原告に近いKは8級であり、アルコール中毒で労働能率が悪いYですら8級であったこと、原告は8級に止まったが、Kは7級に進級したことなど、被告は誤った人事考課によって原告の進級をさせなかった外、退職に当たってもこれを是正することなく退職金を算定したなどとして、賃金差額相当損害金98万9940円、退職金差額相当損害金109万3000円、慰謝料100万円を請求した。
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
判決要旨
職能資格等級制度は、年功序列制度と異なり、人事考課によって、同等の勤続年数の従業員間に級の差が出ることを当然に予定していること、原告は被告在勤中、組合活動等被告から嫌悪されるような行動をとったことはなく、被告には原告に対し、殊更不利な人事考課をすべき動機が見当たらないこと、統計的にみると、原告は中途入社したことから退職までの勤続年数が24年6ヶ月であって、他の退職者の平均勤続年数より約9年短く、原告より勤続年数の長い従業員が多数原告と同じ級に格付けされており、原告の格付が特に低いとは認められないこと、平成4年4月以降については、原告は不良品を出すなど作業能率が高かったとはいえず、協調性、積極性等に問題があり、職能資格等級制度導入時については、原告の人事考課資料が提出されていないものの、平成4年4月以降と同様であったと考えられることに照らすと、被告の原告に対する人事考課に、裁量権の逸脱・濫用があったとは認められない。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例729号40頁
その他特記事項
大阪地裁 平成7年(ワ)4419号:20110801606