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K社人事考課控訴事件(パワハラ)

事件の分類
職場でのいじめ・嫌がらせ
事件名
K社人事考課控訴事件(パワハラ)
事件番号
大阪高裁 − 平成9年(ネ)第1276号
当事者
控訴人 個人1名
被控訴人 株式会社
業種
製造業
判決・決定
判決
判決決定年月日
1997年11月25日
判決決定区分
棄却(確定)
事件の概要
各種ベアリング・ステアリング等の製造販売を営む被控訴人(第1審被告)は、昭和57年10月1日付けで一般職従業員にも職能資格等級制度を適用した。被控訴人は同日付けでの格付に当たっては、学歴別に資格等級基準線を作り、これに人事考課を加味して決定していた。昭和45年8月に工員として被控訴人に入社した控訴人(第1審原告)の学歴は昭和29年3月の高校卒業であったため、7〜9級のいずれかに人事考課によって決められることになった。人事考課はA〜Eの5段階評価で、Cが標準の8級で、D(標準よりやや劣る)とE(劣る)は9級に格付され、控訴人はDと評価されたため、9級に格付けされた。平成2年4月に控訴人は8級に進級したが、知識・技能が未熟であり、積極性や責任感も乏しく、協調性にも欠けると見られていた。

控訴人は平成5年3月から平成6年4月までの期間の人事考課では、一次考課で項目毎に、2.0から2.75、二次考課で2.75と評価され、進級の検討対象にはならなかった。控訴人は平成7年2月末に定年退職したが、入社時期及び年齢が原告に近い同僚と比べて不当に低い評価を受けたとして、被控訴人に対し、賃金差額相当損害金98万9940円、退職金差額相当損害金109万3000円、慰謝料100万円を請求した。

第1審では、被控訴人の人事考課に裁量権の逸脱は見られないとして、控訴人の請求を斥けたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。
主文
本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。
判決要旨
人事考課は、労働者の保有する労働能力、実際の業務の成績その他の多種の要素を総合判断するもので、その評価も一義的に定量判断が可能なわけではないため、裁量が大きく働くものであり、個々の労働者についてこれを的確に立証するのは著しく困難な面があることはいうまでもない。更に本件において控訴人の主張する人事考課の違法は、昭和57年10月1日の一般職員への職能資格等級導入時点に遡り、平成7年の退職時までの長期間にわたるもので、人事考課の性質からいって、個々の人事考課がなされた根拠を後日明らかにするのはかなりの困難を伴うものであるし、他方、当時自分は成績優秀であったと労働者が述べても、それ自体の証拠価値は極めて乏しいといわざるを得ない場合が多いのであって、人事考課の適否を巡る立証には難しい点があることは否定できない。しかし、いずれにしても、人事考課をするに当たり、評価の前提となった事実について誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、重要視すべき事項を殊更に無視し、それほど重要でもない事項を強調するとか等により、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当性を欠くと認められない限り、これを違法とすることはできないというべきであるが、本件においてはこれらの事情が存在したと認めることはできない。
適用法規・条文
労働判例729号39頁
収録文献(出典)
その他特記事項
大阪地裁 平成7年(ワ)4419号:20110801606