判例データベース
B学園ほか昇給停止等事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- B学園ほか昇給停止等事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 − 平成17年(ワ)第5310号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 学校法人 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2006年01月25日
- 判決決定区分
- 棄却(確定)
- 事件の概要
- 被告学園は、私立学校及び私立専修学校の設置を目的とする学校法人、被告組合は厚生大臣の認可を受けて設立された健康保険組合であり、原告は昭和46年4月、被告学園との間で期間の定めのない雇用契約を締結した者である。原告は平成元年7月から同15年3月までの間、被告学園に在籍したまま被告組合に出向し、被告学園に復帰後、平成16年11月30日に退職した。
被告学園の人事考課の評価は5段階で、抜群に良い(5)、優れている(4)、普通(3)、劣っている(2)、非常に劣る(1)となっており、一般的な評価は2から4で行うこととされていた。被告組合に出向した後の原告は、周囲とのトラブルなどが多く、その評価は年々低下し、殊に平成6年度以降は大半の項目について「1」がつけられるようになり、平成7年度には第2次評価者から全項目につき「1」をつけられるまでになった。被告学園は、原告が全く仕事をしていないとの報告を受けて、平成9年3月原告に退職勧奨をし、交渉したが、金額で折り合わず物別れに終わった。しかし、平成10年7月からは原告は見違える様な仕事振りとなり、その評価も「3」、「4」と大幅に改善したことから、平成12年4月には昇給するとともに、被告組合の事務長に任命された。しかし、その後職員との関係が悪化したことなどから、再び評価が低下し、多くの項目で「1」、「2」の評価を受けるようになった。被告学園は、原告の勤務態度不良を理由として平成8年4月1日から昇給を停止したところ、原告は苦情処理委員会に対し苦情を申し立てたが、同委員会は昇給停止は当然の措置であるとして、原告の申立を却下した。
原告は、被告らは平成8年から同15年までの間、違法な嫌がらせを継続して行ったとして、被告らに対し、昇給停止による損害304万4661円、退職金93万3300円、時効にかかった年休の金銭換算分310万5625円、慰謝料1年につき150万円として合計1200万円、弁護士費用190万8358円を請求した。 - 主文
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1本件昇給停止の適法性の存否について
被告学園の職員の給与は、自動的に昇給するのではなく、1年間の仕事ぶりを見て、「就業に対し不真面目な場合、若しくは出勤状況が良好と認められない場合」には、被告学園は職員の給与について昇格を停止することができると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、1)原告は平成7年4月1日から1年間、毎月1週間程度の仕事量しかないレセプト業務しかしていなかったこと、2)原告は副部長に対し、仕事は楽な方がいいと言って仕事に積極的姿勢を示さなかったこと、3)理事長は原告が仕事に精励していた平成10年4月1日から2年間の人事考課は高い評価をしていることに照らすと、同7年4月1日から1年間の評価も公平に評価していると見得ること、4)原告自身自己の評価が低くてもやむを得ないと受け取れる発言をしていること、5)被告学園の苦情処理委員会には労働組合の委員が半分を占めていたのに全員が原告の昇給停止措置に賛成したことが認められる。これらの事実に照らすと、原告の平成7年4月1日から1年間の仕事振りは、「出勤状況が良好と認められない場合」に当たるということができ、そうだとすると、被告学園の原告に対する平成8年4月1日の昇給停止は、人事考課、成績査定の権限を濫用・逸脱しているとは到底いえず、被告学園の昇給停止は相当というべきである。
1)原告は平成8年7月頃以降、レセプト業務がDの担当となったことから、被告組合の仕事をすることのない毎日を送っていたこと、2)平成8年4月1日から1年間の原告の人事考課については、理事長及び副部長とも殆どの考課要素について「1」をつけていたこと、3)理事長、副部長は平成10年4月1日から2年間の人事考課は高い評価をしていることに照らすと、同8年4月1日から1年間の評価も公平に評価していると見得ること、4)被告学園の原告に対する平成8年4月1日の昇給停止は相当であることがそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、原告の平成8年4月1日から1年間の仕事ぶりは、「勤務状況が良好と認められない場合」に当たるということができ、そうだとすると、被告学園の原告に対する平成9年4月1日の昇給停止は、人事考課、成績評定の権限を濫用・逸脱しているとは到底いえず、昇給停止は相当というべきである。
1)原告は平成9年4月1日から1年間、被告組合の仕事をすることなく毎日を過ごしていたこと、2)平成9年4月1日から1年間の原告の人事考課については、理事長、副部長は人事評価を空白のまま被告学園に提出したころ、3)理事長、副部長は平成10年4月1日から2年間の人事考課は高い評価をしていることに照らすと、平成9年4月1日から1年間の評価も公平に評価していると見得ること、4)被告学園の人事委員会は、原告の1)の勤務態度を考慮して平成10年4月1日の昇給を停止したこと、5)被告学園の原告に対する平成8年4月1日、同9年4月1日の各昇給停止は相当であることが認められる。これらの事実に照らすと、原告の平成9年4月1日から1年間の勤務振りは、「出勤状況が良好と認められない場合」に当たるということができ、そうだとすると、被告学園の原告に対する平成10年4月1日の昇給停止は、人事考課、成績査定の権限を濫用・逸脱しているとは到底いえず、被告学園の昇給停止は相当というべきである。
2嫌がらせ等違法行為の存否について
1)被告学園の苦情処理委員会は、職員からの苦情処理に当たって、苦情を申し立てた本人から直接事情聴取をするか否かは委員会の裁量であって、必ず調べなければならないとの規定は存在しないこと、2)当該委員会は、原告の本件苦情については、原告から直接事情を聴かなくても判断できるとして、原告から事情を聴取していないことが認められ、この措置が原告に対する嫌がらせであり、違法であるとの原告の主張は理由がない。
原告は、副部長が、1)原告の業務を全て取り上げたこと、2)毎日のように「君の仕事はない」、「君は毎日職場に来てどうするつもりだ」等と言い続けたこと、3)原告を懇談会や勉強会に参加させなかったことをもって、原告に対する嫌がらせであると主張する。しかし。1)については、副部長がシステム化に伴い原告のレセプト業務をDに担当させるようになったことにはそれなりの理由があったというべきであり、その後の原告の対応を考慮すると、被告組合において、原告に事務を担当させなかったことを違法とまで評価することは困難である。また2)については、原告の主張を証明する証拠はない、更に3)については、当時原告は被告組合の仕事に従事していなかったのであるから、仕事に関連する懇談会や勉強会への原告の出席を認めなかったとしても、この措置が違法であるまでいうことは困難である。
被告学園は、平成8年7月頃から、原告に対し退職勧奨をし、副部長は平成9年3月19日、原告に対し退職勧奨をしたところ、原告は金額によっては退職しても良いとの意向を示したが金額面で折り合わなかった。以上によれば、被告学園としては被告組合で余剰状態になっている原告に対し、退職勧奨をすることは法人として許された行為であり、しかも交渉内容は主として退職金額を巡るものであって違法な内容とは言えない。
被告学園の新校舎が平成10年4月完成し、被告組合の事務所もここに移転したところ、原告の席の前にパーテーションがあったが、これは他の職員と席を離した方が円滑にいくと考えたからであり、原告に対する配慮がいささか欠けていた面がないではないにしても、当時原告は仕事に従事していなかったこと、Cらとの関係が険悪であったこと、当時の位置関係は3ヶ月で解消されたことに照らすと、原告の席の位置について、損害賠償義務が発生するまで違法であったとまで評価することはできない。
原告は平成12年頃、被告組合が毎年組合員に配付している家庭常備薬について、副部長に対し納入業者を変更するよう提案したが、同人がこれを拒否したことが嫌がらせであると主張するが、これは、これまでの納入業者で良いとする副部長と、新たな業者に変更すべきであるとする原告との間で考えの相違があったことが認められるが、副部長の考えにももっともな理由があり、副部長、本部長が原告の提案を受け入れないことをもって、原告に対する違法行為、あるいは嫌がらせということはできない。
原告は、被告組合への出向期間中、一時期を除いて職員と争いを繰り返し、協調して業務を遂行することができなかった。そこで被告学園は平成15年4月1日に被告学園に異動させたところ、原告はこれが課長職の解任であって、原告に対する嫌がらせであると主張するが、この異動命令は被告学園の人事権の裁量の範囲内であり、給与等の減額はなかったから、何ら違法性はない。以上によれば、原告は被告らから、平成8年度から同16年度までの間種々の違法な嫌がらせを受けたとの主張はいずれも理由がない。 - 適用法規・条文
- 収録文献(出典)
- 労働判例911号24頁
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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