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H書店賞与切下事件(パワハラ)

事件の分類
職場でのいじめ・嫌がらせ
事件名
H書店賞与切下事件(パワハラ)
事件番号
東京地裁 − 平成17年(ワ)第5666号
当事者
原告 個人3名A、B、C
被告 株式会社
業種
卸売・小売業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年04月28日
判決決定区分
棄却(控訴)
事件の概要
被告は、自然科学部門の大学用教科書の出版などを目的とする会社であり、原告Aは昭和52年4月、原告Bは昭和46年4月、原告Cは昭和49年4月に、それぞれ被告に入社し、原告A及び原告Cは営業部に、原告Bは経理部に所属していた。

被告と原告らが所属する労働組合は、平成16年9月21日、同年の夏季賞与の支給につき、支給額につき±20万円の範囲内で業務の貢献度を勘案して会社が決定する旨の協定を締結した。被告はこの協定に基づき、同月29日に、原告らを含む社員に対し同年の夏季賞与を支給したが、原告Aついては病気での不就業回数24回・不就業時間87時間を理由にマイナス10万円、原告Bについては病気での不就業回数9回・不就業時間27時間27分を理由にマイナス3万円とし、原告Cについては業務上のミスを理由としてマイナス5万円との査定をし、減額した賞与を支給した。

原告らは、1)本件の賞与は、社員の賃金の一部を構成するものであり、その支給に際して使用者は恣意的な差別をしてはならず、本件減額支給は査定における客観性原則及び比例原則を無視した合理性のない恣意的な措置であること、2)組合と被告は、昭和57年4月6日の協定(昭和57年協定)において、私傷疾病に伴う遅刻、早退、通院時間、欠勤については完全有給とする旨合意しているところ、原告らに対する賞与の減額は昭和57年協定に違反するもので権利の濫用に該当し無効であることを主張し、原告Cに対する業務上のミスを理由とする賞与の減額措置も、軽微なミスを理由とするもので、査定権限の濫用であることなどを理由として賞与の減額の無効を主張した。
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。

2訴訟費用は原告らの負担とする。
判決要旨
1原告A及び同Bの本件賞与査定について

組合と被告との間では平成11年協定によって同年度の賞与から、それまでにはなかった会社査定という賞与の計算方法が導入され、これにより±20万円の範囲で賞与を支給される本人の会社業務への貢献度等を勘案して、各人毎に会社が決定することになっている。そして、それ以外の基礎賞与部分については、「本人就労日数の計算においては…、私傷病、…不就労時間に関して、就労したものと見なして計算する。」とあることから、従前の組合との協定を遵守しているものと考えられる。

原告らは、平成11年協定から導入された会社査定において私傷病による遅刻、早退、欠勤を減額査定することも昭和57年協定に違反すると主張するが、同協定において被告を拘束するのは会社査定が導入される前の賞与計算方法において出勤率に私傷病によるものを含めないという限度であり、その後に新たに導入された会社査定までも拘束することを予定したものとは解されない。また、原告らは、会社査定で私傷病によるものが減額査定されると実質的に昭和57年協定の合意内容を反故にするに等しいと主張するが、会社査定部分以外の基礎賞与部分では依然として私傷病によるものでも減額査定がされないようになっていること、本件協定の基礎賞与部分の基準金額が30万円と会社査定部分の金額よりも大きいことからすると、そうとまではいえない。結局のところ、会社査定で私傷病によるものを減額査定の対象とすることについては、昭和57年協定の想定外のものといわざるを得ない。

被告から、平成11年夏季賞与について、会社査定の部分は±20万円の範囲で、本人の会社業務への貢献度を勘案して各人毎に会社が決定する旨組合に回答し、組合は管理強化の意図が見え見えでその思惑をはね返す旨機関誌でコメントしており、夏季一時金について人事考課なる名目で±20万円の大幅査定の回答を行ったことについて納得しない旨表明しつつも、大局的見地に立つとして、平成11年協定を締結するに至っている。このような事実経過に前記認定事実、その後各期の賞与に関する組合と被告との協定においても上記会社査定は合意されていること、本件協定もその延長上にあることをも考え合わせると、最終的には平成11年協定において会社査定が導入されたことに組合は不満を表明しつつも平成11年夏の賞与が計算されることに同意しており、昭和57年協定における私傷病によるものを賞与計算における出勤率の減額対象としない旨の約束が拘束力を持つとは考えられないこと、基礎賞与部分の出勤率の計算とは別に会社査定部分において勤怠状況について私傷病によるものを当該査定期間中の会社の貢献度の一つとして考慮することもあながち不当とはいえないことからすると、原告らの勤怠状況を被告が会社査定において考慮して、原告Aについてマイナス10万円、原告Bについてマイナス3万円としたことには一定の合理性があり、金額的に見ても会社の人事考課における裁量の範囲を特に逸脱したものとは考えられず権利濫用とみることは難しいと言わざるを得ない。

2原告Cの本件査定について

原告Cは本件賞与査定期間中に6件のデータ入力ミスないしチェックミスをしており、これにより請求書発行に当たって、請求先の納品伝票と取次明細を照合チェックしたりするなどの対応が必要になった事情が認められる。そして、原告Cによる上記業務処理状況から被告が本件賞与の会社査定部分においてマイナス5万円と査定したことも基本的には会社の人事考課における裁量の範囲内のものと考えることができる。
適用法規・条文
収録文献(出典)
労働判例917号30頁
その他特記事項