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東京都建設局採用内定取消事件
- 事件の分類
- 採用内定取消
- 事件名
- 東京都建設局採用内定取消事件
- 事件番号
- 東京地裁 - 昭和46年(行ウ)第156号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 東京都、東京都知事 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1974年10月30日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和45年8月、東京都職員(短大卒程度)試験を受験し、これに合格して採用候補者名簿に登載され、同年12月中旬、配属先希望調査票を提出した。原告は昭和46年1月28日、東京都建設局総務部長名の採用内定通知書を受領したが、それには「面接及び身体検査の結果、あなたを昭和46年4月1日付で建設局に採用することに内定したのでお知らせします。なお、4月1日の出勤については、3月20日頃に再度連絡します」と記されていた。
東京都は都労連との協議の上、初任研修制度の改正を行ったところ、都職労の一部は、本研修制度は、1)人事管理の手段として行われること、2)能率一点張りの悪い生産性第一主義を導入しようとする手段としてのものであること、3)研修考課は必然的に勤務評定となること、4)思想統制であること等を理由として、研修反対運動を展開した。
昭和46年3月16日、本件研修に反対する者らは、ヘルメットを着用し30名程度で研修所入口に座り込み、午前8時30分頃には正面入口は封鎖状態となった。そのため研修所当局は座り込みを止めるよう書面とハンドスピーカーで要請したが、反対者らはこれに従う様子を見せなかったため、研修所長は第1回目の退去命令を出した。同所長は、3回目の退去命令も無視されたため、このままでは当日の研修の実施が不可能になると判断し、午前9時10分警察に対し反対者らの排除を要請した。警察署は、2回に亘り妨害行為に及んでいる者達に対し退去するよう警告し、約20名は退去したが、残りの者らはこれに従わず、正面入口前でスクラムを組むなど研修所への入構を阻止する行動に及んでいたため、警察署は午前9時15分、これらの者達の排除行動に移った。この時原告は、玄関前に座り込む等していた者達に向かって、携帯メガホンを使用して盛んにアジ演説をしたり、研修所当局の退去命令に対し、がなるなどしていたことから、リーダーと目されて警察に逮捕され、同月27日まで拘留された。
都知事は、原告が他の同調者と共に職場の研修を妨害し、しかも警察に逮捕されたことから、職員として採用するについてはその適格性に欠けると判断し、同月27日付けで原告の採用内定を取り消した。これに対し原告は、原告と東京都との間には労働契約が成立しており、本件内定取消は新たな処分であるところ、原告の行動に違法性はなく、本件逮捕は不当逮捕であるとして、内定取消の無効確認を請求した。 - 主文
- 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 1本件採用内定の法的性格
任命権者たる都知事が昭和46年1月27日付採用内定通知を発出し、翌28日原告に到達したことにより、同月27日をもって、その効力発生の始期を同年4月1日とする採用行為がなされたものと解すべきである。都知事は、採用内定通知は任命行為をするまでの準備行為にすぎず、辞令の交付がない以上は、未だ任命行為は存在しない旨主張する。しかし、地方公務員の任命手続きについては明文の規定はなく、その意思表示のみによって任命の効力が生ずると解するのが相当である。そして、前記内定通知書には、「昭和46年4月1日付で建設局に採用することが内定いたしました」旨記載され、採用に当たっては保証書と卒業証明書が必要であるから郵便等により提出すべき旨記載されている以外は何ら留保もないのであるから、これをもって原告が昭和46年4月1日付で東京都職員たる地位を取得するという法律効果に向けられた確定的な意思表示と見て差し支えない。
2本件採用内定取消の法的性格
本件採用内定取消は、始期付採用という行政処分を始期の到来前に撤回するのであるから、それ自体新たな行政処分と解すべきである。本件採用内定は、昭和46年4月1日を効力発生の始期とする採用行為であって、採用内定者である原告は右始期までは東京都の職員たる身分を取得するものではないから、地公法27条ないし29条の適用を受ける者ではない。しかしながら原告は、右始期到来前においても、昭和46年4月1日には東京都の職員としての身分を取得すべき期待的地位を有していたのであるから、都知事は、前記採用内定通知書に記載されている保証書又は卒業証明書の提出がなかった場合に限らず、全く自由に採用内定の取消しをなし得ると解すべきではない。原告は条件付採用職員となるべき期待的地位を有するにすぎないことを勘案すれば、都知事は採用内定取消について、条件付採用職員を正式採用する場合よりもさらに広い裁量権を有するものとはいえるが、右裁量権の範囲は無制限ではなく、原告の右期待的地位を剥奪することを正当とするだけの公益上の必要性がなければならないと解するのが相当である。
本件についてこれを検討するに、原告は、他の者と共謀の上、研修妨害行動につき積極的役割を果たしたことが推認され、都知事は、原告が自ら都職員として採用されることを希望し、採用内定になっているにもかかわらず、いずれは自らもその一員となるであろう職場の研修を妨害するという行動に出で、しかも研修開始時刻を約15分間に亘り遅延させ、遂に導入された警察官に不退去罪、威力業務妨害罪の現行犯として逮捕されたことから、原告を東京都の職員として採用するについては、その適格性に欠けるところがあると判断し、本件処分に及んだことが認められる。原告は、研修制度にこそ不都合な点があり、むしろ原告の行動は正当であるかの如く主張するが、右制度は、東京都において長期間検討を重ねてきたものであり、またその実施については都職員労組等とも協議を重ね合意に達していたものであって、その妨害行為に出たことは、いかなる意味においても許されないと断ずるほかない。また原告は、不当逮捕であった旨主張するが、右逮捕が不当であったということはできない。
以上述べてきたところからすれば、都知事において原告が東京都の公務員としての適格性に欠けると判断したことには首肯し得るものがあり、少なくとも原告に東京都の公務員としての適格性を疑うに足りる相当な理由があるというべきであって、原告が条件付採用職員となるべき期待的地位を有するにすぎないことを併せ考えると、本件処分については、原告の右期待的地位を剥奪するのを正当とするだけの公益上の必要性があると解するのを相当とする。
4原告の主張に対する判断
原告は、本件処分は憲法14条、21条に違反する旨主張するが、都知事が原告の逮捕を口実に任用制度反対運動抑圧のため一罰百戒を狙って政治的に本件処分をなしたとか、あるいは原告の信条を理由として差別的に本件処分をなしたとかの事実を認めるに足りる証拠はないから、この点に関する原告の主張は採用しない。
原告は、本件処分は公正な手続きを全く無視してなされた旨主張するが、条件付採用職員について地公法49条の適用が排除されていることからみれば、原告のように条件付採用職員となるべき期待的地位を有するにすぎない者については同条の準用も考えられない。もっとも、地公法27条1項の精神は本件処分に当たっても尊重されなければならないであろうが、前記事実関係のもとにあっては、都知事が本件処分をなすに際し、原告からその処分事由についての弁明を聞かなかったからといってそれが公正な措置でなかったということはできない。 - 適用法規・条文
- 地方公務員法27条1項、49条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁-昭和46年(行ウ)第156号 | 棄却(控訴) | 1974年10月30日 |
東京高裁 - 昭和49年(行コ)第73号 | 要求一部却下・一部棄却 | 1976年09月30日 |
最高裁 - 昭和51年(行ソ)第114号 | 上告棄却 | 1982年05月27日 |