判例データベース
東京都建設局採用内定取消控訴事件
- 事件の分類
- 採用内定取消
- 事件名
- 東京都建設局採用内定取消控訴事件
- 事件番号
- 東京高裁 - 昭和49年(行コ)第73号
- 当事者
- 控訴人 個人1名
被控訴人 東京都 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1976年09月30日
- 判決決定区分
- 要求一部却下・一部棄却
- 事件の概要
- 控訴人(第1審原告)は、昭和45年8月、東京都職員(短大卒程度)試験を受験してこれに合格し、昭和46年1月28日、東京都建設局総務部長名の採用内定通知書を受領した。被控訴人(第1審被告)東京都は初任研修制度の改正を行ったところ、都職労の一部から、勤務評定につながるなどと反対を受けた。
昭和46年3月16日、本件研修に反対する者らは、30名程度で研修所入口に座り込み、要請を受けた警察署は、妨害行為に及んでいる者達に対し退去するよう警告したが、一部の者は、警告を無視して研修所への入構を阻止する行動に及んでいたため、警察署はこれらの者達の排除行動に移った。この時原告は、携帯メガホンを使用して盛んにアジ演説などをしていたことから警察に逮捕され、同月27日まで拘留された。
被控訴人都知事は、控訴人が他の同調者と共に職場の研修を妨害し、しかも警察に逮捕されたことから、職員の適格性に欠けると判断し、同月27日付で控訴人の採用内定を取り消した。これに対し控訴人は、本件労働契約は成立しており、本件内定取消は新たな処分であるところ、控訴人の行動に違法性はなく、本件逮捕は不当逮捕であるとして、内定取消の無効の確認を請求した。
第1審では、本件内定取消は新たな処分であるとしたものの、控訴人の行動は東京都職員として適格牲を疑うに足りる相当の理由があるとして、本件採用内定取消を相当と認めたことから、控訴人はこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1(一)原判決中、控訴人と被控訴人東京都知事に関する部分を取り消す。
(二)控訴人の被控訴人東京都知事に対する訴を却下する。
2控訴人の被控訴人東京都に対する控訴を棄却する。
3控訴人と被控訴人東京都知事との間で生じた第1、2審の訴訟費用及び控訴人と被控訴人東京都との間で生じた控訴費用は、いずれも控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1控訴人の被控訴人東京都知事に対する採用内定取消処分の取消を求める請求について
本件採用内定の取消が行政事件訴訟法3条2項の定める抗告訴訟(取消訴訟)の対象である行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するか否かについて検討する。
地方公共団体の職員の任用行為については、法律上は任用権者の意思表示が相手に到達すれば足り、必ずしも辞令の交付などの行為を要するものではないが、その意思表示は明確になされなければならないと解されるところ、採用内定通知書の「面接及び身体検査の結果あなたを昭和46年4月1日付で建設局に採用することに内定しましたのでお知らせします。」との記載内容については、右「内定」の文言自体行政庁の内部手続きの段階に留まるものであることを示しているのであって、地方公務員として採用する旨の意思表示と解することができないのみならず、東京都では職員を採用する場合、内規によって辞令を交付することにより発令することとされており、本件においても昭和46年4月1日控訴人を含む採用内定者に直接辞令を交付することによって発令することが予定されていたこと及び採用予定者を内定し、これを通知することは何ら法令上の根拠に基づくものではなく、その趣旨とするところは、採用予定者が内定した段階以後においても書類の提出や採用予定者の身元調査などの諸手続きが必要であるのみならず、採用予定者の中には東京都に就職することを辞退する者もあるので、東京都としてもできるだけ早期に採用予定者の就職の意思を確認しないと発令手続きに支障を来すなどの理由から、予め採用予定者を内定してこれを相手方に通知し、事務処理上の便宜を図っているものであること、おおよそ以上のとおりと認められる。しかして、本件採用内定通知は、東京都と控訴人との間で、控訴人を東京都職員として採用することを目的とした意思表示ではなく、発令手続きの準備手続きとしての行為に過ぎないものであって、右通知により東京都としては信義則上特段の事由がなければ内定どおり採用の発令をなすべきものであり、正当な理由がなくみだりに内定を取り消したときは、内定通知を信頼し、他の就職の機会を放棄するなど、東京都に就職するための準備を行った者に対し、損害賠償の責任を負うべきことがあることは格別、本件採用内定通知によって控訴人が東京都の職員たる地位を取得するものとは到底解することができない。
以上のとおり、本件採用内定通知により、控訴人につき東京都職員としての地位が設定されるものではないと解される以上、採用内定取消も控訴人の法律上の地位に何らの変更を来すものではないから、採用内定の取消をもって行政庁の処分ということはできない。また、不当に採用内定の取消がなされた場合には、相手方に損害賠償請求権が認められることがあり得るとしても、右損害賠償請求権は内定の取消を待って初めて生ずるものではないから、控訴人に採用内定取消を求める法律上の利益を肯定することもできない。
以上の次第で、採用内定の取消は、行政事件訴訟法3条2項の規定する抗告訴訟の対象にはならないと解するのが相当であるから、控訴人の東京都知事に対する採用内定取消処分の取消を求める訴えは不適法であって、却下されるべきものである。
2控訴人の被控訴人東京都に対する職員たる地位の確認を求める請求について
控訴人の請求が行政事件訴訟法4条の定める公法上の法律関係に関する訴訟に該当することは疑いがなく、被控訴人東京都が控訴人の東京都建設局職員たる地位を争っていることは明らかである以上、控訴人の東京都知事に対する採用内定取消処分の取消を求める訴が不適法であるとしても、控訴人の右東京都職員たる地位の確認を求める訴の利益はこれを否定することができない。しかしながら、控訴人に対する本件採用内定の通知は、単に採用の発令の準備行為であって、これにより控訴人が東京都建設局職員たる地位を取得するものではないから、控訴人の右請求は失当であって棄却すべきものである。
3控訴人の被控訴人東京都知事に対する職員として採用することを求める請求について
地方公務員の採用は、相手方に地方公務員たる地位を取得させ、地方公共団体との間で特別権力関係を設定する行政処分であると解せられるところ、地方公務員として採用を希望する者が競争試験に合格し、採用資格を取得しても、最終的にその者を採用するか否かを決定することは任用権者の裁量に委ねられているものであり、この理は行政庁において採用を内定し、その旨を相手方に通知した場合においても異なることはないと解すべきである。従って、控訴人の東京都知事に対する東京都建設局職員として採用を求める訴は、任用行為という東京都知事の裁量権の範囲に属する行政処分をなすべきことを請求する訴として、不適法たるを免れず却下すべきものである。 - 適用法規・条文
- 地方公務員法27条1項、49条、行政事件訴訟法3条2項、4条
- 収録文献(出典)
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 昭和46年(行ウ)第156号 | 棄却(控訴) | 1974年10月30日 |
東京高裁 - 昭和49年(行コ)第73号 | 要求一部却下・一部棄却 | 1976年09月30日 |
最高裁 - 昭和51年(行ソ)第114号 | 上告棄却 | 1982年05月27日 |