判例データベース
N市水道局採用内定取消事件
- 事件の分類
- 採用内定取消
- 事件名
- N市水道局採用内定取消事件
- 事件番号
- 名古屋地裁 - 昭和51年(ワ)第2756号
- 当事者
- 原告 個人1名
被告 名古屋市 - 業種
- 公務
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 1979年03月26日
- 判決決定区分
- 棄却(控訴)
- 事件の概要
- 原告は、昭和51年2月、被告水道局職員採用試験(本件採用試験)を受験したところ、同年3月18日、被告人事委員会より合格通知を受けた。被告水道局では、最終合格者13名の中から同年4月1日からの採用予定者として、高年齢順に原告を含む7名を選び、同年3月22日「水道局職員(計量職)の採用について」と題する書面により、同年4月1日から勤務が可能か否かを問い合わせたところ、原告は翌23日、被告水道局総務課に電話で就労する意思を伝えた。その際、人事係長から必要書類を取りに来るよう言われたため、同日中に人事係に出頭し、履歴書、身元保証書等の用紙を受け取った外、戸籍謄本、高校の卒業証明書及び成績証明書の提出を求められた。そこで、同月26日、原告は人事係に出頭して、身上申立書、誓約書等必要書類を提出したところ、同年4月1日午前8時50分に出頭するよう指示され、その時に辞令が交付されるとの見込みを告げられた。
一方、同年2月28日、被告市議会に被告市職員定数条例案が上程され、それによると水道局職員は27人増員される予定であったが、右改正案は修正され、13人の増員に止まった。そのため被告水道局では、前記7名の採用予定者の中から、学校時代の成績、転職回数、卒業後の経過年数等を審査した上、更に3名を抽出し、この3名に対しては予定通り辞令を交付したが、採用に漏れた原告を含むその余の採用試験合格者に対しては、同月29日付被告水道局長名で、昭和51年度の予算定数削減により、当初からの採用ができなくなったこと、試験合格の有効期間は合格の日から1年であることを内容とする通知を送付した。なお、右4月1日の採用に漏れた試験合格者の中から、同年6月1日に2名、7月1日に4名が採用されたが、原告は、高校3年生の時の欠席が多かったこと、前勤務先の出勤状況が良好でなかったことなどから、いずれの場合もその選に漏れた。
これに対し原告は、被告人事委員会が本件採用試験の合格通知を発信したこと、あるいは被告水道局が「水道局職員(計量職)の採用について」と題する書面を発したことにより労働契約が締結されたこと、仮にこの時点で労働契約が成立していないとしても、原告が身上申立書、誓約書等の書類を提出し、被告がこれを受領したことにより労働契約は成立したとして、被告職員としての地位の確認と賃金の支払いを求めるとともに、原告は、妻、娘を抱え、長男が出産間近であったところ、妻は原告の採用を前提に仕事を辞めたとして、その精神的苦痛に対する慰謝料100万円を請求した。 - 主文
- 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。 - 判決要旨
- 原告は、被告水道局職員の如き地方公営企業職員の身分関係は私法関係である旨主張するが、同職員は地方公営企業法上一般職の地方公務員とされ、その勤務関係の根幹をなす任用、分限、懲戒及び服務(発生・消滅、存続中の規律)については地方公務員法が適用されるのであるから、公法関係と解すべきである。しかして、地方公務員法は地方公共団体の職員の任用行為の形式について特に規定を設けていないが、地方公務員の任用行為は地方公務員たる地位の設定、変更を目的とする重要な法律行為であるから、辞令書の交付又はこれに準ずる任命権者(本件の場合は水道局長)による任用する旨の明確な意思表示の到達をもってその効力を生ずるものというべきである。
これを本件についてみるに、まず辞令書が交付された事実は認められない。そして、原告は本件採用試験に合格したことによって、合格した日から1年間有効の被告水道局職員の任用候補者たる資格を取得したにとどまり、右合格通知をもって被告の採用行為がなされたと解する余地はなく、また被告水道局では、当初本件採用試験合格者(13名)中原告を含む7名の者全員を昭和51年4月1日付で採用する予定であったことが窺われるが、同年3月22日、原告に対して発せられた「水道局職員の採用について」と題する書面はその記載内容に即して見れば、4月1日からの就労が可能かどうかを照会した連絡文書にすぎず、また被告水道局が誓約書や身上申立書等の書類を求め、同月26日にこれを受領した行為も法的には最終的な採用行為のための事実上の準備行為と解され、これら文書の送付ないし受領行為をもって原告を採用する旨の明確な意思表示がされたものとは未だ認め難い。
もっとも、既に昭和51年3月23日被告市議会において予算削減のための市職員の定数条例改正案が修正可決され、被告水道局の当初の増員予定も半減されることになり、その影響が計量職職員の増員予定にも波及するおそれがあることは容易に推測し得たにもかかわらず、被告水道局では同月29日に至って初めて右削減のための正式の会議を開いており、また同月26日に原告が誓約書等の書類を提出した際、人事係職員らは何ら右事情を告げて注意を促すことなく漫然とこれらの書類を受領し、かえって4月1日からの採用見込みを伝えるなど右人員削減という事態への同水道局の対応が遅れ、本件採用事務に不手際があったことは否定できないところである。しかし、原告を採用する旨の明確な意思表示に欠ける本件においては、採用事務の右のような不手際は前記判断に消長を及ぼすものとは言えない。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- 労働判例367号63頁
- その他特記事項
- 本件は控訴された。
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
名古屋地裁-昭和51年(ワ)第2756号 | 棄却(控訴) | 1979年03月26日 |
名古屋高裁 - 昭和54年(ネ)第205号 | 控訴棄却(上告) | 1980年05月01日 |
最高裁 - 昭和55年(オ)第827号 | 上告棄却 | 1981年06月04日 |