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登録型派遣労働者解雇事件(派遣)

事件の分類
解雇
事件名
登録型派遣労働者解雇事件(派遣)
事件番号
津地裁 - 平成21年(ワ)第465号
当事者
原告 個人1名
被告 株式会社
業種
サービス業
判決・決定
判決
判決決定年月日
2010年11月05日
判決決定区分
一部認容・一部棄却(確定)
事件の概要
原告は、平成19年12月3日、労働者派遣を業とする被告と派遣労働の雇用契約を締結し、平成20年3月29日付の更新を経て、同年9月30日、被告との間で、雇用期間を同年10月1日から平成21年3月31日までとする契約を締結した。

被告は、平成20年11月中旬頃、S社から人員過剰を理由に派遣契約解除の申し入れがあり、同年12月27日に同契約は解除されたほか、他の派遣先からも派遣契約を打ち切られることになり、新たな派遣先を見つけることができなかったことから、原告を含むS社に派遣されていた派遣社員17名に対し解雇すること、年休の消化や買取りを認め、失業給付を受給しやすいよう会社都合退職扱いの退職を勧めるなどした。その結果、原告を除く16名は合意退職をしたが、原告はS社と被告間の派遣契約が解除される同年12月27日をもって解雇された。

これに対し原告は、期間の定めある雇用契約において期間満了前に解雇するには民法628条の「やむを得ない事由」が必要であるところ、そのような事由は存在しないこと、被告の財務状況は優良であるから、整理解雇の要件を満たさない外、解雇回避努力をしていないことなどを挙げて、本件解雇の無効を主張し、賃金の支払を請求するとともに、精神的苦痛に対する慰謝料として300万円、弁護士費用30万円を請求した。
主文
1被告は、原告に対し、50万5370円及びうち50万2975円に対する平成21年4月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2原告のその余の請求を棄却する。

3訴訟費用は、これを8分し、その7を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

4この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
判決要旨
1労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」の存否

登録型派遣労働契約の場合であっても、事業者間の派遣契約と、派遣労働者と派遣元との間の労働契約は別個の契約であり、派遣労働者と派遣元との間の派遣労働契約も労働契約の一形態であるから、その労働条件は労働契約の内容によって定まることは明らかであり、解雇の場合も同様であるといえる。そうすると、登録型派遣労働契約であって、派遣契約が期間内に終了した場合であっても「やむを得ない事由」がある場合に限り、期間内も解雇が認められることは当然であり、派遣労働契約は労働法規によって規律されるものであること、労働者は憲法その他の法令に登録型派遣契約における契約終了事由について特段の定めがないこと、労働者の意思に基づかない労働契約の終了、すなわち解雇は、労働者に対して不利益をもたらすものであることに照らせば、登録型派遣契約の解雇についても、一般の労働者の場合と何ら異なるものではなく、当該労働者に関する派遣契約の終了が当然に派遣労働契約の終了事由になると解するべきではない。

2解雇権濫用法理の適否及び解雇権の濫用の当否

期間内の解雇は、「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項、民法628条)のある場合に限って許されるところ、それは、期間の定めのない労働契約の解雇が権利の濫用として無効となる要件である「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)よりも厳格に解されるべきであるから、期間の定めのない労働契約における解雇権濫用の法理の一形態である整理解雇の要件をそのまま当てはめるのは妥当ではない。「やむを得ない事由」があるかについては、期間の定めのある場合の解雇の要件よりも厳格に解される。

まず、1)人員削減の必要性についてみるに、被告が原告を解雇した平成20年12月当時、被告の派遣先である製造業及び人材派遣業の業界全体が不況に見舞われ、被告においても、原告の派遣先であるS社や他の派遣先との間の派遣契約を打ち切られるなど経営的に厳しい状況があったものの、他方で、本件解雇前後を通じて被告の経営状態は健全であったと認められ、本件解雇は未だ余力を残した予防的措置と評価されるのであって、必要性の程度は、やむを得ずにしたというものとはいえない。

次に、2)解雇回避努力義務についてみるに、被告は派遣労働者に対し新規派遣先を確保できなかったことから自主退職を勧めることを基本としたが、自主退職に応じなかった原告に対しては、もともと原告の希望する条件とは合わなかった1社についてのみ新たな派遣先として打診したが、これが不調になるや新規派遣先の紹介を断念し、S社との間の派遣契約解除日と同日に解雇に踏み切ったのであり、解雇回避努力義務を尽くし切ったといえるかについては疑問が残るといわざるを得ない。

3)被解雇者選定の妥当性をみるに、原告のように期間満了前の有期雇用労働者に対する自主退職や解雇を打診したことは認められるものの、他の労働契約の形態の従業員については特段解雇を打診した事実は窺われない。その上、期間の定めのない雇用契約の従業員と比べて期間の定めのある雇用契約の従業員を期間満了前に解雇すべき合理性についても、これを認めるに足りる事情や証拠はないといわざるを得ない。

最後に、4)手続きの正当性を見るに、被告は、新規派遣先を紹介したいけれども紹介できるところはないなどと説明したのみで、原告を解雇するに当たって、派遣労働者の削減を必要とする経営上の理由や解雇した後の処遇など十分説明し尽くしたとまではいえず、解雇手続きについて十分協議したなどの事情も認められない。

以上指摘した事実を総合して判断するに、被告において、整理解雇の要件についてやむを得ない事由があると認められる程度にまで果たしたとはいえず、本件解雇はやむを得ない事由があるとは認められない。したがって、被告の原告に対する解雇は無効である。

3未払賃金及び休業手当の有無並びに額

仮に原告が本件雇用契約上の期間満了まで派遣労働契約に従事していたとすれば、期間満了までに合計50万2975円の賃金の支給を受けられたものと認められ、原告は上記期間労務の提供をしていないとしても解雇は無効であり、原告が債務を履行できないことについて被告に帰責性があるといえるから、被告は原告に対し、民法536条2項及び本件雇用契約に基づき、上記賃金額を支払う義務がある。

原告は、未払賃金について、時間外手当分を含んだ平均賃金によるべきと主張する。しかし、本件派遣労働契約において特段一定の時間外労働を前提としたとする事情は認められないこと、原告においても平成20年11月は時間外労働に従事しておらず、当該月分の賃金には時間外手当がないこと、被告や派遣先を巡る業界においては不況となり、時間外労働が必然的に実施されていたとまではいえないことから、時間外労働が本件雇用契約から原告の債務に必ず含まれていたものとはいえず、債権者である被告の責に帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったものではないから、時間外手当まで含んだ平均賃金によるべきとの原告の主張は採用できない。

4付加金の支払を命ずることの当否

休業手当分を上回る未払賃金については、被告が仮払命令を尊重し仮払が実現していること、その他前記事情によれば、派遣元である被告が派遣先から派遣契約の解消を通告されたことから、派遣労働者に対して派遣労働契約の解消を申し入れることは無理からぬ面がある上、被告も他の派遣先を紹介するなど十分とはいえないまでも一応の努力をしていることが認められることから、本件においては、制裁としての付加金の支払いを命ずる必要は認められない。

5本件解雇における不法行為の成否及び損害の有無

被告は原告に対し、未払賃金を支払う義務があると認めれるが、賃金を支払わないことは本件労働契約における被告の債務不履行に止まり、この債務不履行による損害賠償は遅延損害金をもってなされるところ、この賃金の不払いが直ちに不法行為を構成するものとはいえない。また、派遣元である被告が派遣先から派遣契約の解消を通告されたことから、派遣労働者に対して派遣労働契約の解消を申し入れることは無理からぬ面がある上、被告も他の派遣先を紹介するなど十分とはいえないまでも一応の努力をしていることが認められ、反面、原告を欺いたり脅迫したりするなどして自主退職に陥れるなどの行為は認められず、不法行為を構成するとは認められない。
適用法規・条文
民法536条2項、628条、709条、労働基準法114条、労働契約法16条、17条1項
収録文献(出典)
労働判例1016号5頁
その他特記事項