判例データベース
市場調査等会社営業譲渡賃金減額控訴事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- 市場調査等会社営業譲渡賃金減額控訴事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京地裁 - 平成14年(ワ)第17154号
- 当事者
- 原告 個人3名A、B、C
被告 株式会社 - 業種
- サービス業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2004年11月16日
- 判決決定区分
- 控訴棄却(確定)
- 事件の概要
- 外資系会社日本支社(旧会社)において市場調査等の業務に従事していた控訴人(第1審原告)A、同B及び同Cは、旧会社が被控訴人(第1審被告)に営業譲渡されたことに伴い、平成12年12月1日付けで被控訴人の従業員となった。
被控訴人では、平成11年12月には新人事制度について従業員への説明を開始するなど、その導入を進め、平成12年11月20日、全ての従業員に同制度を適用することを決定した。また、控訴人ら旧会社の従業員については、同年12月1日の採用に際して「新人事制度と就業規則に同意してその遵守に努める」旨の誓約書の提出を認め、控訴人らはいずれもこれに署名した提出した。
平成12年12月1日、控訴人Aはバンド5、同Bはバンド3、同Cはバンド5に位置付けられたことにより、基本給は旧会社の支給額と同額かそれを上回ることとなった。しかし、その後の人事考課で、控訴人AはD評価で1万8000円、同BはD評価で6500円、同CはC評価で11970円の降給となった。そこで控訴人らは、新会社への営業譲渡に際しては、旧会社と同一の労働条件を内容とする労働契約が引き継がれているとして、降給の無効を主張すると共に、本件降給は不当労働行為に当たるとして、差額賃金の支払を求めて提訴した。
第1審では、控訴人らに対する降給の措置は特に不合理ないし不公正とは認められないとして、控訴人らの請求を棄却したため、控訴人らはこれを不服として控訴に及んだ。 - 主文
- 1本件控訴を棄却する。
2控訴人らが当審において拡張した請求をいずれも棄却する。
3控訴費用は控訴人らの負担とする。 - 判決要旨
- そもそも使用者がその営業を他に譲渡した場合には、使用者と営業譲渡の対象とされた業務に従事していた被用者との間の労働契約上の地位は、営業譲渡当事者間において特段の定めをしない限り、譲渡会社に承継され、この場合の労働条件については、譲受会社の就業規則の定めその他の労働条件が転籍した被用者に当然に適用されるものではなく、転籍した被用者にその適用がされるためには、当該被用者がこれらの労働条件に同意することが必要と解するのが相当である。
これを本件についてみるに、旧会社と被控訴人との間の平成11年8月31日付け営業譲渡契約書には、旧会社が全ての従業員を引き続き雇用し、これらの従業員は、旧会社と被控訴人との間のサービス契約に従って、被控訴人の営業譲渡後の小売インデックス業務に従事することとし、被控訴人は、労働関係法令が許容する範囲で、従業員に関していかなる責任も権限も引き受けないものとされていることが認められ、被控訴人が旧会社との間で、営業譲渡の対象とされた業務に従事する従業員との間の労働契約上の地位を承継しない旨の定めがあると見られなくもない。しかしながら、他方で、上記サービス契約は、平成12年12月1日、旧会社と被控訴人との間で終了する旨の合意がされていること、被控訴人は同年11月20日、旧会社の全従業員を受け入れるとの基本方針を示しており、現に自ら希望して退職した3名を除く全従業員に対し、被控訴人におけるバンドの格付と新基本給を記載した書面を交付し、平成12年12月1日付けで転籍させていること、旧会社の退職金は一定のポイントを換算した上で被控訴人に承継させていることが認められ、これらの事情に照らすと、被控訴人は遅くとも平成12年11月20日までに、改めて旧会社との間で、同年12月1日付けで営業譲渡の対象とされた業務に従事する従業員との間の労働契約上の地位を承継する旨の合意をしていたと認めるのが相当である。そして、転籍を希望する旧会社の従業員は、全員、本件誓約書を提出することによって、新人事制度の下でのバンド及び新たな基本給に同意するとともに、新人事制度を規定した新給与規定等の遵守に努める旨の意思を表明しており、新給与規定等に対して個別的な同意を与えていたことが認められるから、控訴人らを含む転籍者の労働条件は、新給与規定等によって規律されることになると解すべきである。
これに対し控訴人らは、被控訴人が新人事制度の下では旧会社における給与額を減額することはないと明言し、新人事制度について今後も継続協議とすることを了承していたことから、少なくとも労使協議がまとまるまでは基本給の減額はないとの認識の下に本件誓約書を提出したにもかかわらず、労使協議が行われないまま基本給が減額されたとして、本件誓約書による新給与規定等に対する同意は錯誤に基づく意思表示であって無効である旨主張する。しかしながら、被控訴人において目標設定による人事評価制度を導入することは平成11年12月15日付けで発表され、旧会社の従業員に対して説明会が開催されるとともに、従業員の質問に対する回答書が配布され、これらの経過の中で人事評価が昇給に反映されることが明らかにされていること、被控訴人は控訴人らが加入する労働組合と旧会社との団体交渉においても、この制度による評価が賃金に反映する旨を述べており、これに組合員が反対していたこと、新人事制度の説明会の資料や給与規定においても、同制度の下では降給となる場合もあることが示されていたこと、控訴人A自身、新人事制度の下で将来基本給が下がる可能性があることを容認できないとして、団体交渉の対象として継続的な協議を要求していたことが認められる。したがって、控訴人らは、新人事制度下においては、導入時の基本給こそ従前の金額が維持されるものの、その後の評価如何によっては降給もあり得ることを当然の前提として認識した上で本件誓約書を作成したと認めるのが相当であるから、控訴人らの錯誤の主張は採用できない。以上によれば、新給与規定等は、控訴人らに対しても効力を有するというべきである。
控訴人らは、成果主義による給与制度を内容とする新給与規定等の適用を受けるものであるところ、このように労働契約の内容として、成果主義による給与制度が定められている場合には、人事考課とこれに基づく給与査定は、基本的には使用者の裁量に任せられているというべきである。しかしながら、ある従業員が、給与査定の結果、降給の措置を受け、当該降給措置が不当労働行為に当たると認められるときは、公序良俗に反するものとして無効になると解される。控訴人らはいずれも、旧会社における従前の資格・等級に比して一つの上位のバンドに位置付けられたことが認められ、バンドの格付において、控訴人らのみが不利益に取り扱われたと認めることはできない。また、新人事制度の手続きに則って控訴人らに対する人事考課が行われたところ、控訴人らについて低い評価がされたのは、控訴人らが上司との面談を拒否したため、上司によって設定された目標やそのウェイトについて控訴人らの意見が反映されなかったことや、もともと従前の資格・等級に比して一つ上のバンドに位置付けられたため、より高い目標の達成を求められたことによるものと認められ、現に、控訴人らが所属する労働組合の組合員の中には高い評価を得てバンドの昇格や昇給の措置を受けた者も複数いることも勘案すれば、控訴人らに対し、労働組合の組合員であることを理由に不利益な人事考課をされたとは認められない。そうすると、控訴人らに対する本件降給措置が不当労働行為として無効となると解することはできない。 - 適用法規・条文
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- 収録文献(出典)
- 労働判例909号77頁
- その他特記事項
- 東京地裁 平成14年(ワ)17154号:2011081951
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
---|---|---|
東京地裁 - 平成14年(ワ)第17154号 | 棄却(控訴) | 2004年03月31日 |
東京高裁 - 平成16年(ネ)第2453号 | 控訴棄却(確定) | 2004年11月16日 |