判例データベース
H社取締役降格処分控訴事件(パワハラ)
- 事件の分類
- 職場でのいじめ・嫌がらせ
- 事件名
- H社取締役降格処分控訴事件(パワハラ)
- 事件番号
- 東京高裁 - 平成16年(ネ)第3716号、東京高裁 - 平成16年(ネ)第5433号(附帯控訴)
- 当事者
- 控訴人・附帯被控訴人 株式会社
被控訴人・附帯控訴人 個人1名 - 業種
- 製造業
- 判決・決定
- 判決
- 判決決定年月日
- 2005年01月19日
- 判決決定区分
- 控訴棄却、附帯控訴認容(確定)
- 事件の概要
- 控訴人・附帯被控訴人(控訴人)は、平成16年10月、内燃機関に関する機械器具の輸出入、製造販売等を目的とする米国親会社の100%出資による子会社である第1審被告(被合併会社)を合併してできた会社であり、被控訴人・附帯控訴人(被控訴人・第1審原告)は昭和61年3月に被合併会社に入社し、平成12年4月に営業担当取締役に昇進した者である。
平成12年2月にTが被併会社代表取締役に就任し、各部門長が一堂に会するSMC会議を毎週開催することとしたところ、被控訴人はT社長に対し、テレビ会議、代理出席の容認を提案したが、Tはこれを拒否した。Tは被控訴人に対し、顧客別の利益に関するレポートをSMC会議に報告するよう求めたが、被控訴人は本来の業務ではないなどとしてこれに応じなかった。Tは、当時取締役工場長であったDに販売戦略の立案等を担うポストに兼務させたところ、被控訴人はSMC会議の場で、営業に関するものは営業部で責任をもって行いたいと主張した。Tは、平成12年9月1日、これまで営業経験のないJ常務を営業の統括責任者に任命し、更に親しいFを入社させて、被控訴人をIAM担当営業部長とした(第1次降格処分)。被合併会社は、平成13年10月1日、被控訴人をI営業部主管(課長職)に降格させた(第2次降格処分)。
被合併会社は、平成14年1月1日に管理職人事制度を改訂し、同日被控訴人を営業部専門職に任命し、年俸を1400万円から1200万円に減給した。また同年4月1日、被合併会社は被控訴人に翻訳の業務を命じ、それに伴い年俸を1000万円に減給した(第3次降格処分)。また、同年12月24日に被控訴人が専門職定年年齢に達したため、被合併会社は平成15年1月1日、被控訴人に試作管理課の現業職を命じ(本件第4次降格処分)、年収を643万2000円に減給した。更に被合併会社は、同年5月2日、被控訴人に対し、A社F営業所での勤務を命じ、月額給与を53万6000円から48万6000円に減給した。
これに対し被控訴人は、第1次ないし第4次降格処分は、社会通念上著しく妥当性を欠き、人事権の濫用として無効であるとして、減給前の給与、賞与額と、実際の支給額との差額の支払を求めるとともに、降格処分、減給処分により著しい精神的苦痛を被ったとして、慰謝料100万円を請求した。
第1審では、第1次ないし第4次降格処分及びそれに伴う減給処分はいずれも人事権の濫用に当たり無効であるとして、減給前の賃金との差額賃金及び慰謝料100万円の支払を命じたことから、被合併会社はこれを不服として控訴に及んだ。そして、控訴審の最中の平成16年4月、被合併会社は控訴人に吸収合併されたことから、本件訴訟に関する被合併会社の権利義務は控訴人に承継された。 - 主文
- 1 本件附帯控訴(これに伴う当審における請求の拡張を含む。)及び当審段階で生じた控訴人mp合併に基づき、原判決を次のとおり変更する。
「1 控訴人は、被控訴人に対し、金1510万0500円及び
(1) 内金13万5625円に対する平成14年1月21日から、
(2) 内金13万5625円に対する同年2月21日から、
(3) 内金13万5625円に対する同年3月21日から、
(4) 内金26万0625円に対する同年4月21日から、
(5) 内金26万0625円に対する同年5月21日から、
(6) 内金39万6250円に対する同年6月15日から、
(7) 内金26万0625円に対する同年6月21日から、
(8) 内金26万0625円に対する同年7月21日から、
(9) 内金26万0625円に対する同年8月21日から、
(10) 内金26万0625円に対する同年9月21日から、
(11) 内金26万0625円に対する同年10月21日から、
(12) 内金26万0625円に対する同年11月21日から
(13) 内金52万1250円に対する同年12月7日から
(14) 内金26万0625円に対する同年12月21日から、
(15) 内金34万9625円に対する同15年1月21日から
(16) 内金34万9625円に対する同年2月21日から
(17) 内金34万9625円に対する同年3月21日から
(18) 内金34万9625円に対する同年4月21日から
(19) 内金109万6250円に対する同年6月7日から
(20) 内金39万9625円に対する同年5月21日から
(21) 内金39万9625円に対する同年6月21日から
(22) 内金39万9625円に対する同年7月21日から
(23) 内金39万9625円に対する同年8月21日から
(24) 内金39万9625円に対する同年9月21日から
(25) 内金39万9625円に対する同年10月21日から
(26) 内金39万9625円に対する同年11月21日から
(27) 内金87万1250円に対する同年12月6日から
(28) 内金39万9625円に対する同年12月21日から
(29) 内金39万9625円に対す平成16年1月21日から
(30) 内金39万9625円に対する同年2月21日から
(31) 内金39万9625円に対する同年3月21日から
(32) 内金39万9625円に対する同年4月21日から
(33) 内金39万9625円に対する同年5月21日から
(34) 内金39万9625円に対する同年6月21日から
(35) 内金87万1250円に対する同年6月25日から
(36) 内金39万9625円に対する同年7月21日から
(37) 内金39万9625円に対する同年8月21日から
(38) 内金39万9625円に対する同年9月21日から
(39) 内金39万9625円に対する同年10月21日から
各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 控訴人は、被控訴人に対し、金100万円及びこれに対する平成14年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
2 本件控訴を棄却する。
3 第1、2審の訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は、控訴人の負担とする。 - 判決要旨
- 1 当裁判所も、被合併会社は、従業員である被控訴人に対して有する人事権を濫用して、本件第1次ないし第4次降格処分と減給処分を行ったものであって、これらの各処分は、いずれも無効であって、被合併会社は、被控訴人に対し、本件第1次減給処分前の賃金と本件第1次ないし第4次減給処分に従って現実に支給した賃金との差額を支払う義務があり、これは、本件附帯控訴に伴う当審における拡張後の請求に係る部分についても同様であり、また上記人事権の濫用は、被控訴人に対する不法行為を構成し、被合併会社は、被控訴人に対して慰謝料を100万円を支払うべき義務があるところ、控訴人は、被合併会社を吸収合併してその権利義務を包括的に承継したことにより、被控訴人に対して上記義務を負担したものであると判断する。
2 本件第1次降格処分の有効性について
被合併会社の株主総会で被控訴人が取締役に選任された事実は認められないから、被控訴人は被合併会社の取締役であったとはいえない。しかしながら、少なくとも被合併会社においては、平成12年4月1日時点において、被合併会社が被控訴人に対し営業担当取締役に任ずるとともに、合計87万5000円の月次給与を支給するという、営業担当取締役相当の待遇を与えることとして、被控訴人がこれを了承したことは当事者間に争いがない。そうしてみると、被合併会社において、被控訴人を営業担当取締役相当の待遇とすることについて被控訴人に告知し、被控訴人とこれを合意したことは動かせないところである。
控訴人は、本件第1次降格処分の正当性を判断する上で、被控訴人が被合併会社への理解及び協力姿勢などの高い資質を持つべきであるから、このような姿勢が見られない以上、取締役不適格者と判断されても仕方がない旨主張する。しかしながら、Tは平成12年2月1日に被合併会社の代表取締役に就任し、同年3月からSMC会議を始め、同年4月ないし6月頃には被控訴人には営業を任せておけないと判断し始めたこと、同年7月には、被控訴人が意欲的かつ協力的にならない限り、被合併会社の経営チームでは必要な人物とはいえない旨のメールをBに対し送っていること、同年8月26日のSMC会議では、J常務取締役を営業統括とする旨の人事説明を行い、同年9月1日に被控訴人をOEM担当営業部長にする旨の人事発令をしていること、T自身が被控訴人を取締役不適格者と判断したのは自分であると供述していること、そして、この間特に営業の業績において、被控訴人の資質や能力を疑わせるような具体的な事跡ないし問題が生じたことはなかったことが認められ、これらを総合すると、Tは代表取締役就任後、僅か3ヶ月ないし5ヶ月の間に、主にSMC会議における被控訴人の意見ないし発言の仕方やその態度から、被控訴人には営業担当取締役相当の待遇を受ける適格性がないとい判断し始め、SMC会議を始めて約6ヶ月後には第1次降格処分を行ったと認めざるを得ないところ、被合併会社の就業規則に照らしても、そのような事由のみからそのような専断的決定が許されるものと認むべき規定は存在しないのみならず、一般的に考えても、被合併会社のような会社の事業の目的、職制等の下では、そのような短期間で営業担当取締役相当の待遇を受ける資質及び能力の有無が十全に判断し得るとは到底解されないことからすると、Tが人事権を濫用したものと認めるべきである。
控訴人は、当審においても、SMC会議における被控訴人の非協力や「お客様会議」への非協力、被控訴人が月報を提出しないことなど、被控訴人には問題がある旨縷々主張するが、会議は本来自由な討議の場であって、その方法論を含めて、被控訴人がTの考え方や判断に反する意見を開陳したり、Tを尊重する態度を示さなかったりするなどの挙動をしたからといって、そのことが直ちに営業担当取締役相当の待遇を受ける資質や能力がないことに結びつくものとはいえない上、控訴人が主張するような被控訴人の「非協力」行為により、被合併会社に不利益な結果が現実に発生したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、Tが強力な指揮の下に、給与や職制を含めた人事制度及び組織変更を推進する形でSMC会議を進めていることが認められる。この間「お客様会議」の持ち方や新管理職人事制度について被控訴人がTと対立する意見を述べていることが認められることからすると、Tが自己に反発する被控訴人に対する意図的な対抗措置として本件第1次降格処分を行ったものと推認されるのである。
3 その余の本件各降格処分の有効性及び本件各減給処分の有効性について
当審において全証拠を検討しても、その余の本件各降格処分がいずれも人事権を濫用したものであり、無効と判断するのが相当というべきであり、したがって、第1次降格処分を含め本件各降格処分が無効である以上、本件各減給処分も無効というべきである。
4 附帯控訴に伴う当審における拡張後の請求について
被合併会社は、被控訴人に対し、本件第1次減給処分前の賃金として、年俸として1417万円を支給しており、それを16等分してうち12を月次給与相当分として、その余を2ずつ毎年6月及び12月の相応する日に賞与相当分として支払っていたこと、その後の本件第1次ないし第4次減給処分が無効であることはいずれも前示のとおりであるから、被合併会社は被控訴人に対し、毎月20日限り88万5625円をそれぞれ月次給与相当分として、また毎月6月及び12月に賞与相当分として177万1250円を支払うべきところ、被合併会社は被控訴人に対して、差額に相当する金額を支払う義務がある。 - 適用法規・条文
- 民法709条
- 収録文献(出典)
- [収録文献(出展)]
- その他特記事項
顛末情報
事件番号 | 判決決定区分 | 判決年月日 |
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東京地裁 - 平成14年(ワ)第11410号 | 認容(控訴) | 2004年06月30日 |
東京高裁 - 平成16年(ネ)第3716号、東京高裁 - 平成16年(ネ)第5433号(附帯控訴) | 控訴棄却、附帯控訴認容(確定) | 2005年01月19日 |