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E生命保険解雇仮処分事件(パワハラ)

事件の分類
解雇
事件名
E生命保険解雇仮処分事件(パワハラ)
事件番号
東京地裁 - 平成元年(ヨ)第2274号
当事者
債権者 個人2名 A、B
債務者 生命保険株式会社
業種
金融・保険業
判決・決定
決定
判決決定年月日
1990年04月27日
判決決定区分
却下
事件の概要
 債務者は、昭和61年7月に日本国内及び諸外国において生命保険事業等を目的に設立された会社であり、債権者らはいずれも債務者の設立と同時に営業社員として入社し、昭和63年2月に、債権者Aは池袋支社第二営業所長、債権者Bは同第一営業所長となった。

 債権者らが営業所長であった各営業所の営業成績は、全営業所中最下位に近いほど低いことから、債務者は債権者らを平成元年7月に池袋支社長付営業社員に降格(本件降格)させ、営業所長としての手当を減額した。債権者らは本件降格後の平成元年7月から10月まで営業活動を一切行わなかったとして、債務者は同年10月27日、不足分の解雇予告手当26日分を支払って債権者らを解雇した。

 これに対し債権者らは、活動記録の作成の指示はなかったこと、債権者らが直行直帰を繰り返していたことは虚偽であること、債権者らは営業活動を行っており、契約締結に至っていないのは新規の顧客の開拓が困難だからであること、支社長付の発令を受けた時には職務の内容についての指示は全くなく、債務者は仕事を与えずに支社内のさらし者にしたことなどを挙げて、雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める解処分の申立てをした。
主文
1 本件申請をいずれも却下する。

2 申請費用は債権者らの負担とする。
判決要旨
1 本件降格について

 役職者の任免は、使用者の人事権に属する事項であって、使用者の自由裁量に委ねられており、裁量の範囲を逸脱することがない限りその効力が否定されることはないと解するのが相当である。これを本件についてみると、債務者は本件業績表の各項目の成績によって各営業所長の評価を行い、これに社長等の各営業所長との面談の結果や各支社長からの各営業所長の職務遂行状況についての報告を加味して総合的に営業所長としての適性を判断した結果債権者らを含む4名の営業所長について能力が劣ると判断して所長代理に降格する旨を通告し、債権者らの承諾を得られないまま債権者らを所長代理とした場合の受入れ営業所側の不都合を考慮して本件降格を行っており、これによれば本件降格について債務者がその裁量権を逸脱したものとは認められないといわなければならない。

 債権者らは、営業所長の評価を行う場合には各営業所長の条件を考慮に入れて比較をしなければならないにもかわらず、債務者は業績表によって機械的に評価を行っており、その評価は公正とはいえないと主張する。しかし、役職者についてどのような評価基準でその成績評価を行うかは使用者の裁量に委ねられているものと解されるところ、本件業績表の評価項目自体が著しく不合理であることについての疎明はない。また債権者らの営業所は、同じ時期に営業を開始した池袋第三及び第四の各営業所長については評価が低いものでないことが一応認められ、本件降格に関しての各営業所長の能力評価が機械的に行われたものではなく、本件降格が使用者の有する裁量権を逸脱してなされたものとは認められない。また債務者の就業規則には懲戒処分の一種類として降格処分が規定されていることが一応認められるが、懲戒処分としての降格処分が認められているからといって、使用者の人事権に基づく降格処分の行使ができなくなると解するのは相当でない。したがって、本件降格が債務者の就業規則及び給与規定に違反するものとはいえなから、本件降格は有効なものと課される。

2 本件解雇の効力について

 債権者らは本件降格から権件解雇までの3ヶ月半以上の間に新規の生命保険契約を1件も取っておらず、営業活動をほとんど行わなかったことが一応認められる。これに対して債権者らはかつての顧客に対して独自に営業活動を行ってきたのであり、契約締結に至っていないのは営業所長就任と同時に一切の顧客を他に譲っていて新規の顧客の開拓は極めて困難だからである旨主張するが、平成元年4月から6月までの新入の営業社員27名のうち1ヶ月以内に新規の生命保険契約を獲得したものが23名であること、債権者らは営業社員当事は平均以上の成績を上げていたことが一応認められ、これによれば3ヶ月半以上の間に債権者らが契約を1件もとっていないということは、債権者らは本件降格を不服として営業活動をほとんど行っていなかったものと一応推認できる。

 債務者の就業規則には懲戒解雇事由が定められ、その一つとして職務命令違反(正当な理由なく、会社又は上司の命令に従わなかった場合)が挙げられていることが一応認められ、債権者らの行為、ことに3ヶ月半以上にわたって営業活動をほとんど行っていなかったことは懲戒解雇事由の業務命令違反に当たると解するのが相当である。
適用法規・条文
収録文献(出典)
[収録文献(出展)]
その他特記事項